桜鯛の銀餡蒸し

CIMG0113最近この手の料理に凝ってます。蒸し物。
きょうは“桜鯛の銀餡蒸し”。桜鯛と言っても鯛の種類ではなく、この季節、旬を迎えた真鯛です。長崎産の天然物を手頃な値段で入手!
右手前の黒っぽい野菜は撮影の失敗ではありません。紫折菜(むらさきおりなという山形の地場野菜で菜の花の仲間です。加熱する前はホントに紫色。普通の菜の花よりアクが少なく、食べやすい美味しい野菜です。

レシピというか、簡単なコツは…
鯛の切り身は軽く塩を振って20分放置。そのあと湯引き。残念ながら東京で手に入る魚では、この手間を惜しむことはできません。あとは、野菜と盛り合わせて蒸籠で蒸すのみ(紫折菜はあらかじめ茹で上げておいて、魚が蒸し上がってから添えます)。
銀餡のベースは鰹出しで、まぁ、きょうは片栗粉で。葛粉を使えば、もっともっと上品に仕上がります。

本来の銀餡は、塩味に醤油一滴の世界ですが、家庭ではなかなか難しい。薄口醤油をうまく使うと味がまとまります。でも、醤油を使いすぎると、関東人ならみんな知ってるあの“みたらし餡”になってしまうので要注意なのです。

焼き物、煮物に比べて、蒸し物は敷居が高いと感じがちですが、白身魚の餡かけは、とっても手軽。茶わん蒸しよりよっぽど簡単です。家庭料理に、もっと入り込んでもよいような気がします。

 

山椒にはまる

CIMG0103最近塡っているのがはまっているのがこれ。GABANの高知県産仁淀川山椒。
もともと、山椒は大好きなのですが、挽いてある粉山椒がいかに風味を失っているものなのか… これに出会ってよく分かりました。

挽き立ての山椒は、もはやフルーティ!
足が早いので、冷蔵庫保管“必”のようです。
普通の手羽先が10倍美味しくなります!ホント。

PS.
ミルは少々頼りなさがありますが、今のところは大丈夫。中身だけも売っているので、対応のしようはあります。

鮃と柚子胡椒

CIMG0027天然の鮃なのである!
地元のスーパーで長崎産が手に入りました。縁側も見事でしょ!と威張りたいのも少しはあるが…
見て欲しいのは右手前に盛った赤茶色。味噌ではありません。赤の柚子胡椒です。
昨年、仕事で訪れた佐賀で、白身魚に柚子胡椒というのを覚え、すっかりはまってしまいました。
山葵と同じで、醤油に溶いてはいけません。刺身にちょこっと載せて、醤油につけるのは刺身の端っこだけ。魚の甘味がひきたちます。適度に脂の乗った鮃に最高でした!
柚子胡椒といえば緑が主流な気がしますが、どうも赤のほうが味が円やかなような気がします。思い込みかも知れませんが…

この食べ方を教えてくれたお店をご案内しておきます。
佐賀駅近くの『山里久』。これは広告ではありません(笑)。
お薦めです。

 

 

 

大間のマグロ

今回は本マグロ(クロマグロ)のお話。と言っても、最高級ものをお腹いっぱい食べた話ではない。
先日、飲み仲間で「大間のマグロはどこから来るのか?」という話題が盛り上がった。本マグロは、暖流に乗って広い海域を回遊する魚だ。静岡県の焼津や宮崎県の油津が水揚げ港として名高いので、太平洋の魚と思いがちだが、春から夏にかけて、対馬海流に乗って日本海を北上する本マグロもいる。真夏には、利尻島や礼文島のでも水揚げされる。この北上した本マグロが、津軽海峡に入り込んだのが大間のマグロ。九月から二月くらいまで獲れるが、旬は脂の乗る十二月から一月だそうだ。

「津軽海峡へは、太平洋からも日本海からもマグロが来る」という説もあるが、黒潮(日本海流)が北海道東岸に接することはないので、ちょっと信用しがたい。太平洋のマグロは、三陸沖までは北上するが、その後は日本列島から離れていくのではないだろうか。

一方、「日本海のマグロと太平洋のマグロ、どっちが美味しい?」という、宴会白熱間違いなし!の議論もある。私は、初夏の日本海のマグロが一番!と思っている。特に身が締まって弾力のある赤身がよい。今年は、境港や佐渡で獲れたものを食べたが最高だった。
「日本海と太平洋で、なぜ、マグロの味が違うのか?」と馴染みの寿司屋に尋ねてみた。答えは明解だった。「日本海の本マグロは、スルメイカを腹一杯食ってるから」。確かに漁り火漁の例を引くまでもなく、日本海はスルメイカの宝庫だ。しかし、太平洋にだってスルメイカはいるし… と若干の疑問はあるが、築地の関係者の間では、まことしやかに語られている話だそうだ。

さて、今秋は、日本海のスルメイカで太りきった大間のマグロに出会えることができるか… 楽しみだ。

アゴの焼き干し

ちょっと凄い「出し」に出会ってしまった。「アゴの焼き干し」だ。場所は佐渡。アゴとはトビウオのことで、干物を出しに使う文化は、九州北部から山陰地方にかけて数カ所にある(まぁ、大きな煮干しのイメージ)。
しかし、佐渡のアゴは違っていた。早朝、刺し網で獲ったアゴを直ぐさま裂いて、表面を炙ったあと、炭火で乾燥させる。昔、囲炉裏端で魚を串に刺して乾燥させ、保存食にした、あの方法だ。形は開きの干物になる。

一匹のアゴで800CCから1L程度の出しが取れる。分量の水に焼き干しを浸し、3時間から半日。ゆっくりと加熱し、沸騰したら弱火にして10分ほど煮出す。これで出来上がり。鰹節とも煮干しともまったく異なる上品な出しができる。

何が違うのか?旨味に品があるのだ。試しにこの出しで根菜だけを炊いてみたが、豊かな味わいだった。
佐渡では、味噌汁から煮物まで、すべての料理にアゴ出しを使う家が多いと聞いた。

さて、佐渡の小木地方でアゴが採れるのは、6月上旬から7月上旬にかけての一か月だけ。産卵のために集まってきたところを狙うのだ。多くの家が半農半漁の営みの小木地方では、この時期、どの家も大忙しだ。何せ、一年分の焼き干しを一か月で作らなくはならない(もっぱら自家用の家と、地元向けに販売する家もある)。刺し網漁の出港は朝4時。裂いて、焼いて、乾燥機(木炭を使う)に入れて、という焼き干し作りの準備に午前中一杯。午後からは、畑や田んぼの仕事。夕方には、また海に出て、網を仕掛け、夜中には乾燥機の火の番もする。まさに、寝る暇無しだ。

守り続けられている「アゴの焼き干し」。頑固に作り続ける人たちと、頑固に食べ続ける人たちがいるからこそだ。生き延びている地域の貴重な食文化に触れることができた。

お茶と器

最近、お茶と器のことを考えている。
つい数日前、煎茶道の先生の所にお邪魔した。当然、煎茶でもてなされたが、茶碗は土もの(陶器)。それも先生の友人の素人さんが作った野趣溢れるものだった。

「えっ、煎茶道では、京焼きとか伊万里の白磁染め付けの茶碗じゃないんですか?」
「いいのよ、家で飲むときは、土ものが一番!色は分かり難くなるけど、お茶の味は、土もので飲んだ方が絶対に良いんだもの!」
…だそうだ。
どうも、先入観にとらわれて、お茶と器との関係を固定的に考えすぎていたと反省した。

さらに数日後、お茶の焙煎師に出会った。彼女は、中国茶と日本茶の両方を扱うが、日本茶も中国茶器で煎れる。さらに、中国茶の香りを味合うための聞香杯を煎茶にも使う。これは良かった!聞香杯を使うことで、ストレートに煎茶の香りを味わうことができた。

考えてみると、朱泥(土もの)の中国茶器は実に良くできている。内側に白磁の釉薬を掛けて色を見やすくしながら、陶器の特性で、熱さが指先に伝わるのを抑えている(多少だが)。95℃から100℃という温度で煎れる烏龍茶系には打って付けだ。

それに比べると、磁器と陶器の接点を見いだせなかった日本の茶器は、ちょっと様式に囚われすぎて弱い。
ただ、備前や萩の煎茶器にある味わいは、中国茶器の追従を許さないものだ。「侘び寂」と一言で片付けがちだが、日本独自の美意識が生きていることは確かだ。

何やら、あっちにフラフラ、こっちにフラフラで、結論に辿り着かないが、今現在の結論としては、朱泥茶器の機能美に感動!一方で、お茶の色を鑑賞するという視点は棄てているが、備前や萩の煎茶器の美は世界に誇れるものだと感じている。

別格!宍道湖のシジミ

やはり宍道湖のシジミは別格だった。小さなアサリ程度の大きさがある。東京では、料理屋で出されるシジミの味噌汁の身をほじって食べ良いものかどうか迷うことがある。あまりに小さくて、それに執着するのがケチに思えてしまうからだ。

しかし、宍道湖のシジミにはそんな心配は無用だった。しっかりと「食べてくれ!」と主張している。届いた晩は、さっそくシジミ三昧!といっても二種類しか作らなかったからシジミニ昧!?

まずは、ニンニクと鷹の爪、日本酒を使って酒蒸しにした。作り方は簡単で、鍋にニンニク・鷹の爪・シジミを入れ、日本酒をヒタヒタの半分くらい。火にかけて醤油を少々加える。
沸騰してくると次々に殻が開く。アクも出るので、これは引く。全部の殻が開いたら、シジミだけ取り出し、残った汁に同量程度の昆布だしを加え、一煮立ち。汁をシジミにかけて、細葱でも散らせば料亭でも出せそうな『シジミの酒蒸し』の完成だ。
ニンニクも鷹の爪も主要な成分は油にしか溶けないので、逆に油を使わないことで、味のバランスが良くなったようだ。シジミの香りが消えることなく生きたと思う。

仕上げはシジミの味噌汁にしたが、これはレシピ省略。
シジミが効いて、肝臓が良くなりすぎると困るので、いつもより一合余計に飲んでしまった(笑)。

一つ特記しておきたいのは、二つの料理で使ったシジミの殻がすべて開いたということ。スーパーで買ったシジミでは、こうはいかない。

たかがシジミ、されどシジミ

シジミは、肝臓に欠かせないタウリンを豊富に含んでいるので、「一杯飲った後のシジミの味噌汁」は、おまじない以上の効き目があるようだ。

さて、日本には三種類のシジミが生息しているが、主役はヤマトシジミ。それも島根県の宍道湖産が国内水揚げの45%を占めている。他の産地も宍道湖から稚貝を買って放流しているところが多いので、宍道湖がヤマトシジミの王様であることは間違いない。

しかし、数年前、宍道湖のシジミは風前の灯火になっていた。「宍道湖・中海の淡水化・干拓計画」が進んでいたからだ。ヤマトシジミは汽水湖でしか繁殖できないので、淡水化が実行されていれば、間違いなく死滅していた。
1963年に始まった淡水化・干拓計画が最終的に中止されたのは2002年のこと。元々、大規模水田開発のための事業だったが、途中で農政は減反一本やりに転じた。二束三文だったシジミは、他の産地が干拓や水質の悪化で水揚げを落とす中、宍道湖産の値が上がった。時代の流れ、政治の流れに翻弄され、淡水化・干拓計画は中止された。そして宍道湖のシジミは生き残った。

さて、せっかくだからシジミを美味しく食べるコツ。宍道湖のシジミ漁師から聞いた話だ。少なくとも、筆者はシジミの砂抜きの方法を完全に誤っていた。
まず大切なことは、海水の1/3程度の塩分の塩水で砂抜きをすること。淡水では味が抜けてしまう。そして、シジミをその塩水に沈めないこと。少し顔を出しているくらいが良いそうだ。
<a href=”http://www.saiko.gr.jp/sijimi/waza.html”>【シジミの砂抜き(詳細)】</a>
あと、目から鱗の話は、シジミは冷凍が効くということ。地元の漁師も、一番美味しい季節に砂ヌキだけして小分けして冷凍するそうだ。食べる時は、凍ったまま水に入れて、普通に味噌汁にすればよい。当然、殻は開く。
問題は、その「一番美味しい季節」。宍道湖のシジミ通たちに言わせると「卵を孕んだ5月が一番」というのと「卵を産んだ後の7月が一番」と二説が対立する。

たかがシジミ、されどシジミ。これは試してみるしかない!

マグロで死滅する日

【注意すべき魚などと、食べてよい回数】
(1回80グラムとした場合)
<2カ月に1回まで>バンドウイルカ
<2週間に1回まで>コビレゴンドウ
<週1回まで>キンメダイ、メカジキ、クロマグロ、メバチマグロ、エッチュウバイガイ、ツチクジラ、マッコウクジラ
<週2回まで>キダイ、クロムツ、マカジキ、ユメカサゴ、ミナミマグロ、ヨシキリザメ、イシイルカ
*週に2種類、3種類を食べる場合は、それぞれの量を2分の1、3分の1などに減らす。

上記は、2005年8月12日に厚生労働省薬事・食品衛生審議会が発表した妊婦の魚摂食に関する注意事項だ。今のところ、大きな混乱は起きていないようだが、この発表にはいくつかの謎や落とし穴がある。

まず、80g/1回という基準。鮪の刺身6~8切れほどで80gだそうだ。居酒屋の鮪の刺身一人前といったところ。自宅の夕食にメバチマグロの刺身が並べば、ほぼ一人80gは食べてしまうだろう。発表に従えば、妊婦の場合、メバチマグロの刺身80gを食べた後、一週間は上記のリストに含まれる魚を一切食べてはいけないことになる。キンメダイの煮付けを一人一切れ食べた場合も同様だ。これは、かなり厳しい制限といえる。

さて、この注意事項は、妊婦向けに発表されているが、本当に一般の人にはまったく心配ないのだろうか?ちょっとした魚好きだったら「妊婦の許容量」の10倍~20倍食べているはずだ。私自身もそれに近い。このリストの中では「目眩まし」の役割を果たしているバンドウイルカやツチクジラも食べたことあるし…
学者の中には、魚を多く摂食する漁村などでは一般の人も注意を要するという意見もあるという。

次に、厚労省もどのメディアも「メチル水銀は自然界に存在する」とは言っているが、今回問題となっているメチル水銀が自然界起源のものかどうか明言していない。
水俣病の例を挙げるまでもなく、鉱工業によって人類が水銀を海に棄て続けてきたことは間違いのない事実だ。農薬による水銀汚染もある。普通に考えれば、海域によって水銀濃度はかなり変わるはずだが、その事には誰も一切触れていない。日本近海の本マグロと、マルタ島で養殖した本マグロでは、メチル水銀の濃度が違うと考える方が普通だと思われるのに…

アメリカの五大湖では、人類が排出した環境ホルモン(PCBまたはDDTらしい)が食物連鎖の頂点にあるハクトウワシを絶滅の危機に追い込んでいる。五大湖のPCBやDDTの濃度は、今までの「常識」では特に高いと判断される値ではないというのに…

水銀の問題も同じで、海中では微量な水銀が、食物連鎖で濃縮されていく。結局は、その食物連鎖の頂点にある肉食の魚類や鯨類が危ないということになる。ただ、ここで忘れてはいけないのは、その食物連鎖の頂点にいる生き物を私たちが食べているということだ。ハクトウワシを食べることはないが…【環境ホルモンと水銀では、人体に影響を及ぼすプロセスが違うが、ここでは詳細に触れない】

まずは、海域ごとの水銀濃度など、関連するすべての情報を厚労省は公開すべきだろう。また、過去に遡って、海水に含まれる水銀濃度の経時変化もどこかにデータがあるような気がする。こういったことを正直に追っていかないと、とんでもないことが起きそうだ。
もし、魚に含まれる水銀が、人類の健康に被害を及ぼすとしたら、真っ先に影響が出るのは間違いなく日本人だ。その時、「マグロで死滅する日」は冗談ではなくなる。

ミルクの香りの台湾茶

20050723これはお茶なのか… まず、茶葉の香りを嗅いでビックリ。
金萱茶系のお茶は、大体「バニラの香り」とか「ミルクの香り」とか銘打たれているが、今回のナイ香金萱(ナイシンジンシャンと読むらしい。ナイは女+乃)は格別だ。前にも何種類かの金萱茶を飲んだことがあるが、「まぁ、バニラと言えばバニラか」という程度だった。ナイ香金萱は飛び抜けて良い。念のために記すが、フレーバーティではない。

茶葉自体の香りは甘味が立っているが、実際に煎れてみると、青茶の苦みを甘い香りが包み込む… そんな感じになる。購入元は「リーフストア」。この店、オリジナルの茶缶も洒落てて良い。

しかし、日本茶にも紅茶にも絶対に有り得ない不思議な香りと味。中国茶の奥深さに、ズブズブとのめり込みそうだ。

Jasmine Pearl

20050721ジャスミン茶の中での優れものと言えば茉莉白龍珠。「モーリーバイロンジュ」と読むらしい。英語では「Jasmine Pearl」。美しい!

ジャスミン茶といえば、安物の緑茶に無理矢理ジャスミンの香りを吸わせたような印象があるが、茉莉白龍珠に関しては、まったくそれは当たらない。福建省でのみ作られる高級ジャスミン茶だ。
凍頂烏龍のように茶葉は小さくまとめられ、白茶を使っているので所々が白く見える。その様を真珠に例えている。

ここのところ、暑い日が続くので、茉莉白龍珠を冷茶にして楽しんでいる。
1リットルほどのガラス容器に大さじ一杯の茉莉白龍珠。そこに、100CCほどの熱湯を注ぐ。15秒もすると茶葉が開いてくるので、容器一杯まで冷水で満たす。3~4時間ほど冷蔵庫で冷やしてから茶葉を漉し取れば、実に上品なジャスミン冷茶ができあがる。

ぐわんばれ!日本茶

自分で中国茶にはまっていながら、日本茶のことが心配になってきた。と言っても、抹茶は庶民のものとは言いがたいし、番茶ではあまり論ずることもない。中国茶と比較するなら、文化的にも価格帯的にも煎茶だろう。

ところが、前に書いたとおり、日本の茶木は大半がヤブキタで占められており、味も香りも多様性がない。煎茶を飲んで「これは狭山だ」「いや静岡だ」「なんのなんの宇治に決まっている」なんて言い当てることは不可能に近い。一方、中国茶は少し飲み付ければ、凍頂や東方美人を外すことはない。「中国茶の方が大雑把で、日本の煎茶は繊細なんだ」と言ってしまえばそれまでだが、気候や地質などでお茶には本来多様性があるはずだ。それが感じられないのは寂しい。

器はどうだろう。煎茶は60℃~80℃で煎れるとされるが、そのためには湯冷ましが必要だ。また、急須ではなく宝瓶を使いたい。宝瓶に取っ手が付いていないのは、熱湯で煎茶を煎れないための知恵だと思う。また当然、湯飲み茶碗ではなく、小振りの汲出で頂いてこそ煎茶の味が分かる。汲出はぐい飲み程度の大きさがよい。
しかし、東日本ではデパートでさえ、宝瓶+湯冷まし+汲出という煎茶器揃いはあまり売っていない。陶磁器の種類で見れば、備前と萩がこの手の煎茶器揃いの主流で、他に常滑や有田で多少見ることができる程度だ(他はゼロという意味ではない)。
このように、器から見ても、真面目に煎茶に取り組む姿勢が感じられないのが現状だ。

備前と萩で煎茶器が充実しているのは偶然ではない。中国地方の山間部では、多くの家庭に煎茶器があり、男たちが客に煎茶を振る舞う姿によく出くわす。長年の農作業でゴツゴツした太い指先で、小さな宝瓶や汲出を扱い、見事なお茶を煎れてくれる。ここには豊かな煎茶の文化が残っていると感じたものだ。「絶対に焦らず、湯冷ましで十分に湯を冷ましてから煎れるのが唯一のコツだ」と教わった。しかし、こんな風景に関東で出くわすことは、まず無い。

ちなみに、私自身は萩の煎茶器揃いを使っている。久々に一保堂茶舗の煎茶(そんなに高くないもの)を買ってみた。80℃以下で煎れれば、確かに甘味が出て美味しい。しかし、艶やかさが無く、ちょっと寂しい。侘び寂だからしょうがないか…
産地表示が無いのはお店独特のブレンドだからなのだろうか…

いずれにしても、煎茶にもう少し頑張って欲しいと思う。

芋焼酎のイモ

芋焼酎の原料は、ほとんどがコガネセンガンと呼ばれる焼酎造り専用の甘藷(サツマイモ)だが、最近、食用の甘藷を使った焼酎が少しだが登場してきている。

まずは宮崎県日南市の京屋酒造が作る甕雫だ。陶製の容器の話題が先行して、超品薄の人気焼酎になっているが、焼酎としての完成度も高い。独特の甘味を感じさせながらスルッと飲める芋焼酎だ。焼き芋にすると美味しい紅東系の紅寿を原料にしている。宮崎焼酎らしくアルコール度数20度を守っているのも頑固で良い。

東京近郊在住なら、新宿宮崎館KONNEでの入手がお薦め。
ネット上では、不当なプレミアム価格を付けている店が多いので要注意。定価は1.8リットルが3,990円、0.9リットルが2,783円だ。

食用甘藷の芋焼酎でもう一つ注目は、富乃宝山や薩摩宝山の鹿児島・西酒造が造る宝山蒸撰紅東酒精乃雫(略して、宝山紅東)。文字通り、紅東を使っている。この宝山紅東も超品薄の芋焼酎だが、昨日、もらい物で頂き、やっと試すことができる。20050710

ちなみに、コガネセンガンは晩夏から冬にしか流通しないので、普通、春から夏にかけて芋焼酎の仕込みはできない。しかし、紅東などの食用甘藷は年中流通しているので、通年生産が可能になると言う。一方、原料コストは食用甘藷の方が高い。焼酎造りの細かいノウハウも違うので、技術が高く冒険心のある蔵しかコガネセンガン以外の甘藷に手を出していないのが現状らしい。

うるち米と言えばコシヒカリ、酒米と言えば山田錦、そして焼酎米と言えばコガネセンガン… 紅茶や中国茶には多種多様な茶木があるのに、日本茶はほとんどがヤブキタ茶という種類で作られている。ヨーロッパではワインを作るためのブドウの樹も多種多様だ。どうも、日本人は、少しばかり受けがよいと右へ習え!で、気候や風土、地域の歴史の多様性をポイッと捨ててしまう傾向が強い。
それに抗して進む、食用甘藷による芋焼酎造りに私は注目してみたいと思う。

美人、東方より現る

20050629

最近、台湾の中国茶にはまっている。
凍頂烏龍茶や阿里山金萱包種茶といった王道も良いが、私が今、惹かれているのは「東方美人」。なんとも魅惑的な名前のお茶だ。

この「東方美人」、烏龍茶(青茶)の仲間だが、発酵度が高く紅茶に近い香りがする。
そして、もう一つ「東方美人」であるためには、栽培中の茶の新芽をウンカがかじらなくてはならない。「東方美人」には、ウンカが噛んだせいでできた思われる白い跡がたくさん付いている。
ウンカと言えば日本では稲の害虫として嫌われているが、茶ではウンカの分泌物質が美味の素となるらしい。
きっと、ウンカの大群に襲われた茶農家が「これじゃ、売り物にならねぇ!」とやけっぱちで飲んだお茶から始まったのだろう。

ウンカが活躍してこその「東方美人」。農薬の使用は極力抑えなくてはならない。すべての「東方美人」がオーガニックとは言い切れないが、無農薬の視点からこのお茶を評価し直す必要もありそう。

不思議な名前に惹かれて飲み始めた「東方美人」。奥が深そうだ。