『DIGGER/ディガー』は傑作?失敗作?

「キャーッ!!!私のトムが、いったいなんてこと!?」
『トップガン』以来のトム・クルーズファンからはそんな悲鳴が聞こえてきそうです(笑)。
髪は薄く、お腹はでっぷりと。歩き方も頼りない。トム・クルーズが今までまったく挑戦したことのない役柄に挑んだ。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の『DIGGER/ディガー』だ。
“Digger”とは“掘る人”や“掘る機械”を意味する。
主役はトム・クルーズ演じるディガー・ロックウェル。石油採掘会社のCEOで莫大な富と権力を持つ傲慢男。愛称をファーストネーム代わりに使っている。
トランプの「Drill, baby, drill(掘って掘って掘りまくれ)」を意識していることは間違いない。グリーンランドが絡んでるので、ここでもトランプの傲慢と結びつく。
内容的には壮大なブラックコメディー、ディストピアものと言えるだろう。
ディガー・ロックウェルは劇中劇『Fossil Fools(化石の愚者)』の中でカーティスという俳優が演じる役名だ。要するにトム・クルーズ演じるカーティスが劇中劇の中で演じている役がディガー。2020年代の環境危機を描いた舞台『Fossil Fools(化石の愚者)』が、近未来、25年後の大劇場でたくさんの観客を前に上演されている。文章で書くと複雑そうだが、まぁ典型的な劇中劇構成だ。
映画は劇中劇から始まる。ディガーはグリーンランドでの石油採掘によって環境破壊と巨大津波などの地球規模の被害を引き起こしてしまう。
ディガーだけが悪いわけではないが、石油採掘を後押ししてきた大統領をはじめとするホワイトハウスの高官たちは、「どうやって責任逃れをするか」「ネット上の不都合な情報をどう言論統制・隠蔽するか」に腐心するばかり。
ディガーに、「なんとかしろ!」と責任を押しつける大統領(演:ジョン・グッドマン)がトランプそっくりの表情を見せるのには笑った。
この映画、賛否両論を巻き起こしている。
構成が凝りすぎていてハリウッド映画ファンが付いて来れない部分があるようだ。かなりの知的な冒険をしている。
ディガーを巡る話が劇中劇であることが明かされるのは、話がかなり進んでからになる。最初から、「なんか舞台っぽいセットだな」とは感じるのだが…
で、トム・クルーズは演技がうまいか?
この質問をされたギョーカイ人の多くは口ごもるか、作り笑いで誤魔化すかだ(笑)。
たくさんの主演作があるが、アカデミー主演男優賞ではノミネート止まり。最高賞を得たことはない。助演男優賞もノミネート止まりだ。
実は私はトム・クルーズファン。
『トップガン』は2本とも観た。『ミッション:インポッシブル』は8本全部観た。他に、『7月4日に生まれて』『ア・フュー・グッドメン』『ザ・エージェント』『ラスト サムライ』など数々観ている。
演技の上手さを求めてきたわけではない。独特の存在感に惹かれているのだろう。
『ミッション:インポッシブル』の主役はイーサン・ハントと言うよりもトム・クルーズ。『トップガン』も同様だ。なにをやっても、“トム・クルーズ”が前に出て来る。
で、『DIGGER/ディガー』はどうだ?
間違いなくトム・クルーズ史上最高の演技を見せてくれた。そこにいたのは間違いなくディガー・ロックウェルだ。今回の演技は傑出している。
少々ネタバレになってしまうが、最大の見どころと言えるシーンがある。
地球規模の破滅を引き起こしたディガーが、環境規制の厳しい欧州委員会(EU)の会議場に呼び出されて追及される。
そこで環境保護派や議員たちに向けて強烈な反論と居直りの演説をぶちかますのだ。
「安価なエネルギーと快適で豊かな生活を享受し、石油を掘り続けることを望んだのは誰だ? 俺たちを欲望のエンジンとして動かしてきたのは、他ならぬお前たち(消費者・市民・政治家)だろう!」と。
このシーン、10分ほどあるのだが、なんとワンシーンワンカット。演説と言っても演台を前に喋りまくるだけではない。議場を歩き回り、議員たちと言い争い、よぼよぼした身のこなしで机によじ登り… クレーンに乗ったカメラが執拗にディガーを追い続ける。ド迫力の10分間だった。
わたし的には、「映画史に残るワンシーンワンカットだ」と言いたい。
若い頃、相米慎二監督の『ションベンライダー』の助監督で大苦労。10分に及ぶワンシーンワンカットを撮るのがどれほど大変か、身を以て知ってる私が言うのだから間違いありません(笑)。
賛否両論を巻き起こしている『DIGGER/ディガー』。
大エンターティンメントの中で地球温暖化や化石燃料依存に対する大胆な問題提起を行っている。背景にある“欲望”というキーワードもしっかりと見えてくる。
素晴らしい作品に仕上がっていると思う。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥに敬意を表したい。
同時にトム・クルーズの挑戦にも拍手だ。作品自体の評価が割れてるので、アカデミー主演男優賞はないと思うが、ノミネートには入れてあげて欲しい。
もしかすると、映画的にも、演技的にもヨーロッパで高い評価を受けるかな… なんて思っています。

