鰤雑煮は厳冬の日本海の味

出雲風鰤雑煮(左が十六島海苔)

わが家の新年は、『鰤雑煮』なしでは明けません。

鰤雑煮は、福岡、長野県(松本周辺)にもありますが、ウチのは出雲風。鳥取県伯耆地方の山奥出身の父親が伝えたものです。

餅は、関西風の丸餅。
主役の鰤は、年末に運良く入手できた境港水揚げの天然寒鰤。塩鰤にして、冷凍しておきました。

出雲風鰤雑煮に欠かせないのが、十六島(うっぷるい)海苔です。出雲市十六島町(うっぷるいちょう)の特産品で、真冬の日本海、荒波打ち寄せる岩場で手摘みされた逸品。磯の香りと強いコシが特徴で、出しで溶くと、髪の毛よりも細い黒い糸状になり、餅に絡みます。
正月からケチな話で恐縮ですが、20グラムで2000円以上します(笑)。出雲の乾物屋さんから購入です。

しかし、“十六島”と書いて、“うっぷるい”と読む。朝鮮語語源とも、アイヌ語とつながるとも言われています。古くから日本列島の出入り口だった出雲。人も物も文化も、盛んに往来しました。“うっぷるい”は、その足跡のひとつなのでしょう。

さて鰤雑煮。出しは昆布とスルメで取ります。他の材料は、長葱、木綿豆腐、蒲鉾あたりが“必”で、お節の煮しめから、椎茸、筍、牛蒡などを入れるもよし。飾りに、三つ葉と柚子を添えて完成です。

寒鰤に十六島海苔。厳冬の日本海側で、冬だからこその味覚を楽しむ、ちょっとした贅沢。それが出雲の鰤雑煮なのでしょう。

2020年干支の料理は、「女貞子鶏湯」

女貞子鶏湯(ねずみもちの薬膳スープ)

新年に発表し続けている『 干支の料理 』。26回目になりました。
2020年は子年。十二支最大の難関が3回目を迎えました。

ウェブや文献などいろいろ調べて、たどり着いたのが、「ネズミモチ」。街路樹として植えられることもあります。
そう言えば、どこかの公園で“ネズミモチ”と書かれた白い札の付いた樹を見た記憶が…
不思議な名前は、黒っぽい小さな実がネズミの糞に似ていることに由来します。

乾燥させたネズミモチ(正確にはトウネズミモチ)の実は、女貞子(じょていし)と呼ばれる薬膳食材です。
煎じて薬膳茶として飲んだり、スープに使います。
お茶として飲むと少し黒豆に似た味わいで、飲みにくさはありませんが、黒豆茶ほど美味しくはないかな(笑)。

漢方の五性五味では、「涼・苦甘」に分類され、身体を冷やす働きがあります。
強心、利尿、緩下、強壮、強精薬、解熱剤として古くから用いられてきたようです。
枸杞(平・甘)や桂皮(熱・甘辛)と相性がよく、桂皮、要するにシナモンと合わせると陰陽のバランスが取れるそうです。

さて、料理です。
漢方の蒸しスープにしました。中国風に書けば、“女貞子鶏湯”。和訳は、分かりやすく、“ねずみもちの薬膳スープ”としました。
材料は、女貞子(ネズミモチ)、桂皮(シナモン)、枸杞(クコ)、紅棗(ナツメ)、骨付き鶏肉、昆布。
骨付き鶏肉は熱湯で軽く霜降りし、その他の材料はそのまま器に投入。水を注いで1時間蒸籠で蒸すのみです。
塩味を付ける必要もなく、滋味深い薬膳スープが完成します。

政治的にも環境問題的にも、なにやら地球規模で混乱が続く昨今ですが、まずは、薬膳スープで心と身体を健全に保つか!と。

人間が自然と対話しながら見つけ出してきた優しい食材。そのスープは、いやが上にも、「有限な広さを持つ地球」という、あまりに当然な原点に立ち戻ることを求めてきます。

● 動画(1分)
https://www.youtube.com/watch?v=o73IrPzHFiQ

● MSLABの干支の料理(バックナンバー)
https://www.mslab.com/eto/menulist.html