『オデュッセイア(The Odyssey)』はどうだ?


『オデュッセイア』。観る前から分かっていたが超娯楽大作だ。配給元は、「王道アクション・エンターテインメント」と銘打っている。
英語タイトルは『The Odyssey』だが、邦題はギリシャ語に従って『オデュッセイア』。

観終えてしまえば、少しばかり教訓臭くて、大予定調和のハッピーエンド。まぁハリウッドの王道だ。
しかしながら、3時間弱、まったく飽きさせることはなかった。
全体はトロイア戦争の英雄オデュッセウス(演マット・デイモン)の10年及ぶ帰還の旅を軸としているが、ひとつひとつのシークエンスがそれぞれ独立したサスペンスのようになっていて何度も手に汗握った。さすがクリストファー・ノーランだ。

この映画、多くのところで「ホメロス原作/クリストファー・ノーラン監督」と記されている。
ホメロスは実在したのか?という話もありますが、ここでは実在したとして話を進めましょう。
ギリシャ紀元前8世紀末の盲目の吟遊詩人で、『イーリアス』と『オデュッセイア』の作者。ホメロスの作品はいずれも口承文学です。
この時代のギリシャは、フェニキア文字を元にしたギリシャ文字が体系化される最中でした(細かくは諸説ありますが)。まだ長文を書き起こすまでには至ってなく、現存する『オデュッセイア』最古の書き起こしは紀元前3世紀頃(およそ前285年〜前250年頃)にプトレマイオス朝エジプトで記述されたパピルスの断片。プトレマイオス朝と言えばご存じとおりマケドニア系、ギリシャ系です。
素直に受け取れば、400~500年に渡って口承された一大叙事詩がプトレマイオス朝エジプトで文章化されたということです。

映画に戻ろう。
実写ベースの作品だが、怪物やら巨人やらがたくさん出てくるので、CG合成は思い切り使っている。一方で手持ちのカメラワークも多用され、クリストファー・ノーランが超大作の中でも、“手作り感”を大切にしていたのは好感が持てた。

俳優陣では、ロバート・パティンソンが演じたアンティノオスが印象に残った。オデュッセウスが不在の間に、その妻のペネロペ(演アン・ハサウェイ)とオデュッセウスが王として治めたイタケを我が物にすべく画策・暗闘する。本作では1番の悪役。悪の総元締めだ(笑)。
しかし多くの場合、作り手は悪役に感情移入する。クリストファー・ノーランも多分そうだったのだろう。ロバート・パティンソンは輝いていた。

盲目の豚飼いエウマイオス(演ジョン・レグイザモ)もよかった。オデュッセウスの忠実な部下で、帰還を信じてイタケを守るペネロペを支え続ける。ホメロスはエウマイオスにみずからを託したのではないか… 原典ではエウマイオスは盲目ではないが、出征はしていない。
ホメロスはトロイア戦争から帰還した複数の英雄から冒険談を聞きかじり、頭の中で1つの壮大な叙事詩としてまとめ上げた。映画の中のエウマイオスを観ていて、そんな思いも湧いてきた。

極私的には、洋の東西を問わず時代劇があまり好きではない私が、早めに『オデュッセイア』を観に行ったのは、ギリシャに親近感を持っているからだ。
海外ロケで延べ2か月以上滞在した。一度はエーゲ海の島々まで含めて南から北まで縦断というキツかったけど美味しいロケも(笑)。トロイア戦争、アカイア軍の総大将アガメムノンの有名な黄金マスクも実際に目の前にして撮影した。
一応、ギリシャの空気は肌で分かっているつもりだ。

で、ホメロスに喧嘩を売ることになってしまうのだが、トロイアからオデュッセウスの故郷イタケ島に帰還するのに、なんで10年もかかったの?という疑問があった。
途中、女神カリュプソ(演シャーリーズ・セロン)に7年ものあいだオギュギア島に留め置かれる。
残る実質3年間のオデュッセウスの帰還の旅は、現在のトルコからイタリア、チュニジアにまで広い地域に及んでいる。
試しにグーグルマップ上でプロットしてみたら、こんな感じだ。

オデュッセイア関係地図

 

風に押され、波に流され、西に南に大冒険の旅。3年はかかるか… なんとなく納得した。
経由地で特に印象深かったのは、最初に航路を外れてしまうマレアス岬。ペロポネソス半島の突端部分にあり、近くのアゴラニコラス、ネアポリ、エラフォンソス島に行ったことがある。
映画を観ているときには気付かなかったが、「あの辺りだったのか!」と。
そのままペロポネソス半島西岸沿いに北上すればイタケ島に辿り着くのだが… ここでの遭難がすべての始まりだった。

最後に1つだけ苦言を呈しておこう。
クライマックスシーンは、やっとの思いでイタケに帰還したオデュッセウス(演マット・デイモン)とアンティノオス(演ロバート・パティンソン)の対決だ。
ここでマット・デイモンが強すぎる! 脇腹はやりで刺され、背中には2本も矢が刺さっているのに… ジャッキー・チェンの如き無敵さ。ジャッキー・チェンならまだ分かる。カンフーの達人だからだ(笑)。
そこは違和感が残ってしまった。

 

さて、時期的には2027年アカデミー賞狙いの先行馬ということだろう。
2026年は、『ワン・バトル・アフター・アナザー』で大外しをしてしまったので、エラそうなことは言えないが、作品賞、監督賞はないだろう。
ロバート・パティンソンの助演男優賞はあるかも… 少なくともノミネートには入って欲しい。
また外すかな(笑)。