『MERCY/マーシー AI裁判』は、ありがちなサスペンス映画に過ぎないのか…

『MERCY/マーシー AI裁判』(ティムール・ベクマンベトフ監督)。いろいろ考えさせられる映画でした。
近未来のロサンゼルス。AIが司法を担っている。目的は治安統制だ。
ロサンゼルス市警の敏腕刑事のレイヴン(演:クリス・プラット)が主役。目を覚ますと、殺人容疑でAI裁判所MERCYに拘束されている。まったく身に覚えがない。
MERCYは無慈悲だ。“Mercy”は、直訳では、「慈悲」「情け」「寛大な処置」。かなりの皮肉になっている。
映画のオフィシャルサイト(要するに配給側)が、“AIアクションスリラー映画”と銘打ってるので、多くのサイトでそう紹介されているが、AIアクションスリラー映画というカテゴリーは聞いたことがない(笑)。サスペンス映画のカテゴリーだ。
とりあえずAIを無視してこの映画を考えると、サスペンス映画の王道を行く構成になっている。
填められて冤罪を着せられた主人公が、捜査陣の追跡・追及をかいくぐりながら、真犯人を追う。
最後は冤罪が晴れて正義が勝つ。ハッピーエンドだ。
まず思いついたのは、『逃亡者』(1993年/アンドリュー・デイヴィス監督)。ハリソン・フォード演じる主人公の医師が、妻殺しの罪を着せられる。警察に追われながらも真犯人を見つけ出すというストーリーだ。わたし的には、ハリソン・フォードの中でもっとも好きな映画だ。
『MERCY/マーシー AI裁判』の主人公の刑事が負うのも妻殺し。『逃亡者』に奉げたオマージュでは…と見る向きもあるが、少なくとも参考にはしているだろう。
日本映画で言えば、『君よ憤怒の河を渉れ』(1976年/佐藤純弥監督/西村寿行原作)。高倉健演じる東京地検検事が填められて指名手配される。
サスペンスとしては、『逃亡者』や『MERCY/マーシー AI裁判』よりもズッと複雑な構成になっていて、傑作だ!いう思いをあらたにした。
で、『MERCY/マーシー AI裁判』に戻りましょう。
クリス・プラットは、『ジュラシックワールド』の3作品に主演し好演していた。本作では、警察では敏腕刑事だが、妻や娘とのいさかいを抱え、ひどく酒に溺れているというキャラクターをリアルに演じた。
9割方、拘束されいる状態なので、表情、セリフ、限定的なボディーランゲージだけで演じるしかない。大変だったろう。
事件の担当判事は、MERCYのマドックス判事(AIが作り出したバーチャル判事)。演じるのはレベッカ・ファーガソンだ。大きな注目を集めたのは、『ミッション:インポッシブル』だった。3作品で活躍する謎のスパイ(テロリスト?)を好演。演技はもちろん、身体能力の高さが印象に残っている。
ところが、『MERCY/マーシー AI裁判』ではボディーランゲージすらない。全編、バストショットと顔のアップ。表情、セリフだけで勝負だ。
「AIだから、無味乾燥に演じればイイんじゃないの?」と皮肉る向きもあろうが、それでは映画にならん(笑)。
このAI判事は、微妙に躊躇したり、悩んだりする。刑事の直感を「理解できない!」と封じつつ、最後には、そこに“慈悲”を寄せる。要するに、“Mercy”だ。
気がついたら、クリス・プラットよりもレベッカ・ファーガソンに感情移入しながら観ていた。
AIに感情移入というのも妙な話なのだが、レベッカ・ファーガソンの演技が優れていたということだと思う。
AI裁判所MERCYは、クラウドにある、ありとあらゆる情報にアクセスする権限を持っている。テキスト情報はもちろん、動画まですべてだ。監視カメラ、防犯カメラ、ボディカメラ、ドライブレコーダー、そして個人のスマホ動画まで。
すでに犯罪捜査に使われている「リレー捜査(防犯カメラリレー)」の未来形と思えばよいだろう。
過去の映像はもとより、リアルタイムの動画まで完全にトラッキングする。ただし、クラウドにあるものは… というところが味噌なのですが(笑)。
もし、ある権力が、クラウドのありとあらゆる情報にアクセスできるようになったら… 今、その恐怖は感じるし、実はすでに、その一歩手前まで来ている。恐ろしいことだ。
本作、サスペンスとしては、王道の作りだと書きましたが、ひとつだけ、AIサスペンスならではの見事な展開があった。AI裁判所MERCYがレイヴンを真犯人だとした根拠は、ある人物の、それもたったひとつの“自己保身”から生まれていた。
それは、あまりに人間らしく、あまりに姑息な、たったひとつの行動だった…
賛否は分かれそうだが、一見の価値はあるでしょう。

