龍井蝦仁
longjing xiaren
2011が良い年だったと言える人は少ないのではないでしょうか。
学生時代に、曲がりなりにも原子物理学をかじった経験のある私にとって、福島第1の事故は、まさに痛恨。原子力の怖さは知っていたし、いつかは大事故が起きるだろうとは思っていました。そして、実際に起きてしまった… 日本が原発大国になっていくのを傍観していた自分に怒りがこみ上げています。
そんな中で、2012年、MSLABの干支の料理は、『龍井蝦仁(ロンジンシャーレン)』です。龍井とは中国杭州地方名産の緑茶・龍井茶のこと。杭州の名泉・龍井泉は、どんなに干ばつが続いても枯れないことから、泉の奥に龍が棲んでいるという伝説があります。龍井泉附近で作られているのが龍井茶です。
さて、龍井蝦仁。龍の棲む泉と、おめでたい海老が一体となった、ハレの日の料理です。春の新茶の季節には、摘み立ての新芽で作るそうですが、普通は、飲用の茶葉を使います。
レシピにいきましょう。
海老は殻をむき、塩、酒、片栗粉で下味を付けます。この時、重曹を少し加えると、プリプリ感が出て、本格的な仕上がりになります。
龍井茶は茶殻を使うのですが、風味を残したいので、出すのは一煎だけ。この一煎を龍井蝦仁とともに味わうのも格別です。
中華鍋に熱湯を沸騰させ、下味を付けた海老を軽く茹で上げます。次に、にんにくと根生姜を油で炒め、香りが出たら、茹でた海老を投入。塩、紹興酒、鶏ガラスープ、龍井茶を加え、水分がほぼなくなるまで炒めます。
品の良い龍井茶の苦みが効いた逸品の完成です。
考えてみれば、お茶も原発事故でひどい目に合いました。遠く離れた静岡にまで、放射性セシウムが飛散し、それを新茶が取り込んでいた… 元来、お茶はカリウムが豊富な健康飲料です。経験的にそれを知っていた東アジアの人々は、いにしえの昔から愛飲してきました。ところが、茶木は、栄養分のカリウムと間違えて放射性セシウムを取り込んでしまう。このことだけを見ても、原子力が、自然の営み、人間の営みと相容れないのは明らかです。
2012年元旦。今年は、迎春という言葉を使うのを止めました。今、思うのは、春は迎えるものでもなく、待つものでもなく、みずから作り出すしかないのだと。龍井茶の苦みもまた、それを教えているような気がします。