『エレノアってグレイト。(Eleanor the Great)』主演女優は96歳!

主役は94歳の老婦人エレノア。演じるは御年96歳!のジューン・スキッブ。これだけでも凄い映画だ。
監督はなんとスカーレット・ヨハンソン。一節によると、「ハリウッドで今一番稼げる女優」だ。昨年、『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』と『ジュラシック・ワールド/復活の大地』を観た。
わたし的には憧れのスカーレット・ヨハンソンが長編映画を初監督! 観るしかない!

エレノアは亡夫がユダヤ人で結婚を機にユダヤ教に改宗したという設定。フロリダでルームメイトのベッシーと暮らしている。
ベッシーはホロコーストのサバイバーだ。演じるのは82歳のリタ・ゾーハー。ルーマニアの強制収容所で生まれた。ゾーハー自身もホロコーストのサバイバーなのだ。

冒頭、エレノアとベッシーはスーパーマーケットで買い物。コーシャ(ユダヤ教の戒律に従った食品)のピクルスを買おうとするが、品切れ。「ピクルスなんてどれも同じでしょ」という若い店員にエレノアは小さな嘘も紛れ込ませた難癖を付け、まくし立てる。“大阪のおばちゃん”だ(笑)。
ユーモア溢れるこのシーンだけで、エレノアのキャラクター付けは完了! 見事だった。
数シーンが進む内に、ベッシーが背負う辛い過去も見えてくる。
“ホロコーストのサバイバー”と“大阪のおばちゃん”という凄い組合せだ。

12年間親友でルームメイトだったベッシーの死。エレノアは娘と孫が暮らすニューヨークに引っ越してくる。
ちょっと出かけたある日、「ホロコースト生存者の会」に迷い込んでしまう。そこでエレノアはベッシーから聞かされていたサバイバーとしての体験を自分のこととして語ってしまう。成り行きで出てしまった嘘。そこから始まる大騒動… というのが本作の基本的なストーリーだ。「嘘から出たまこと」と言うとちょっとニュアンスが違うかも知れないが、嘘と真実が複雑に絡み合っていく。

ホロコースト絡みの重いテーマだが、映画はエレノアのある種行き当たりばったりな思考と行動を優しく見守る。だから素晴らしく心温まる作品になっている。

スカーレット・ヨハンソンの監督としての資質は?
とても品の良い構成と演出だ。普通なら重く描く場面(例えばベッシーの死)をサラッと描いて、そのことによるエレノアの心の痛みに注目していく。ウェス・アンダーソンから学んだ手法ではないか。
アメリカ映画としては小品の類。撮影スタジオを使わず、ほとんどをニューヨークの街でロケ撮影したようだ。ロケだからこそのリアリティ。ニューヨークの空気を撮りたかったのだろう。スカーレット・ヨハンソンのこだわりは成功している。

俳優たちはどうか?
二人の老女優の名演もさることながら、脇を固めた俳優たちの演技にも感動した。
エレノアの“告白”を追いかけるジャーナリスト志望の学生ニナを演じたエリン・ケリーマン。
その父親でニュースキャスターのロジャーはキウェテル・イジョフォー。
そして、エレノアの娘リサを演じたジェシカ・ヘクトの名演が心に残った。高齢の母 vs 中高齢期の娘。至るところで繰り返される母娘の衝突。ある!ある!ある!ある! 素晴らしいリアリティだった。

この映画を観たその日、美輪明宏の訃報が伝えられた。91歳だった。美輪さんもまた長崎原爆という大虐殺からのサバイバーだ。
寺山修司『毛皮のマリー』の中の美輪さんのセリフを思い出した。
「世界は何でできているか考えたことある? 表面は大抵ウソ。だけど中はホント」。

う~ん、いろいろな意味で心の残る映画でした。