『ダイヤモンド 私たちの衣装工房(Diamanti)』フェルザン・オズペテク監督

2024年にイタリア国内で大ヒットした『ダイヤモンド 私たちの衣装工房(Diamanti)』。
映画や舞台の衣装を製作する衣装工房が舞台です。
日本で映画・演劇の衣装部と言えば、東京衣装とか第一衣装、京都衣装(現東宝コスチューム)といった大手が撮影所や放送局に出張所を持って棲み分けてますが、イタリアの映画・演劇の衣装文化を支えるのは小規模独立系の「サルトリア(衣装工房)」です。

本作のサルトリア、経営者姉妹が10人ほどのお針子を抱えている。時は1974年。
映画は女性たちの群像劇。タイトルの“Diamanti”は、イタリア語でダイヤモンドを意味する“Diamante”の複数形。それぞれに輝く衣装工房の女性たちを指している。

上昇志向が極めて強い鉄面皮の姉アルベルタ(演ルイーザ・ラニエリ)が社長。幼い娘を交通事故で失った心の傷が癒えないでいる妹ガブリエッラ(演ジャスミン・トリンカ)が副社長か専務だ。
お針子たちは、DV夫の暴力に苛まれていたり、引きこもりの息子への対応に苦慮していたり… それぞれ悩みを抱えている。

ある日、アカデミー衣裳デザイン賞の受賞経験があるという大物デザイナーから映画の大仕事が舞い込んでくる。
「ただでさえ忙しいのに、この映画の全衣装を引き受けるのは無理だ!」という周囲の声を無視して、アルベルタは一も二もなく受託してしまう。
工房は衣装製作で大童。トラブルが発生する度に鬼の形相で冷徹な、そして強引な判断を下すアルベルタ。妹ガブリエッラは心の傷が深まるばかりだ。

そこへ現れるのがアルベルタの元カレ。一瞬ほころぶ鉄面皮。メロドラマの要素が入ってくる。ルイーザ・ラニエリの演技の見どころでもある。

この映画に魅力を与えているのが、工房お抱えの賄い婦シルヴァーナ(演マーラ・ヴェニエール)。何があっても動じることがない。優しい慰めの言葉が印象に残った。
そしてシルヴァーナが作るラザニアの実に美味しそうなこと!

この映画のファーストシーンは、1974年の衣装工房ではない。
イタリアらしい陽光のもと映画の出演者と監督が庭先でテーブルを囲んでいる。時は現代だ。
料理が運ばれ、始まるのは映画のプロットの読み合わせ。監督役を演じているのは本作のフェルザン・オズペテク監督自身だ。
配役と役柄が説明されると女優たちは言いたい放題。監督は一つ一つ丁寧に説明するが女優たちは納得したのかどうか… そのまま1974年のメインストーリーに突入する。
このファーストシーン、ドキュメンタリーではなく、これもまたフィクション。劇中劇のような形を取っているのだ。この読み合わせのシーンは映画中に何度か挿入される。

同じような作りのイタリア映画で数年以内に観たものとして、ナンニ・モレッティ監督の『チネチッタで会いましょう(IL SOL DELL' AVVENIRE)』がある。
ナンニ・モレッティは現代の悩める映画監督像と1956年を舞台とする劇中劇を縦横の糸のように巧みに織りなしていたが、本作『ダイヤモンド 私たちの衣装工房』の劇中劇構造は、イマイチ必然性に欠ける気がした。

もう一つ、全体は骨太の構成で貫かれているのだが、細部のエピソードの決着の付け方が甘いところがあった。
たとえば、ベテラン舞台女優と新進の人気映画女優の猛烈な諍いがあるのだが、しばらくすると、なんのキッカケもなく完全に仲直り。ちょっと荒っぽい展開と感じざるを得なかった。

…とは言え、なにがあっても頑張る女性たちの群像劇としてのエネルギー。そこに絡むメロドラマ。存分に楽しめました。
『山猫』のクラウディア・カルディナーレや『ルートヴィヒ』のロミー・シュナイダーの衣装など、歴史的な衣装が登場するのも見どころの1つ。「フェリーニの『サテリコン』の衣装作りは大変だったのよ」みたいなセリフも。イタリア映画で、「衣装が凄い!」と思った経験のある人は、細部も満喫できること請け合いです。

基本的には大団円のハッピーエンドですが、DV夫はどうなったのか? 鉄面皮社長と元カレの焼けぼっくいの顛末は? それは観てのお楽しみです!