『オールド・オーク(THE OLD OAK)』はケン・ローチ自身だ

外で呑むときは9割方ひとり呑みだ。「1人で呑んでて楽しい?」とよく聞かれるが、「私にとって呑み屋は社会の窓だから」と答えることにしている。
カウンターに座ってオーナーシェフや女将さん、板前さんなどとよもやま話を…というのが基本スタイル。耳ダンボにして酔客同士の会話を聴いて、「なるほどね」と思うこともある。常連同士のコミュニティーには加わらない。

『オールド・オーク(THE OLD OAK)』を観てきました。
ケン・ローチ監督みずから、「おそらく最後の映画になる」と語っている。2023年の公開時に87歳になっていた。
“THE OLD OAK”は、主人公 TJ バランタインがイギリス北東部の町で営むパブの名前。日本流に言えば、“居酒屋 樫の木”といったところだ。
町がシリアからの難民を受け入れ始めたことで、ただでさえ廃れかけていた炭鉱町に、差別、分断という空気が漂い始める。一方では、寛容と共生の動きも。
そこここで諍いが起き、小さな暴力事件も。

ケン・ローチは、コミュニティーの縮図とも言えるパブを起点に住民の足もとから差別と共生を見直そうとしている。
ストーリーはTJとシリア難民の女性ヤラを中心に展開する。排外的な考えにのめり込んでいるパブの常連客や人種差別に反対し共生のために努力する住民たちが絡んでくる。
THE OLD OAKは町で唯一のパブだ。店主のTJは進歩派だが、平気でヘイトを口にする常連客たちも、そこでくだを巻くしかない。酒が入るから余計に過激になる。
町を覆う対立、分断がパブのホールでさらに濃縮される。

映画としては正統派のしっかりした造りだ。奇をてらった演出やエンタメを意識した場面は一切ない。
話は全体的にゆったりと流れるが、すべてのシーンがピリピリするほどの緊張感に満ちていた。さすがだ。
店の名前の“THE OLD OAK”は頑固に希望を棄てないTJの生き方の比喩でもあるのだろう。
さらに、TJにはケン・ローチ自身が投影されている。
“THE OLD OAK”はケン・ローチでもある。

勧善懲悪の映画ではない。出口の見えない辛さもある。
ただ、ケン・ローチは多文化コミュニティーに向けてのかすかな希望も見せてくれた。
“Eat Together, Stick Together(When you eat together, you stick together)”という言葉が象徴的に使われる。「共に食べれば、共に生きられる」。
希望を持て! 希望を棄てるな!

 

追記:
冒頭に書いた、耳ダンボにして酔客同士の会話を聴いた感じ? 否、そんなレベルではありません。
ただ、居酒屋(パブ)が映画の舞台として興味深いのは間違いありません。人の本性が出るから。
日本映画でも、黒澤明『用心棒』、小林正樹『いのちぼうにふろう』など数々の名作があります。