海鼠の海鼠腸和え
Sea cucumber
「mslabの干支のお料理」も二周目。2008年は最大の難関と思われる子年を迎えました。十二年前は「ネズミの糞」という名を持つタイの激辛唐辛子で乗りきりましたが、他に「ねずみ」に関連する料理や食材は…
ありました!ナマコです。英語でSea cucumber、中国語で海参、日本語では海鼠と書くのです。ネズミというには、いささか動きがゆったりとしていますが、海の鼠なのです。
「キモイ」「初めて食べた人の気が知れない」などと、謂われ無き罵詈雑言を浴びせられている海鼠ですが、実は古くから食材として利用されてきました。
中国では、主に干海鼠を食し、滋養、補血、降圧、肥満防止の効用があるとされます。
日本では、何と言っても生食。地方によっては、年末年始の食卓に欠くことのできない料理になります。江戸時代に、雲丹、カラスミと並ぶ三大珍味としてあげられた海鼠腸(コノワタ)は、海鼠の内蔵だけを取り出し塩辛にしたものです。
さて、今年の料理は「海鼠の海鼠腸和え」です。2007年秋に岡山の料理屋で出会い「これは究極の海鼠料理だ!」と叫んでしまいました。いわゆる「とも和え」の部類で、味付けは海鼠腸の塩分だけ。
海鼠酢(二杯酢や三杯酢で海鼠の身を食す)も美味しいものですが、口の中に広がる磯の香りは「海鼠の海鼠腸和え」が圧倒的。特に日本酒にはベストマッチの肴となります。
レシピは、とにかく新鮮な海鼠を手に入れることから始まります。内蔵を取り出し塩を振って塩辛にしますが、さすがに生臭みが強いので、一晩以上は置きたいところです。従って、この一日目の海鼠の身は海鼠酢で頂くことになります。
二日目に、また新鮮な海鼠を手に入れて、この身を前日に作っておいた海鼠腸で和えるわけです。海鼠腸は少量しかありませんから、身の一部だけを使います。シンプルな料理ですが、時間と手間はかかるのです。盛った時に、身よりも海鼠腸が多く見えるくらいでないと「海鼠の海鼠腸和え」の醍醐味は味わえません。
尚、「振り海鼠」と言って、海鼠の身に多めの塩を振って笊をかぶせて揺すり、ぬめりを取ると同時に身を絞める下処理がありますが、この料理に関しては不要です。身が固くなりすぎると海鼠腸との馴染みが悪くなるからです。少量の塩を手にとって、海鼠をこすり、水で洗い流す程度が良いでしょう。
海鼠は素手で触ると、そこから溶けてしまうという、信じられないくらいデリケートな生き物です。だからこそ、太古の昔から、誰にも見つからないように海の底にじっと佇んできたのでしょう。そんな海鼠に温暖化の進む地球の変化はどう見えているのでしょうか… 海鼠が伝えてくれる磯の香りは、すべての生命の母なる海の香りに他なりません。