三谷幸喜作・演出『アメリカン・ドリーム(AMERICAN DREAM)』に何を見るか…

三谷幸喜の書き下ろし新作舞台『アメリカン・ドリーム(AMERICAN DREAM)』。PARCO劇場で観ました。
キャスト表を見ると、上から小日向文世、浅野和之、山崎一と芸達者な男性俳優が並ぶ。豪華だ。小日向が主演で浅野と山崎が脇を固める? それとも、“三匹のおっさん”よろしく群像劇か?
どちらも違っていた。小日向、浅野、山崎が揃って舞台に並ぶのはラストシーンだけ。

主演俳優はキャスト表の6番目に名を連ねる中川大志。
映画、ドラマ、舞台で注目を集める28歳だ。 映画『覚悟はいいかそこの女子。』で日本アカデミー賞の新人俳優賞を獲得した。
役は「非米活動委員会」の若手委員。
非米活動委員会… 悪名高い「赤狩り」マッカーシズムで中心的役割を果たした組織だ。
舞台は場面転換なしのいわゆる一杯飾り(厳密には1.02杯くらいなのだが、0.02の意味はネタバレになるので秘密(笑))。ちなみに舞台でも映画でも、セットの数はなぜか“杯”で勘定します。
時は1940年代後半。アメリカでは赤狩りの嵐が吹き荒れていた。ハリウッドも例外ではなかった。
一杯飾りの舞台はホテルの一室。映画人4人が集められ、1人ずつ非米活動委員会の尋問を受ける。
小日向文世は成功した脚本家。モデルはダルトン・トランボ。赤狩りに反対したハリウッド・テンの一人だ。『ローマの休日』の脚本家。監督作品としては、『ジョニーは戦場へ行った』で知られる。
浅野和之は映画監督。エリア・カザンを想定している。『波止場』や『エデンの東』で知られる名匠だ。赤狩りに関しては、「転向者」「仲間を売った裏切り者」と評判が悪い。
山崎一はドイツ人劇作家で“マイスター”と呼ばれている。ベルトルト・ブレヒトがモデル。すぐに『夜うつ太鼓』や『三文オペラ』が思い浮かぶ。“異化効果”という言葉を思いつく人いるだろう。
第2次大戦中、ナチスの迫害を逃れ各国で亡命生活。1941年にはアメリカに渡り、戦後、赤狩りに巻き込まれた。ドイツから脱出したのは知っていたが、アメリカに渡ったのは知らなかった。不勉強を反省!
ストレートプレイからミュージカルまで舞台作品で活躍する関谷春子が、あまり売れてない女優を演じる。
上記4人が尋問を受ける側、いわば被疑者だ。
取り調べる側(非米活動委員会)は浅野雅博と中川大志。
浅野雅博が上役。上からの命令で赤狩りの職務を忠実に遂行しようとする官吏だ。一番の悪役。だが映画のことも演劇のこともチンプンカンプン。
そこで映画に詳しい部下を抜擢。中川大志が演じる。
この舞台で最初から最後まで出ずっぱりは中川大志だけ。
狂言回し的な役割ではなく、官吏の立場と“映画愛”の間で葛藤する。
政治の世界と表現の世界の谷間にはまり込んでしまうとも言える。
1時間50分のこの芝居の中で大きく心が揺れ動くのは中川大志の役だけ。他の5人は考え方や姿勢が変わるわけではない。
だから私はこの舞台の主演を中川大志と判断した(賞取りレースになったときに、中川大志が主演と扱われるかは分からないが)。
ベテラン大物俳優たちを相手に一歩も引けを取らなかった。演技に輝きを感じた。素晴らしい名演だったと思う。
小日向トランボはアメリカに残された知性そのものを体現する。小日向文世ならではの存在感を生かしきったキャスティングだ。
浅野カザンは請われれば何でも作る器用さを持つ職人的な映画監督として描かれている。悪役ではない。三谷幸喜は浅野カザンにかなり感情移入して書いてると感じた。
山崎ブレヒト、最高!
「アメリカ映画は予定調和のハッピーエンドばかりだ!何が面白いのか!」など、皮肉・毒舌を連発。だけどドイツ人だからソーセージにだけはうるさいぞ(笑)。
一方で、「作家の思想・政治的立場と作品」といった極めて本質的な問題にも切り込む。三谷幸喜の憧れと、劇作家として抱え続ける葛藤を山崎ブレヒトに託したのだろう。
余談だが、山崎一はニール・サイモン作/三谷幸喜上演台本・演出の『23階の笑い』ではソ連からの亡命ライターを演じた。「ロシア語なまりの英語を日本語で演じる」という困難な設定に見事に応えていた。亡命知識人は山崎一のはまり役か(笑)。
『アメリカン・ドリーム』は、三谷幸喜得意のコメディー・喜劇ではない。ハリウッドの悲劇を扱ったシリアスなドラマだ。
セリフはどれも渾身の1行1行と感じた。一部で笑いは取るが、劇作家三谷幸喜が自らの存在をかけて書いた作品と言ってもオーバーではないと思う。ある種の覚悟さえ感じた。
2026年、日本の演劇界を代表する傑作だと思った。
そう、1行1行をしっかりと読み直したい。戯曲の出版を期待している。

