『ハムレット』ナショナル・シアター・ライブ2026

ナショナル・シアター・ライブ2026『ハムレット』(​演出:ロバート・ハスティ)を映画館のライブビューイングで観てきました。2025年9月25日から11月22日にかけてロンドンのリトルトン劇場で上演されたものです。
映画で舞台で、『ハムレット』はいくつか観ていますが、これは最高にスタイリッシュでした!
美術、照明、音楽… すべてお洒落。スピード感のある演出にも舌を巻きました。
時代は一応現代に置き換えてますが、そこは微妙で、シェークスピアの時代感もあります。

ハムレットを演じるのはスリランカ出身のヒラン・アベイセケラ(Hiran Abeysekera)。
コロンボで生まれ青年期に渡英、王立演劇アカデミーを経てロイヤル・シェイクスピア・カンパニーなどでキャリアを積んだ。2022年には、『ライフ・オブ・パイ』でオリヴィエ賞演劇部門最優秀男優賞を受賞している。
有色人種がイギリスでハムレットを演じるということで大きな話題になっていたが、それを話題にすること自体が差別的だろ! と私は冷静に構えていた。日本では、平幹二朗、真田広之、市村正親、藤原竜也など蒼々たる面々が演じてきた。

今回驚かされたのはホレイシオとオフィーリアのキャスティングだ。
ホレイシオはハムレットの無二の親友。劇中、最初から最後までハムレットから信頼を寄せられている。エンディングの悲劇を歴史に語り継ぐようハムレットから託される重要な役でもある。通常は男優が演じる。
それが今回のホレイシオは女性なのだ! 男装した女優ではない。怒られるの覚悟で書くなら、“おばさんキャラ”の女性。これはまったく予想外だった。
演じるのはテッサ・ウォン(Tessa Wong)。中国系イギリス人女優だ。本来、穏やかそうな顔立ちに見えるが、悲劇の進行に従って見届け人としての辛さを積み増す芝居は見事だった。

オフィーリア。言わずと知れたハムレットの恋人だ。演じるのはフランチェスカ・ミルズ(Francesca Mills)。小人症の女優だ。
小人症の俳優と言えば、極私的には、『天井桟敷』の日野利彦がまず思い浮かぶ。寺山修司監督の映画に助監督として関わっていた頃、仲良くしていた。皆に、「日野チャン」と呼ばれる気兼ねない存在だった。個人的には、『草迷宮』の西瓜男が懐かしい。
で、フランチェスカ・ミルズだ。日野チャンもそうだったが、小人症の人には独特の動きの速さがある。ちょっと前傾してダァーッと走り出すと、あっという間に下手袖から上手袖まで駆け抜けてしまう。
速い!速いのだ。
身のこなしだけではない。表情、セリフ、どれも素晴らしく印象に残った。
フランチェスカ・ミルズの好演はこの芝居の大きな見どころと言ってよい。

ホレイシオとオフィーリアのキャスティングに衝撃を受けながら、深~く反省した。
いままで、なんとステレオタイプ化した役柄で芝居を観ようとしていたのかと。
そこにあったのは、“らしさ”による呪縛だ。無意識のうちに、ホレイシオらしさ、オフィーリアらしさを求めていた。“男らしさ”“女らしさ”にも通じる話だ。
そのことに気付けただけでも、この『ハムレット』を観た価値は十分過ぎるほど。すべてとは言わないが、“らしさ”をかなり突破してる舞台でした。

 

追記的に書くと…
ハムレットを観るといつも、「結局、皆死んじゃうのか」「ハムレットとホレイシオの友情の裏付けがない」「ハムレットとオフィーリアって、お互いのどこに惹かれ合ってたの?」という印象が残る。シェークスピアに喧嘩を売ってもしょうがないのですが(笑)。
それは今回も同じだったが、スタイリッシュさと驚きのキャスティングが、それを忘れさせるほどでした。