謎のセイコガニ

セイコガニが一杯198円!
例年なら最低でも1000円前後、高いときは1980円なんてこともあったのに…

 

セイコガニとは卵を抱えたズワイガニの雌のことで、地方によって、セコガニ、香箱ガニなどとも呼ばれます。雌を獲りすぎてしまうとズワイガニ資源が枯渇するので、漁期は毎年11月6日から12月末までの2ヶ月弱に限られています。

セイコガニの魅力は、何と言っても、「内子」、「外子」と呼ばれる2種類の卵。甲羅の内側にある内子が成熟すると、お腹の下に移動して外子になります。濃厚な味わいの内子。プチプチとした食感が楽しめる外子。どちらも堪えられない美味しさです。

しかし、この時期には魚屋にないはずのセイコガニがなぜ? それも格安で。
死蔵されていた冷凍物を放出?いえいえ、“活け”です。口から泡を出したり、僅かにハサミを動かしたり、生きているのです。
密漁か?密輸か?とも疑いたくなります(笑)。

調べてみると…
このセイコガニは、いわゆる本ズワイガニではなく、近縁種のオオズワイガニの雌でした。私の味覚では、本ズワイのセイコガニとの違いは分かりません。抜群に美味しいです!

オオズワイは、ベーリング海、アラスカ沿岸域や北海道沿岸に生息。近年、大量発生して、カレイ漁の刺し網をボロボロにしてしまうなどの被害が発生。北海道の漁師には厄介者扱いされています。カニ好きとしてはもったいな~い!となりますよね(笑)。
オオズワイのセイコガニが全国的に流通するようになったのは、ここ数年のことで、本ズワイの名産地の福井や鳥取でも人気になっているそうです。

さて、活けのセイコガニを手に入れたら、大急ぎで蒸し上げます。蒸籠で15分。これで全て完了!あとは晩酌を待つのみです。

今宵は、最近人気を集めている三重鈴鹿の『作(ざく)』と合わせました。心地よい果実香、果実味がセイコガニの旨味と絡んで最高!と報告しておきます。

『帰れ、鶏肉へ!』という名の亡命ロシア料理

『帰れ、鶏肉へ!』という料理が少しばかり話題になっています。
毎日新聞の小国綾子記者が、2021年6月12日に投稿したツイートがキッカケでした。紹介されたレシピは、『亡命ロシア料理』という本に基づいています。

この『亡命ロシア料理』が素晴らしい名著!
珍しいロシア料理のレシピがたくさん載っているがレシピ本ではない。知性香る比較文化論的エッセイ集とでも言うか… これでもかというほど山盛りされている質の高いユーモアと哀愁。2ページに1回くらい思わずニヤリと頬が緩む文章に出くわします。

「亡命料理人という視点から鳥類の王国をよくよく見てみると、鶏はもっとも謎めいた鳥である」「国際主義の理想がわれらの祖国で実現したのは、料理の分野だけだった」「およそ文明が考え出したもののなかで、人間の尊厳にとってダイエットより屈辱的なものは何もない」「学者たちはいまだに、キノコに魂があるか、という問題を解決していない」などなど。ロシア文学風の軽妙なレトリックに心ときめくのは私だけではないと思う。

著者のピョートル・ワイリ(1949~2009)とアレクサンドル・ゲニス(1953~)は、1970年代にソ連からアメリカに亡命(移住)した文筆家です。

亡命ロシア人というのは、大きく3波に分けられるとのこと。

第1波は、1917年のロシア革命に続く混乱期に国外亡命したロマノフ王朝関係者や、帝政ロシア軍のうち赤軍に参加しなかった白軍将校、革命政権を支持しなかった文化人など。ケレンスキーやラフマニノフなどが有名です。
1929年に国外追放されたトロツキーまでが含まれるのでしょう。

第2波は第2次世界大戦時の亡命者。

第3波はデタント(緊張緩和)の国際情勢下、ソ連から合法的に亡命を許可された人々。“合法的な亡命”って???となりますが、ロシア語では亡命者と移住者の区別されないそう。ソルジェーニツィンが代表格で、バレエのバリシニコフなども。
『亡命ロシア料理』の著者2人は、1977年にイタリア経由でアメリカに移住しました。

さてさて、『帰れ、鶏肉へ!』。
材料は鶏肉、玉葱、ローリエ、粒胡椒、バターだけ。水は一滴も使わない。
『亡命ロシア料理』によれば玉葱は乱切りだが、私は少しアレンジして半割か四つ割りに。そのほうが玉葱らしさが残って良い気がします。

レシピは、早い話、上記5つの材料を蓋がしっかり閉まる厚手の調理器具に入れて軽く塩を振る。弱火にかける。そのまま1時間。火を消して30分。それだけ。
調理中は、「掃除なり、愛なり、独学なりに精を出せばいい。台所にいなくったってすべてはうまくいくのだから」とある。

何度か作ってみて、自分流にアレンジしたレシピが完成。ご紹介しておきましょう。使用した調理用具は深めのスキレットです。

1. 鶏肉は腿肉でも手羽肉でもよいが、手羽だと多少パサつくので、私自身は腿肉が好み。塊をざっくり切って重量比0.5%の塩を振り、10分ほど置く。
2. スキレットを熱して鶏肉を投入。焼き目が付いたら取り出す。
3. スキレットが触れるくらいまで冷めたら、玉葱を敷き詰め、上にローリエ、粒胡椒、バターを乗せ、さらに鶏肉を並べる。
4. 蓋をして弱火に掛けて1時間。火を消して30分。
これだけ!

1時間半すると、オニオンソースを敷いた鶏肉の蒸し焼き料理が完成。これホントに美味しいです!
鶏肉は腿肉で作るとかなりホロホロ状態に。オニオンソースをパンに付けて食べ出したら止まりません(笑)。

『亡命ロシア料理』には、「このオニオンソースは茸やサワークリーム、キャラウェイなどを積極的に受けとめる」との記載がある。
次は応用編にチャレンジしよう。

IPAという苦~いビール

IPAとはインディアン・ペールエールのこと。
イギリスがインドを植民地支配していた時代、長い船旅でも腐らないようにホップを思い切り効かせて造ったビールです。
ブルーのラベルはスコットランド、ブリュードッグブルワリー製。
PUNKを名乗るほどデタラメなビールではない(笑)。苦味とフルーティーさのバランスが絶妙。

ラベルの下のほうには、“POST MODERN CLASSIC”とも。ポストモダンで古典的???私の英語力ではニュアンスを正確には理解できませんが、気持ちはなんとなく…

グリーンラベルはシカゴのグースアイランドブルワリー。ラベルの半分をホップのイラストで埋め尽くしただけあって、苦味最高!目が覚めます(笑)。

ルーツをたどれば“帝国主義の落とし子”とも言えるIPA。今、世界中で大ブームです。何をやるにもストレスだらけの時代に強い苦みがウケているのかも知れませんね。

【追記1】言ってしまえば、チョコレートもコーヒーも紅茶も帝国主義の落とし子。胡椒のぶんどり合戦は植民地争奪戦の大きな発端のひとつでした。

世に溢れる帝国主義の遺産を享受するとき、その背景にある負の歴史に想いを巡らせることも大切かなと思います。

【追記2】
今、ビールに帝国主義の直接の影を見ることはありませんが、前記の3つの他にも綿花などではフェアトレードが成立しないなど、新しい形の帝国主義が見え隠れします。否、ある意味、それが堂々と闊歩していることを忘れてはいけないのでしょう。

絞り出しという茶器

和モダン系の器に手を出すのは珍しいのですが、これはよかった。信楽焼です。
“絞り出し”という急須の一種。取っ手もなければ茶漉しもない。本体と蓋の間の隙間から文字通り絞り出す感じ。
中国茶器の蓋碗(がいわん)に近いです。

取っ手のない急須=宝瓶(ほうびん、または、ほうひん)よりもさらに原始的な急須。原始的じゃなくて素朴と言えば聞こえがよいか(笑)。

茶殻が処理しやすい。茶葉の色の変化がよく分かる。
その良さを棄ててまで、注ぎ口や茶漉しが必要だったのか… 絞り出しのほうがイイじゃん!と余計なことまで考えてしまいました。

柑橘系際立つ松江の酒

「豊の秋」は島根県松江の米田酒造のブランド。中でも純米吟醸は「花かんざし」と銘打ってます。
コロナ禍の少し前だったか… 新宿の居酒屋で出会って、「これはイケる!」と思った記憶が。

出入りの酒屋で、「花かんざし」発見!
“イケる”以外はよく覚えていなかったのですが、もう一度試そう!と。

スッキリした果実香と果実味。酸味が際立っているので柑橘系の印象があります。スダチとかカボスみたいな。
この写真では分かりにくいですが、色はかなり黄色味がかっています。おそらく濾過はしてないか…
今現在の私の好みとして少し甘かったですが、この酸味は久々に味わった爽やかさ!
上出来です。

百舌鳥という名の日本酒

最近は小洒落たラベルの日本酒が多い。特に余白を生かしたデザインが目立つようになった。
出会ったのは、上喜元の『百舌鳥』。

百舌鳥(モズ)というと小っちゃいくせに獰猛な肉食で、はやにえ(冬に向けて保存用に獲った蛙など)を木の枝に刺したまま忘れてしまうとか、個人的にはあまり好感は持っていなかったのですが…
はやにえ忘れは誤情報で、ちゃっと食べているそう。
そして、“百舌”の云われは、様々な鳥の鳴き声を見事に真似るから。なんのために真似ているのかは研究中とのこと。
鳥の鳴き声が言語であるというのは今や常識。島言葉から津軽弁まで流暢に使いこなす百舌鳥の言語体系はどうなっているのか(笑)。

で、お酒に戻ります。上喜元は山形県酒田酒造のブランド。どれを飲んでも美味しいですが、今回は初めて出会った百舌鳥の一升瓶に手を伸ばしました。
酒蔵の能書きとしては百舌鳥に引っ掛けて、「どんな飲み手にも、どんな料理にも」という間口の広さが売りのよう。流行のダイバーシティですか?と突っ込みたくなります(笑)。

間口の広さはイマイチ認識できませんでしたが、品の良い果実香+米の香り。出来の良い吟醸だと思いました。お手頃値段だし。
米の香りありだけど糠臭さは一切なし。そういう意味でも品が良い。個人的には少し甘かったかな…とも。
その吟醸香は、さすがラフランスとかブドウの産地。微妙に洋物果物の香りがきます。なかなかイイです。このお酒。

フィンランドビールを味わう

偶然、手に入ったフィンランドビール。
醸造会社は Laitila(ライティラ)と言います。
2001年以来、すべての製品を風力発電による電気で作っているそう。20年前から!北欧の環境意識の高さには頭が下がります。
瓶ビール派の私としては、缶なのが少し残念ですが…

ブランド名の Kukko は想像の通り「オンドリ」を指します。発音は「クッコ」。
英語の「カッカドゥードゥルドゥー」よりも日本語の「コケコッコー」に近い感じがして、思わずニンマリ(笑)。

そう言えば、以前に取材した鳥取の養鶏場の社長さんは、ニワトリたちを“コッコ”と呼んで愛でてました。採卵養鶏なのでメンドリで、平飼いでした。

で、フィンランドビールに戻ります。
向かって右は TUIMA。ドイツの黒ビールの一種ドッペルボック(Doppel Bock)というカテゴリーです。濃厚さが売りなので楽しみです。
中央の HELES はチェコのピルスナータイプ。ということは、日本の大手のラガービールに近そう。
左は世界中で大流行りのIPA(インディアン・ペールエール)。ホップを効かせて苦みが立っているはず。

…というわけで、降って湧いたフィンランドビールブーム。1本ずつ楽しんでみました。

オレンジ缶のIPA。
濃厚な味で、よく出会うシャープな苦みのIPAとは一線を画します。
ほどよい苦みに黒ビール系の甘味がかぶさる感じ。うっすらと酸味も。
色からして黒ビールに近い濃褐色でした。

ブルー缶のHELLES。
予想通りオーソドックスなピルスナーです。一頃よく見かけたデンマークのカールスバーグに近い軽さ。日本のラガーで言えばサッポロの赤星が近いか。昨今流行のキレより柔らかめな口当たりを追求している感じ。
ちなみにフィンランド語の“helles”は「軽い」。他に「光」という意味もあるそう。

ブラック缶のTUIMAは「厳しい」とか「荘厳」という意味のフィンランド語。ガツンとくるかと覚悟していたら、角の取れた完成度の高い濃いビールでした。
黒ビール系のドッペルボック(Doppel Bock)系と書きましたが、TUIMAに関しては濃褐色というのが適切。
果実香に加えて焙煎香があり、ほのかにコーヒーを感じました。口に含むと品の良い甘味が… アルコール度数が8.5%と高いので、チビチビ飲るビールですね。
ドッペルボック(Doppel Bock)は英語ではDouble Bock。ボックの中でも麦芽を多く使って醸造するそうです。
かつて修道士が造り、断食中の栄養補給のために飲んだと。「液体のパン」とも呼ばれていたとか。
愛称のTUIMAの「厳しい」「荘厳」は味わいを指すではなく、修道士の生き方を比喩しているかな… とも思いました。分かりませんが(笑)。

というワケで、束の間のフィンランドビールブームはとりあえず〆。
LaitilaのIPAとTUIMAは、出会ったらまた飲んでみたいビールです。

なぜかハンガリー風パプリカチキン

時々作りたくなるハンガリー風パプリカチキン。
ハンガリーには行ったことはない。

ロケでノルマンディーのエトルタに行ったことがある。モネの奇岩の絵で有名な場所。
エトルタはそこそこの観光地でホテルが高いので、泊まったのは隣のイポールという小さな村だった。
コーディネーターが見つけてきたのは、なんとオープンに向けて内装工事真っ只中の小さなホテル。海沿いで部屋から砂浜が見えた。宿泊客はロケチーム5名と工事関係者のみだ。
商売熱心で工事中にも関わらず夜はバーも開いていた。さっそく様子見に…

小柄だけどがっしりした体格の中年男が寄ってきて、「中国人か?日本人か?」と訊くので、「Je suis Japonais.(私は日本人だ)」と答えた。
学生時代にほんの少しだけフランス語をやったので、ほんの少しだけフランス語がしゃべれる。ほんの少しね(笑)。
これがいけなかった。相手は一気にフランス語でまくし立ててきた。サッパリ分からん(笑)。

日仏完全バイリンガルのコーディネーターにSOS。しかし、「かなり変なフランス語で何を言っているのかさっぱり分かりません」と。

私からは田舎のフランス人にしか見えない工事関係の中年男、「マジャール!マジャール!」と言いながら、なぜか自分の尻を叩いている。
「この人、自分はマジャール人だって言ってるんじゃないの?」と私が先に気がついた。そこからはコーディネーターが東欧系フランス語だという認識で対応してくれたので、話が通じるようになった。

かいつまんで言うと、「俺はマジャール人でモンゴロイドなんだぜ。子どもの頃は尻に青いアザがあったんだ。お前らとは兄弟だぜ!」「ハンガリーから出稼ぎでノルマンディーに来てるんだ。内装工事屋だぜ」みたいな話。盛り上がった!
マジャール人がモンゴロイド系であることは間違いないそうだ。その西進はモンゴル帝国よりも前で、いっときはフランスやイベリア半島にまで勢力を伸ばした。やがて押し返され、多くが現在のハンガリー地域で定住したと言われている。

この夜の出会いがあってから、ハンガリーとマジャール人に親近感を持つようになった。そして思いだしたようにパプリカチキンを作る。ハンガリー料理の代表格で現地ではパプリカ・シュチルケ(Paprikás csirke)と呼ぶ。

材料は、鶏もも肉、玉葱、ニンニク、バター、ローリエ、パプリカ(粉末)、パプリカ(生)に白ワイン、塩胡椒。付け合わせはジャガイモと人参。パスタでもよい。トッピングは本当はサワークリームだが、ウチでは水切りヨーグルトで代用。ディルを少しだけ振る。
コツは粉末のパプリカをふんだんに使うこと。2人前でスパイス小瓶の半分くらいはいきたい。
ヨーロッパに行く機会があったら今度はハンガリーへも… と思っている。コロナが明けないと身動きとれないが。

しぼりたて生原酒を味わう

小さな酒蔵の快挙に乾杯!
蔵人だけが味わえるしぼりたての生原酒を翌日に呑むという贅沢を経験しました。

どこの酒蔵でも、新酒と呼ばれるものは“しぼりたて”を売りにしています。
ただ、まったくのしぼりたてでは味が安定しないので、最低でも数日おいて酒を落ち着かせてからビン詰めするそうです。

今回味わった岩手県廣田酒造店の『今朝しぼり直送haruしずく』は、桃の節句の3月3日にしぼり、直ちにビン詰め。翌日にはあらかじめ予約した呑兵衛の手元に!という嬉しい趣向。

無濾過なので“うすにごり”があり、上澄みは上品な黄色味を帯びる。
さっそく味わってみると…
しぼりたてらしい新鮮さに溢れている。ただ、“フレッシュ”という言葉から連想する柑橘系の果実香・果実味ではない。
確かに果実を感じるのだが… なんだこれは?
柿だ!それも生柿ではない。干し柿とかあんぽ柿の香りと甘味がある。

生酛系の酸基醴酛(さんきあまざけもと)による仕込みで旨味たっぷり。一方で、しぼりたてならではのキレのよさもある。
精米歩合は55%で、カテゴリーとしては吟醸酒。酒米は地元岩手県産ぎんおとめ100%。アルコール度は原酒としては低めの16度。飲みやすいです。

ひとつだけ残念だったのは、ラベルがビニールシールだという点。しぼった当日にビン詰め、出荷という事情かと思ったら、裏ラベルは紙製でした。透明感を強調したいという気持ちは分かりますが、やっぱり表ラベルも紙がよかったなぁ~ と(笑)。

しかしながらこの経験、貴重でした。居ながらにして蔵人の贅沢!来年も予約しようとかたく心に決めました。

酸基醴酛(さんきあまざけもと)を味わう

このところ贔屓にしている酒蔵があります。
岩手県紫波町(しわちょう)の廣田(ひろた)酒造店。ブランド名は廣喜(ひろき)です。
紫波といえば南部杜氏発祥の地。江戸時代初期からの酒造りの歴史を誇ります。

この蔵が目指す日本酒は、「冷でおにぎりの甘味、燗で炊き立てのご飯の旨味と冴え」だと。これは見事なコピー!一読で深~く記憶に刻み込まれました。

酒造りを仕切るのは小野裕美杜氏。南部杜氏初の女性です。酒米はすべて岩手県産で、一部は自社の田んぼで栽培しています。

この酒蔵をもっとも特徴付けるのは酸基醴酛(さんきあまざけもと)による醸造。
「酸基醴酛ってなんだ?」って、少しばかり日本酒に詳しい人でもそうなります。私もそうでした(笑)。

酛(酒母)とは酒造りのメインイベントとも言えるアルコール発酵が進む過程または状態のこと。酉偏(酒)に元ですから、文字通り”日本酒の元”。蒸し米と米麹、仕込み水、それに乳酸菌(または乳酸)と酵母が揃って”酛”になります。

酛で最後に活躍する微生物が酵母。ブドウ糖をアルコールと二酸化炭素に分解するアルコール発酵を担います。
乳酸は酵母が活躍するための舞台作りをします。乳酸は酛の中の雑菌を死滅させる強力な力を持っています。しかし酵母だけは乳酸に強いのです。

で、乳酸をどうやって酛に供給するのか… 大別すると2つの方法があります。
なんらかの形で酛の中で乳酸菌を増殖させて乳酸を生む生酛(きもと)系。
乳酸菌を使わずに、いきなり乳酸を酛に投入するのが速醸法。
乱暴に言えば、「どうせ雑菌を殺すための乳酸なんだから、乳酸菌から作るのは面倒。乳酸そのものをぶち込んじゃえ!」というのが速醸法(速醸酛)です。

現在の日本酒造りは速醸法が主流になっています。乳酸を雑菌を殺すという主目的だけに使います。
一方、乳酸菌を使う生酛系では、乳酸の生成以外にもメリットが出てきます。たとえば酒に旨味や深みが増す… 乳酸菌が作るある種のアミノ酸が関与していると言われています。
速醸法で作った日本酒に、スッキリした淡麗系が多いのは事実。逆に生酛系では旨味が前面に出て、ほどよい酸味を持つことも多いです。淡麗にはなりません。

生酛系を細かく分類すると3種類になります。生酛、山廃(やまはい)、そして酸基醴酛です(生酛系の中に生酛があるのでちょっと分かりにくいですが、「もっとも典型的な生酛系を生酛と呼んでいる」とご理解ください)。

生酛は江戸時代からの酒造り法。蔵の壁や天井、空気中、樽などに生きる天然の乳酸菌(蔵付きの乳酸菌)が、酛の中に入り込んで増殖するのを待ちます。

山廃は正確には「山卸(やまおろし)廃止酛」。明治後期に開発された方法で、「生酛作りから山卸という重労働を廃止した」という意味。蔵付きの乳酸菌を使うのは生酛と同じです。

ただ、「江戸時代以前には、山卸という作業はなく、今で言う山廃に近い形で酒造りをしていた」という説もあり、生酛と山廃のどっちが古いのか?は議論が分かれるところです。

そして3つ目が酸基醴酛。
明治時代に開発された生酛系の酒造りで、培養した乳酸菌を酛に加えることで、酒の個性を引き出します。乳酸菌と一口に言ってもいろいろな性格のものがあり、その選び方でできあがる日本酒が違ってくるのです。

だいぶん横道にそれてしまいましたが、廣田酒造店に話を戻しましょう。
廣田酒造店では、今、ほぼ全量を酸基醴酛で醸造しています。酸基醴酛で使う乳酸菌は、もともと蔵付きだった乳酸菌を岩手県の技術センターの協力で培養してもらっているそうです。

今、味わってるお酒は『純米 廣喜 磨き七割』。精米歩合で言うと70%。酒米の外側30%しか磨いていない(削っていない)ということです。


昨今は果実香(吟醸香)と淡麗な味わいを求めて、吟醸酒(精米歩合60%以下)、大吟醸酒(同50%以下)流行ですが、磨けば磨くほど米の旨味が失われていきます。米の香りや味わいを楽しめる酒にしたいなら、あまり磨かないに限るのです。もちろん糠臭くなってはいけませんが。

さて、「冷でおにぎりの甘味、燗で炊き立てのご飯の旨味と冴え」を掲げる酒蔵の『純米 廣喜 磨き七割』。どうでしょうか?
冷や(冷蔵庫保存)で飲むと閉じた印象。おにぎりはおにぎりでも冷蔵庫で冷やしたみたいな… 冷やしすぎた白ワインに苦みを感じて、飲んでいくうちに温度が上がり甘味や酸味が出てきて、最後の最後で美味しくなることがありますが、そんな感じです。

燗を付けると、これがビックリ!米の旨味が上がってくるのはもちろん、果実香までは行きませんが、ほのかな酸味が出てきて、たいへんバランスのよい味わいになります。リーズナブルな普段飲みのお酒としては申し分ありません。
ちなみに小野裕美杜氏は「熱燗を平杯で」を薦めています。平杯は冷めやすいので、私自身はめったに使いませんが、このお酒、温度については熱燗または上燗がお薦めです。

「炊き立てのご飯の旨味と冴え」は、「そう言えば…」と納得できる世界(笑)。あらかじめ知ってると先入観がありますから。

もともと山廃や生酛が好きなので、酸基醴酛もいろいろ呑んでみようと思います。
ちなみに、現在、酸基醴酛で日本酒造りをしている蔵は7軒ほどだそう。廣田酒造店から聞いた話です。

追記:
「熱燗は邪道」と言われるようになって久しい今、私が知る限り、熱燗を薦める杜氏が日本に少なくとも2人います。
廣田酒造の小野裕美杜氏と京都・木下酒造のフィリップ・ハーパー杜氏(イギリス出身)。ともに生酛系の酒造りをしているのは偶然ではないでしょう。

2021年 干支の料理はグラスフェッドビーフで作る『ハンギ』

世の中大混乱の2020年を引きづったまま2021年へ。
恒例の「MSLABの干支の料理」は丑年を迎えました。

生産時の環境負荷が高い牛肉は、このところ逆風にさらされています。
今後は牛肉の消費量が減っていくのか… 環境負荷の低い飼育法へ移行できるのか… 様々な議論があります。
とは言え、干支の料理ですから牛肉を使うしかありません(笑)。

素材として選んだのはニュージーランドのグラスフェッドビーフ。牧草だけで育てた牛です。
配合飼料を作るための環境負荷はゼロ。本来の餌を食べることでストレスの少ない牛が育ちます。

調理法はニュージーランドの先住民マオリから学びます。
ハンギ(Hangi)という伝統的な料理。地面に掘った穴に焼き石を敷き、その上に大きな葉っぱで包んだ肉や根菜を入れ、土を被せて数時間… というのが本来の調理法。
言ってみれば大地をオーブンとして使う蒸し焼き料理です。
さすがに庭に穴を掘って再現はできないのでスキレットを活用します。

ハンギ(マオリ風牛肉と野菜のロースト) Hangi: Maori style Roast Beef with Vegetables

簡単にレシピを紹介しましょう。
まず、牛肉塊に少量の塩を擦り込みます(重量比0.5%程度)。強火で熱したスキレットで牛肉に焼き目を付け、一度取り出し…
弱火にしてスキレットにキャベツを敷き詰めます。これで焦げ付きを防止し、蒸すための水分も供給できます。
キャベツの上に牛肉、ジャガイモ、サツマイモ、人参、南瓜、玉葱などを並べます。
その上を濡れ布巾で覆ったあと、蓋をして30分~40分弱火で蒸し焼き。
火を消したら、さらに30分~40分余熱で蒸します。

レシピだけ見るとウエルダンのローストビーフのように感じますが、なぜかホロホロした食感になって美味しいですよ!
語弊有り覚悟で言うと、ちょっとコーンビーフのような口当たりになります。
余計な脂がないグラスフェッドビーフが柔らかく仕上がり、牛肉そのものの味わいを伝えてきます。
味付けは、牛肉に擦り込んだ少量の塩だけですが、野菜は旨味たっぷりに仕上がり、調味料なしで楽しめます。
物足りなければ、多少塩を付けても良いし、マスタードやバーニャカウダ、ジャジキ(ギリシャ風ヨーグルトディップ)でも美味しいです。

無人島だったニュージーランドにマオリが渡ってきたのは約1000年前。ヨーロッパ人がやって来たのは17世紀です。
本格的にヨーロッパ人の移住が始まったは18世紀。イギリスのジェームズ・クックが上陸し、イギリス領だと勝手に宣言しました。
入植者と先住民の衝突、マオリの部族間抗争、ヨーロッパからもたらされた伝染病など不幸な歴史がありました。
羊や牛がニュージーランドに入ってきたのも、この頃でしょう。それ以前に、マオリの食文化として野生動物の肉を使ったハンギがあったのかどうか… 今となっては知る由もありません。

イギリスの植民地となったニュージーランド。1864年にマオリに選挙権が認められてますので、アメリカやオーストラリアとは異なる植民地史をたどります(ちなみに、アメリカでネイティブアメリカンに市民権が与えられたのは1924年、オーストラリアでアボリジナルピープルに選挙権が認められたのは1967年)。

今のニュージーランドを見ると、ヨーロッパ系の人々が先住民に敬意を払って暮らしていることが見て取れます(すべてが平等になっているとは言えないのでしょうけど)。
コロナ対策で一躍世界をリードしたアーダーン首相。その内閣の外相はマオリのナナイア・マフタ氏です。ラグビーニュージーランド代表・オールブラックスが国際試合前に踊るハカはマオリ戦士の舞踏をルーツとするのはご存じの通りです。

ニュージーランド産グラスフェッドビーフのハンギ。そのキーワードは“敬意”ですね。
『大地に敬意を払う』
『先住民とその文化に敬意を払う』
『伝統的な調理法に敬意を払う』
そんな思いを抱きながら2021年を迎えました。

● 動画(約2分)
https://youtu.be/t58MhHJ_gks

附記:
スキレットを使ったハンギは牛以外の肉でも美味しく作れます。鶏や豚の場合は、ローズマリーとニンニクを加えるのがお薦め。 蒸し焼きの際に肉の上に乗せるだけでOKです。

● MSLABの干支の料理(バックナンバー)
https://www.mslab.com/eto/menulist.html

もう1本の日本酒映画

ひとつ前の記事で言及したドキュメンタリー映画『カンパイ!日本酒に恋した女たち』には前作があります。『カンパイ!世界が恋する日本酒』で、監督は同じ小西未来さんです。

主な登場人物は男性3人で、
ジョン・ゴントナー:日本を中心に活動する日本酒伝道師(アメリカ・オハイオ州クリーブランド市生まれ)
フィリップ・ハーパー:京丹後市久美浜『木下酒造』の杜氏(イギリス出身)
久慈浩介:岩手県二戸市『南部美人』の五代目蔵元

Amazon Prime Videoで観られます。

この映画も音楽を使いすぎていて、ややもったいない感じはありますが、登場人物たちの“勢い”はダイレクトに伝わってきます。
ゴントナーさんの日本酒Loveは半端じゃありません。
ハーパー杜氏のチャレンジ精神とド根性には頭が下がります。
久慈浩介さん。すべてに熱いです。

“恋した女たち”は悪く言えばシンプルなサクセスストーリー。“恋する日本酒”のほうは、深い挫折とか葛藤があってストーリーにうねりがあります。
1つだけネタばらしをすると、東日本大震災がらみのエピーソードは、よく取材していたし、まとめかたも見事でした。何度かホロッときました。

で、この映画を観て飲みたくなった日本酒!
なんといっても木下酒造の『玉川』です。イギリス出身、それもオックスフォード卒の杜氏が造る酒。いやが応でも興味が湧きます。
玉川 京都府丹後の蔵元 | 木下酒造有限会社 (sake-tamagawa.com)
熟成酒と常温管理がこの蔵の特徴で、生酛や山廃といった自然仕込みが中心。
そして、(すべてのアイテムではありませんが)杜氏が上燗で飲むことを推奨している!一般的に、上燗は45℃と言われますが、映画の中でハーパー杜氏は、もっと高い温度で飲むことを薦めてました。これは正直驚き!
果たして目から鱗が落ちるか… 飲んでみなくては分かりません(笑)。

木下酒造は蔵元直の通販がないので、少々入手しにくい酒ですが、割と近くの駅に扱っているお店を見つけたので、近々トライしようと思います。

 

 

八反草と女性杜氏

酒は東広島安芸津にある今田酒造の『富久長(ふくちょう) 純米吟醸 八反草(はったんそう)』。八反草は酒米の名前で、初めて出会いました。

広島には、“八反”が付く酒米が何種類かあります。少し名が知れているのは八反錦。これは飲んだことがあります。

八反草は八反錦をはじめとする八反系のルーツとされます。今現在は、今田酒造だけが唯一酒造りに使っています。

なぜ富久長にたどり着いたのか… 実は今田酒造の本店取締役兼杜氏は今田美穂さんという女性です。現在、全国を見れば女性杜氏は今田さんだけではありませんが、まだまだ珍しい存在。そう遠くない昔、酒蔵は女人禁制とされていたのです。

その今田美穂さんが、BBCの“今年の女性100人”の1人に選ばれたのです!というわけで、たいへん軽薄な動機で富久長に飛びついた次第(笑)。
実は、『カンパイ!日本酒に恋した女たち』というドキュメンタリー映画があって、今田さんの酒造りを大きく取り上げています。それが“今年の女性100人”につながったのだろうと思います。

さて、『富久長 純米吟醸 八反草』です。
旨味はとても豊か。適度な酸味とドライさも兼ね備えています。だから芳醇なのにキレがイイ!香りは華やかで、吟醸香と括ってしまうのはもったいないくらい。果実、それも桃の香りを感じました。漢字一字を当てると“鮮”でしょうか。味・香りとも鮮やかでフレッシュさが際立ちます。米の香りはほぼ来ませんから、「白ワインじゃねぇんだから、気取ってんじゃねぇよ!」みたいな悪態をつく呑兵衛がいるかも知れません(笑)。逆に言えば、それくらいの気品を漂わせていると。
純米吟醸なので冷やが一番のお薦め。ですが、ぬる燗にしてもその味わいが下がることはなく、優しさが加味されます。

今田さん曰く「山田錦や雄町は、頑張れば応えてくれる酒米。八反草は全然言うことを聞いてくれない」のだそうです。途絶えかけていた地元の酒米にチャレンジして、見事な日本酒を仕上げた今田美穂さんに乾杯!です。

● 今田酒造(富久長)
https://fukucho.info/?pid=16614959

● BBC 100 Women 2020
https://www.bbc.com/news/world-55042935

● 映画『カンパイ!日本酒に恋した女たち』
ホームページ:http://kampaimovie.com/
Amazon Prime Videoでも公開中
音楽を使いすぎていて、ドキュメンタリー映画としては今一つでした。「蔵の音」とか「蔵人の息づかい」が聞こえてこないのはもったいなかったです。
ただ、情報としてはきわめて貴重な内容に踏み込んでいて、興味深く観ることができました。
主な登場人物は、今井さんの他に、ニュージーランド出身の日本酒コンサルタントと東京の日本酒バーで活躍する日本酒ソムリエです。

煎茶と桜餅

湯飲みに口を近づけた。桜餅の香りがほのかに漂う…

なにやら複雑な気分で迎える桜の季節。
首相主催の桜を見る会が中止になったのはヨシとしましょう。しかし、その闇は、ひとつも暴かれていない。

毎年この季節、桜の開花に先行して、「静7132」という煎茶を楽しんでいます。なんとも色気のない品種名は、静岡県茶業試験場が作り出したからだそう。開発当時の管理番号が、そのまま名前になりました。
ところが、この静7132、その名に似合わぬ艶っぽさというか、可愛らしさがあります。桜餅の香り(塩漬けした桜の葉の香り)がするのです。初めて飲んだとき、「なんだこの煎茶は!」と、もうビックリ。
静7132のお茶請けは、桜餅しかありません!それも、道明寺ね!と勝手に決めています。

「やぶきた」というメジャーな一品種が、栽培面積の75%を占める、なんとも多様性に乏しい日本茶の世界ですが、この間やっと、マイナーな品種が注目を集めるようになりました。しかし、その中でも、桜餅の香りは静7132にしかありません。

今飲んでいるのは、静岡県の元藤川地区で小西さんという方が無農薬で作った静7132。桜餅の他に、独特の甘味があります。渋みはほぼありません。
桜餅香は、クマリンという香気成分によるもので、実際に、桜の葉にも静7132にも含まれています。科学だな~っと。

で、強引に話を展開します。
世界中で感染が広がる新型コロナウイルス。まったく科学的な立場を取らずに、行き当たりばったりの対策で、混乱だけを招いている政府があります。もちろん、日本の安倍政権。

なにしろ、ウイルス検査に後ろ向き。検査しなかったら、どこに感染者がいて、どこにウイルスがいるのかを掴むことができません。軽症の患者が感染を広めるのを抑えることが不可能になります。そこには、防疫も科学もありません。

調べないから、データ上の感染者数は、他国よりも伸びが遅い。当たり前ですよね。
オリンピックが流れるのが、そんなに怖いのか… すでに風前の灯火だと思いますが。

「下手にデータを残すと、また、シュレッダーしなくちゃいけないし」とでも思っているのでしょうか?
とにかく、正確なデータ収集とその解析は、すべての科学的取り組みの基本中の基本。防疫においても、まったく同じでしょう。

「調べすぎると、医療体制が崩壊する」みたいなことを言ってる人もいますが、これは本末転倒。韓国のドライブスルー検査のような形にすれば、医療体制全体への影響は最小限にできるし、軽症の人には、きちっとした自宅での隔離方法を指導すればよいのです。
アメリカも検査が遅れていますが、ペンス副大統領が、検査キットの不足を正直に認めました。トランプ政権は一切評価しない私ですが、日本政府よりはマシですね。咳が出て、発熱しているのに、検査を断られる例が続出しています。

さてさて、暗~い気分で迎えた桜の季節。
静7132と桜餅から、ひとときの癒やしをもらいました。

鰤雑煮は厳冬の日本海の味

出雲風鰤雑煮(左が十六島海苔)

わが家の新年は、『鰤雑煮』なしでは明けません。

鰤雑煮は、福岡、長野県(松本周辺)にもありますが、ウチのは出雲風。鳥取県伯耆地方の山奥出身の父親が伝えたものです。

餅は、関西風の丸餅。
主役の鰤は、年末に運良く入手できた境港水揚げの天然寒鰤。塩鰤にして、冷凍しておきました。

出雲風鰤雑煮に欠かせないのが、十六島(うっぷるい)海苔です。出雲市十六島町(うっぷるいちょう)の特産品で、真冬の日本海、荒波打ち寄せる岩場で手摘みされた逸品。磯の香りと強いコシが特徴で、出しで溶くと、髪の毛よりも細い黒い糸状になり、餅に絡みます。
正月からケチな話で恐縮ですが、20グラムで2000円以上します(笑)。出雲の乾物屋さんから購入です。

しかし、“十六島”と書いて、“うっぷるい”と読む。朝鮮語語源とも、アイヌ語とつながるとも言われています。古くから日本列島の出入り口だった出雲。人も物も文化も、盛んに往来しました。“うっぷるい”は、その足跡のひとつなのでしょう。

さて鰤雑煮。出しは昆布とスルメで取ります。他の材料は、長葱、木綿豆腐、蒲鉾あたりが“必”で、お節の煮しめから、椎茸、筍、牛蒡などを入れるもよし。飾りに、三つ葉と柚子を添えて完成です。

寒鰤に十六島海苔。厳冬の日本海側で、冬だからこその味覚を楽しむ、ちょっとした贅沢。それが出雲の鰤雑煮なのでしょう。

2020年干支の料理は、「女貞子鶏湯」

女貞子鶏湯(ねずみもちの薬膳スープ)

新年に発表し続けている『 干支の料理 』。26回目になりました。
2020年は子年。十二支最大の難関が3回目を迎えました。

ウェブや文献などいろいろ調べて、たどり着いたのが、「ネズミモチ」。街路樹として植えられることもあります。
そう言えば、どこかの公園で“ネズミモチ”と書かれた白い札の付いた樹を見た記憶が…
不思議な名前は、黒っぽい小さな実がネズミの糞に似ていることに由来します。

乾燥させたネズミモチ(正確にはトウネズミモチ)の実は、女貞子(じょていし)と呼ばれる薬膳食材です。
煎じて薬膳茶として飲んだり、スープに使います。
お茶として飲むと少し黒豆に似た味わいで、飲みにくさはありませんが、黒豆茶ほど美味しくはないかな(笑)。

漢方の五性五味では、「涼・苦甘」に分類され、身体を冷やす働きがあります。
強心、利尿、緩下、強壮、強精薬、解熱剤として古くから用いられてきたようです。
枸杞(平・甘)や桂皮(熱・甘辛)と相性がよく、桂皮、要するにシナモンと合わせると陰陽のバランスが取れるそうです。

さて、料理です。
漢方の蒸しスープにしました。中国風に書けば、“女貞子鶏湯”。和訳は、分かりやすく、“ねずみもちの薬膳スープ”としました。
材料は、女貞子(ネズミモチ)、桂皮(シナモン)、枸杞(クコ)、紅棗(ナツメ)、骨付き鶏肉、昆布。
骨付き鶏肉は熱湯で軽く霜降りし、その他の材料はそのまま器に投入。水を注いで1時間蒸籠で蒸すのみです。
塩味を付ける必要もなく、滋味深い薬膳スープが完成します。

政治的にも環境問題的にも、なにやら地球規模で混乱が続く昨今ですが、まずは、薬膳スープで心と身体を健全に保つか!と。

人間が自然と対話しながら見つけ出してきた優しい食材。そのスープは、いやが上にも、「有限な広さを持つ地球」という、あまりに当然な原点に立ち戻ることを求めてきます。

● 動画(1分)
https://www.youtube.com/watch?v=o73IrPzHFiQ

● MSLABの干支の料理(バックナンバー)
https://www.mslab.com/eto/menulist.html

“奇跡のぐい呑み”は、備前の引き出し黒

いささか手前味噌になってしまい恐縮ですが、最近入手したこの器、“奇跡のぐい呑み”と勝手に呼んでいます。
溶岩が成り行き任せで固まって、たまたまうまい具合に凹みができて、それがまたうまい具合に、ポロッと折れてできたような… きわめて野趣溢れる一品です。

備前の作家、藤原章さんの作品。ドロッと掛かる緑がかった黒のガラス質は、釉薬によるものではなく、自然釉(薪や粘土から生じたガラス質)です。「備前と言えば無釉(自然釉はあり)」ですが、ここまでポッテリした自然釉には、初めて出会いました。藤原さんに直接確認したところ、「天然の雑木灰(緑に発色)と鉄分の多い山土(黒には発色)がねつで解けて光沢が出ております」との解説。
地肌はグレーというか、銀色に輝いています。「焼成中に窯の中から高温状態の器を引出し急冷する」という、“引き出し黒”ならではの発色。赤茶色が通常の備前焼の中では、異彩を放つ存在でしょう。

さてさて、造形だけを見るとシュールでアグレッシブな“奇跡のぐい呑み”ですが、驚くべき実用性が隠れていました。形が歪なので、変なところから呑もうと思うと呑みにくい。しかし、指が収まる場所が計算されていて、その凹みに親指と人差し指を入れて傾けると、お酒が実に飲みやすい角度で口中に流れ込んでくるではないですか!
いやはや脱帽!大切に使っていこうと思います。

フキノトウを採取

今年もわが家の猫の額の庭でフキノトウを収穫。いや、野生だから採取か。去年は5個しか採れなかったけど、今年は10個近くゲット。タイミングよく見つけられたので。
さっそく蕗味噌にして、鰆に載せて焼いた。美味い!
しかし、フキノトウが出る頃、毎年、花粉症がピークへと向かう。これさえなければ、春は最高の季節なのですが(笑)。
まぁ、なんか肌寒いけど、春は確実にやってきてると。

灯台もと暗し

灯台もと暗しでした。
わが家からきわめて近いところに、東京の名酒があったのです。東村山市の豊島屋酒造。醸造を始めたのは昭和初期ですが、ルーツは1596年に江戸の神田鎌倉河岸で始めた一杯飲み屋だというのが、なんとも嬉しい。関ヶ原の4年前だぜぇ!

何種類かの銘柄を作っていますが、フラッグシップはこの酒。『屋守』と書いて『おくのかみ』。通称はお察しの通り、“やもり”です。

今回飲んだのは、“中取り”。中汲みと同義で、日本酒を絞るときに、中程で得られる透明度の高い酒です。香と味のバランスに優れ、日本酒の「良い部分」と言われています。品評会に出てくる酒は中取りが多いそうです。

さて、屋守の中取り、色はほぼ透明。無濾過でこの色を出せるのは、中取りだからこそです。
見事な吟醸香が漂います(吟醸じゃないのに(笑))。酒米は広島の八反錦。香り高いとされる八反錦の魅力が存分に生きています。
生原酒をそのまま瓶詰めしているので、微発泡しています。味は濃厚でやや甘め。この甘さと微発泡が絶妙のバランスを醸し出します(二日に分けて飲んだので、二日目は微発泡が消えて、個人的にはちょっと甘過ぎになりました)。
そして驚いたのは、濃いけど、良い水の味がする!もちろん、水っぽいという意味ではありません。濃厚な日本酒の味わいの中に、間違いなく美味しい水の味がある。それが、この酒の品の良さにつながっている気がします。

蔵の見学も受け入れてるようなので、近いうちに行ってみようかな…

古備前よりも昔の備前焼

最近気に入っている器。備前焼の湯呑みです。色はホントに灰色。
備前焼が赤茶色の独特の色合いになったのは、鎌倉時代だといわれます。その後、室町、桃山の時代に茶道と出会うまでが『古備前』。

呼び方がややこしくなりますが、古備前以前の備前焼があります。朝鮮半島から焼き物の技術が伝わり、古墳時代から始まった備前エリアでの窯業。土器と陶器の中間に位置する炻器(せっき)の一種、須恵器(すえき)が焼かれました。
閉ざされた穴窯(あながま)で焼成するため、酸素の供給が不足し、還元焼成になります。灰色とか青灰色の発色は、粘土中の赤い酸化第二鉄が還元されて黒い酸化第一鉄になるという理屈です。

手に入れた湯呑みは、備前須恵器の焼成法を再現したきわめて古いタイプの焼き物。最初に手にしたとき、ホントに無彩色の灰色なので、「ちょっとやりすぎたか!」と躊躇もしたのですが、使ううちに深い愛着が。
まず堅い。普通の備前焼よりも明らかに堅いです。肌触りは石に近いものが… 小石が入ったままの粘土を使っているので、いくつかの石爆(いしはぜ)が見られ、味わいを深めています。

煎茶用の湯呑みですが、大振りのぐい呑みとしても使えます。冷凍庫で冷やすと、指が張り付くくらい冷えます。これは、還元焼成よって粘土内の気体酸素などが抜かれているせいでしょう。石に近い堅さを感じるのもそのせいだと思われます。

備前の作家、好本敦朗さんの作品。
久々にいい器に出会ったという実感が… 指先から伝わる感触が、遠い昔の瀬戸内へと想いを誘ってくれます。

北総大地の自然栽培酒米が王道の純米酒を支える

今宵の酒は、1980年代に始まる純米酒ブームを牽引してきた埼玉県蓮田の神亀酒造が造る『真穂人』。
酒米は有機肥料だけで育てた五百万石。精米度を60%と低く抑えて、米の味と香りを生かしています。産地は成田空港の近く。かつて三里塚と呼ばれた地域で、先進的な農家が生産しています。
『真穂人』。ぬる燗で呑むと、最高の日本酒です。

神亀の蔵主は、「下手な山廃より、出来のよい速醸」と主張します。確かに速醸法なのに、心地よい酸味と深い旨味があります。山廃ファンの私としては、その酸に引きつけられているのかも知れません。

注目したいのは酒米を作る農家。三ノ宮廣さん、石井恒司さん、小川進さんの名前にピンときたら、あなたは結構な事情通(なんの事情かは言いませんが(笑))。しかし、北総大地の原則的な農民たちは、今も、原則的な農業を守り続けている。これは事実なのです。

純米酒という日本酒の原則にこだわる神亀酒造と、北総の農民との出会いは、おそらく偶然ではなかったのでしょう。

上燗徳利という道具

最近入手した錫の上燗徳利。錫の酒器というとチロリが浮かびますが、珍しく典型的な徳利型。大阪錫器の製品です。新品では2万円以上しますが、骨董市で1/10以下の値段で入手。おそらく、骨董屋主人の目利き違いでしょう(笑)。ずっと欲しかった道具なので大ヒット!

日本酒の燗には、熱燗=50度前後、上燗=45度前後、ぬる燗=40度前後、人肌燗=37度前後、日向燗=33度前後などがありますが、もちろん、45度前後の燗付け専用ではありません。私の場合は、ほぼぬる燗か人肌燗です。
上燗という言葉には「ちょうどいい加減の燗」という意味もあって、要するに「美味しい燗」。
そう言えば、時々立ち寄る、新宿三丁目のおでん屋は『上燗屋 富久』。この店には、おそらく4合以上入ると思われる大きな上燗徳利があります。それを使って、主がみずから燗を付け、蛇の目のぐい呑みに注いでくれます。店名と上燗徳利に関係があるのかどうかは分かりませんが。

で、なぜ錫の徳利がよいのか… とにかく燗の付きが速いのです。これは熱伝導率の良さによります。陶器の徳利だと、なかなか温まらなくて、気がついたら、アッチッチ!なんてなりがちですが、錫の場合は30秒もあればぬる燗程度になります。もちろんお湯の温度によりますが。
家庭で燗酒が広まらない理由のひとつは、燗付けの面倒さ、難しさにあると思いますが、錫の酒器は、その問題をかなり解決してくれます。
慣れてくると、徳利の首や肩の部分を触っただけで、燗の付き具合が分かるように。徳利を通して日本酒と会話する。そんな趣です。
徳利(錫でも陶器でも磁器でも)で燗を付けると、どうしても上の方の温度が高くなります。これは、2つの徳利を使って酒を行ったり来たりさせることで解消します。大きめの徳利を使えば、軽く揺するように廻してあげるだけでも、温度は平均化します。

今や日本酒の飲み方と言えば、冷やが圧倒的な主流ですが、常温やぬる燗でこそ、味わいのある酒も、たくさんあります。上燗徳利を携えて、今宵も、あらたな旅に出ることにしますか(笑)。

東京の酒もなかなか

散りゆく桜に涙してというわけではないが、なんとなくラベルに惹かれて、今宵の一杯は嘉泉(かせん)の『東京和醸』。
淡麗系。精米歩合は60%とやや低めですが、糠臭さはなく、ほのかな酸味と果実香が心地よいです。
初めての酒は、色を見るために、必ず蛇の目の一合猪口で飲むのですが、ほとんど無色。活性炭を通しているのでしょう。雑味はほとんどありません。善し悪しは人それぞれですが(笑)。水の良さは感じます。

東京福生の田村酒造場。創業文政五年だそうだ。
東京にも、『澤乃井』『多満自慢』をはじめとして、いい酒があります。私の中では、『嘉泉』も仲間入り。個人的な好みとしては、もう少し骨太になるとさらに愛せるのですが

広島の八反錦と佐渡の朱泥焼締め

 

 

今宵の一杯は『華鳩』。広島、呉の酒です。

八反錦純米吟醸中汲み。「中汲み」というは、絞りはじめの「あらばしり」でもないし、最後に絞りきるため度数と雑味が強くなる「責め」でもないと。まぁ、日本酒の本体(本流?)と言ってよいのでしょう。普通、日本酒は、「中汲み」に「あらばしり」と「責め」をブレンドして作ります。「中汲み」は、見た目では透明度が高く、澄んだ味わいになります。

八反錦(はったんにしき)ってなんだ?主に広島県で栽培されている酒米。前に紹介した岡山の雄町(おまち)よりもマイナーです。八反錦の酒は「香りが高く、淡麗な日本酒に仕上がる」といわれています。

確かに、精米歩合は低めの55%なのに、しっかりとした吟醸香。これはいい!
一方、華鳩に関しては、八反錦の通説に従った淡麗さはありません。濃厚とまでは言えませんが、しっかりと旨味を発揮。おまけにほどよい酸味。実に見事に角が取れているのですが、今流行の日本酒のど真ん中ではない。「辛すぎず、香り高く、酸味を表に」という明確な方向性があります。
またまた反山田錦の血が騒いでしまいました!(笑)。

寄り添うぐい呑みは、佐渡の無名異焼、細野利夫さんです。朱泥の焼締めなので、常滑かと見まがいますが、これは佐渡の赤土。江戸時代に、金山銀山の残土から生まれたそうです。私からすれば、この赤土、金銀よりも、よほど価値がある!
佐渡の朱泥と八反錦の華鳩が、不思議とマッチした夜でした。

 

フキノトウが出た

わが家のネコの額の庭にフキノトウを発見!
葉っぱ(萼?)が開いてしまっていたので、「遅かったか…」と。「フキノトウは蕾で」という先入観を持っていました。
しかし、ちょっと調べてみたら、「花が咲いても大丈夫」、中には「花が咲いてからの方が美味しい」という意見も。
さっそく、収穫!というか、一応野生なので、“採取”かな。

フキノトウ味噌に。…と言っても、わたし流は、胡麻油で炒めたりとか一切なし。茹でて、酒で軽く延ばした味噌に練り込むだけ。味見をしたら、上出来でした。なんたって新鮮ですから!
湯豆腐に乗せても美味しいし、魚の切り身に乗せれば、料亭風の蕗味噌焼きも簡単に。
たった5個のフキノトウだけど、二三日は楽しめそうです。
花粉症さえなければ、“春”は最高なのですが(笑)。

冬の日本海は美味しい!

cimg0328セイコ(勢子)ガニ。ズワイガニの雌で、資源保護のため11月上旬から12月末までしか獲ることができない日本海の貴重な冬の味覚です。
なかなか東京では手に入らないのですが、近所のスーパーで発見!一杯数千円から、下手すると1万円を超えるズワイガニの雄(越前ガニ、松葉ガニ)に比べるとお手頃です。一杯数百円とだけ報告しておきます。ただし、雄に比べるとずっと小振りです(この皿が6寸です)。

魅力は、なんといっても卵。外側にツブツブの外子を持ち、カラの中にはオレンジ色の内子が。外子は食感最高!内子は旨味が濃厚すぎて酔いそうでした(笑)。

地方によって呼び名が変わり、鳥取から兵庫北部ではセコ(背子)ガニ、京都ではコッペガニ、北陸ではではセイコガニとか香箱ガニと呼ばれます。どの地方でも、自慢の味覚として愛されてきた証でしょう。

本来、冬の日本海は美味しいものだらけなのですが、去年は、寒鰤が不漁で、あまり楽しむことができませんでした。今年はすでに氷見の鰤が登場。脂が乗るのはこれからなので、まだ手は出しませんが、期待できそうです。セイコガニにも、もう一度くらい出会えるとよいのですが。

ジョージアの白ワイン

cimg0320グルジア改めジョージアのワイン。赤は何度か飲んだことがありますが、白は初めて。ブドウを皮、種、茎ごと素焼きの壺=クヴェヴリ(QVEVRI)に入れ、さらにそれを地中に埋めて、発酵、熟成するそうです。この製法もまたクヴェヴリと呼ばれ、ユネスコの世界遺産(無形文化遺産)に登録されています。

白ワインの名前は「キシ・クヴェヴリ(KISI QVEVRI)」。キシは、ジョージア固有のブドウ品種です。瓶入りもあるようですが、今回はたまたま陶製のボトルを見つけ、即、買い!
SANTOKUでした。時々、珍しいものを売ってます。

皮、種、茎ごとブドウを使っているので、色合いは、強く黄色みを帯びています。日本ワインで最近流行の「オランジュ」の趣。能書きには、「やや甘口」とありますが、どうしてどうして、濃厚で、柑橘系のドライフルーツや生のグレープフルーツの香りと味があります。上品さはありませんが、ブドウそのものの味わいを余すところなく伝えてきます。

ジョージアがあるコーカサス地方は、ブドウのふるさとと言われています。ブドウの原種はここで生まれたと。そして、ワイン造りは8000年前から。人類史に思いを馳せる一杯となりました。

しかし、どうも、ジョージアという呼称には慣れません。グルジアだよね(笑)。

追記:
YouTubeにクヴェヴリを紹介する短編映画がありました。美しいです。

磨きすぎない日本酒もまた良し

CIMG0147こざっぱりとしたラベルと、酒米が雄町(おまち)だというのに惹かれて、初めて買った『ふた穂』。奈良の長龍酒造です。雄町発祥の地、岡山県の高島地区(現在の岡山市中区の一部)産の酒米を使っています。

際立った特徴はありませんが、きわめてバランスの良い穏やかな味わい。能書き言わずに静かに飲みたい酒だ(といきなり自己矛盾(笑))。やや辛口で、ほどよい酸味。米らしい味わいがあります。色はやや黄色がかっていて、おそらく濾過してないでしょう。

雄町は、現在使われている酒米の中で、もっとも古い歴史を持っています。江戸時代末期、鳥取か岡山の山奥で栽培されていたものを当時の高島村雄町の農民が、二穂だけ分けてもらって持ち帰り、優れた酒米に育てあげたそうです。てなわけで『ふた穂』なんですね。

どうも、山田錦一点張りに反抗したくなって、五百万石とか雄町とか、なんとなく手が伸びてしまいます。磨きに精魂傾けた日本酒が多い中、あえて磨きすぎない酒造りに挑戦する長龍酒造に乾杯!

 

鰹の塩締め

CIMG0149最近、はまっているもの… 魚の塩締め。
刺身用のさくに焼き魚よりもやや強めの塩をして、ペーパータオルとラップで巻いて冷蔵庫に2~3時間。流水でサッと表面を流して、ふたたびペーパータオルで水分をぬぐい取るという調理法です。
明らかに身が締まる!明らかに旨味が増す!明らかに生臭みがなくなる!ネットリと濃厚な味になります。
余計な水分とともに、臭みが抜けていくという仕組みでしょう。昆布の味がしない昆布締めみたいな感じです(笑)。
もちろん、素材を選ばなくてはいけませんが、スーパーの刺身でも上物なら大丈夫。

塩締めは、主に白身魚に用いる調理法のようですが、鰹でもいけます。
鰹の場合、私のやり方は、塩分を洗い流すのに、水ではなく、熱湯を使います。まぁ、湯引きというか、叩きの応用編というか… すぐに冷水にとって水分をぬぐうのはもちろんです。
スーパーの鰹とは思えない味になりますよ。

ちなみに、本日、鰹に添えた木の芽は、わが家産。回りに野鳥が多いせいか、アゲハの幼虫が来ないので、毎年存分に楽しめます!
花粉症が終わって、やっと初夏の気分になれました。

初筍

CIMG0119ちょっと遅くなってしまいましたが、自宅で調理した今シーズンの初筍。福岡産でした。
あく抜きは、野崎洋光さんの大根卸し汁を使う方法。大部分を筍ご飯にして、穂先を焼き筍に。去年までは、木の芽味噌を乗せて焼き上げてましたが、今年はやり方を変更。30分くらい生醤油に漬けて、その後、オーブントースターで10分ほど焼くと。これは美味い!ある寿司屋さんで聞いた方法をアレンジしました(すべては教えてくれませんから(笑))。

話は前後しますが、野崎流の筍あく抜きは大成功!糠の後処理に手間取らないのが嬉しいです。ただ、これまで糠の香りを足して筍の風味と感じていたのかも知れないので、味覚的にちょっとだけジャンプする必要はあります。

あと、野崎流だと、卸し汁を絞ったあとに、結構な量の大根おろしが残ります。きょうは、胡麻鯖のおろし煮に使いました。これも、美味しかった!