かぶせ茶(冠茶)とは…

玉露は素晴らしく甘い!その秘密が遮光幕などで日光を遮る栽培法にあるのはご存じの方も多いと思います。
アミノ酸(テアニン)からカテキンへ変性が抑えられ、渋みが少なく、旨みが豊富になるのです。テアニンを多く残し、カテキンを少なく。どちらも、「ほどよく」という但し書きが付きますが、これがお茶の旨味の真髄となります。
詳しくは、茶葉が日光を受けると、テアニン→エチルアミン→カテキンと変化するそうです。

さて、かぶせ茶です。玉露と同じように遮光して育てるのですが、その期間が短くなります。玉露では収穫前の20日~1か月程度、かぶせ茶は1週間~2週間前後とされます。
しかし、よく出来たかぶせ茶は、玉露に匹敵する旨味を持ちます。一方、玉露ほど気取った感じがしないので、手軽に日本茶の美味しさを味わいたい向きにはお薦めです。玉露のようなビックリするような価格でもありませんし。

今回試したのは宇治のかぶせ茶。品種はよく玉露に用いられる「ごこう」です。
一煎目には見事な旨味が来ます。二煎目、三煎目は、さすがに玉露ほどしぶとくなく、旨味を残しつつさっぱりと味わえるといったところでしょうか。

かぶせ茶に関しては、産地も消費も西日本に偏っています。「どうも東日本の日本茶文化は多様性を欠く」というのは、私だけの誤解でしょうか?
もっともっと日本茶を楽しみたいものです。東日本でも(笑)。

●動画
https://youtu.be/HcpgxpcHR8A

附記1:
日本茶の苦みのもとになるカテキンは悪役かというと、そうではなくて、ポリフェノールの一種としてその抗酸化作用に注目が集まっています。もちろん、煎茶の美味しい苦みはカテキンから生まれます。

附記2:
遮光して育てるお茶には、玉露、かぶせ茶の他にてん茶(碾茶)というのがあります。石臼で挽いて抹茶にします。中国茶のてん茶(甜茶)とは異なります。

煎茶と桜餅

湯飲みに口を近づけた。桜餅の香りがほのかに漂う…

なにやら複雑な気分で迎える桜の季節。
首相主催の桜を見る会が中止になったのはヨシとしましょう。しかし、その闇は、ひとつも暴かれていない。

毎年この季節、桜の開花に先行して、「静7132」という煎茶を楽しんでいます。なんとも色気のない品種名は、静岡県茶業試験場が作り出したからだそう。開発当時の管理番号が、そのまま名前になりました。
ところが、この静7132、その名に似合わぬ艶っぽさというか、可愛らしさがあります。桜餅の香り(塩漬けした桜の葉の香り)がするのです。初めて飲んだとき、「なんだこの煎茶は!」と、もうビックリ。
静7132のお茶請けは、桜餅しかありません!それも、道明寺ね!と勝手に決めています。

「やぶきた」というメジャーな一品種が、栽培面積の75%を占める、なんとも多様性に乏しい日本茶の世界ですが、この間やっと、マイナーな品種が注目を集めるようになりました。しかし、その中でも、桜餅の香りは静7132にしかありません。

今飲んでいるのは、静岡県の元藤川地区で小西さんという方が無農薬で作った静7132。桜餅の他に、独特の甘味があります。渋みはほぼありません。
桜餅香は、クマリンという香気成分によるもので、実際に、桜の葉にも静7132にも含まれています。科学だな~っと。

で、強引に話を展開します。
世界中で感染が広がる新型コロナウイルス。まったく科学的な立場を取らずに、行き当たりばったりの対策で、混乱だけを招いている政府があります。もちろん、日本の安倍政権。

なにしろ、ウイルス検査に後ろ向き。検査しなかったら、どこに感染者がいて、どこにウイルスがいるのかを掴むことができません。軽症の患者が感染を広めるのを抑えることが不可能になります。そこには、防疫も科学もありません。

調べないから、データ上の感染者数は、他国よりも伸びが遅い。当たり前ですよね。
オリンピックが流れるのが、そんなに怖いのか… すでに風前の灯火だと思いますが。

「下手にデータを残すと、また、シュレッダーしなくちゃいけないし」とでも思っているのでしょうか?
とにかく、正確なデータ収集とその解析は、すべての科学的取り組みの基本中の基本。防疫においても、まったく同じでしょう。

「調べすぎると、医療体制が崩壊する」みたいなことを言ってる人もいますが、これは本末転倒。韓国のドライブスルー検査のような形にすれば、医療体制全体への影響は最小限にできるし、軽症の人には、きちっとした自宅での隔離方法を指導すればよいのです。
アメリカも検査が遅れていますが、ペンス副大統領が、検査キットの不足を正直に認めました。トランプ政権は一切評価しない私ですが、日本政府よりはマシですね。咳が出て、発熱しているのに、検査を断られる例が続出しています。

さてさて、暗~い気分で迎えた桜の季節。
静7132と桜餅から、ひとときの癒やしをもらいました。

日本列島在来種による和紅茶

お茶の日本列島在来種とはなにか?
明治時代に、“やぶきた”が登場する前から、日本列島で栽培されていた品種を指します。
今回味わったのは、熊本県芦北市で栽培されている在来種による紅茶(和紅茶)です。その年の最初に出た新芽を使った “First Flash”。日本茶で言う“一番茶(=新茶)”ですね。厳密には、一番茶と First Flash の規定は違うようですが、まぁ、ほぼ同様です。

新茶らしい上品な味わい!
“在来種”という言葉からは、野趣溢れる味わいを想像しがちですが、まったく逆。
タンニンの渋みはなく、フルーティーな香りが漂います。私が感じたのは、かすかな桃の香りでした。

セイロン紅茶のような、ガツンとくる強さはありません。イギリス人に飲ませたら、「インパクトの弱い紅茶だ」と言われてしまうかも知れません(笑)。
しかし、この在来種・ First Flash の紅茶、その上品さは、私にとって、記憶に残る味わいになりました。

在来種について、少し深入りすると…
「日本列島に古来からある茶木」と言う人もいますが、中国雲南省原産の茶木が、なんらかの形で日本列島に入ってきて、定着したのでしょう。
「最澄が、茶の種(たね)を唐から持ち帰った」という有名な話がありますが、ルートはそれだけではなかったでしょう。
また、日本列島内で、自生、栽培が続くうちに、交配による変異や、気候や土質といった環境への適応が進んだでしょう。従って、日本列島在来種と言っても、単一の種ではなく、地方によって異なるものです。また、場所によっては、複数の在来種が存在するかも知れません。

話を芦北の和紅茶に戻しましょう。
封を開けて、最初にビックリしたのは、茶葉の大きさです。和紅茶は、茶葉が大きめの形状をしていることが多いのですが、これは桁外れ。茶さじですくいにくいほどです。同じ重量で、他の和紅茶の倍から3倍の体積を占めます(セイロン紅茶と比べたら5倍くらいでしょうか)。

ふと思いつきました。茶葉の大きさは、味わいにどのような影響を及ぼすのか?
細かい茶葉に比べて、単位重量当たりの表面積は少なくなります。結果、「味や香りが出にくい」とも言えますが、「余計な味が出ない」とも言えるのでは…

考えてみると、セイロン系の紅茶の茶葉は、かなり細かい形状をしています。
これは、イギリスへ、そして欧米各国へ輸出するという条件が影響したのでは…
細かければ細かいほど、重量あたりの体積は減りますから、効率的な輸送が可能になります。
そこで、「茶葉を細かくしたときに、もっとも美味しく紅茶が出るようにする」という目標のもとに、茶種の選択が進み、製造法が革新されていったのではないか…
これはあくまで私見です。
詳しい方がいらしたら、ぜひ、ご意見などをお知らせください。

それにしても、芦北の在来種による和紅茶、いい経験をしました。

和紅茶はノープレスで

日本の発酵茶。碁石茶に比べると歴史は新しいですが、和紅茶のお話…

最近、日本産の紅茶に注目しています。いわゆる“和紅茶”。
気候の関係で、日本列島では、世界で主流のダージリンやアッサムといった茶木は育たないそうです。主に使われているのは、煎茶用や日本列島独特の紅茶向きの品種です。インドやスリランカに比べると、タンニンが少なく渋みが弱い、穏やかな紅茶になります。
その穏やかさがイイんだよね~

日本で紅茶の生産が始まったのは明治の初め。明治の中頃には欧米各国へ輸出されるようになりました。
ただ、前述の通り、タンニンが少なく渋みが弱いので、特にイギリスでは、あまりウケなかったそうです。
それでも世界市場で奮闘を続け、昭和初期には日本の紅茶生産はピークを迎えました。その後、下降していくのは、この国が世界に背を向け始めたことと無関係ではないでしょう。

戦後は、紅茶の輸入に制限がかかっていたこともあり、国内では、紅茶と言えば、日本産、日本製でした。そう言えば、子供の頃見た紅茶の缶には、「NITTOH」と印刷されていました。日東紅茶です。

1971年、紅茶の輸入自由化。これは決定的でした。母がリプトンの缶を手に、「これが本物の紅茶よ!」と自慢していたのを思い出します(歳がばれますが(笑))。
日東紅茶は今も頑張っていますが、他の国産ブランドは、みな撤退したそうです。
輸入ブランドは、しばらくはリプトンがほとんどだったと記憶しています。マリアージュフレールだのフォートナム&メイソンだのはつい最近の話です。

しかし、日本産の紅茶は全滅したわけではありません。
“べにひかり”とか“べにふうき”は、ほぼ紅茶専用の品種。なかには煎茶用の“香駿”や、普通は玉露になる“ごこう”を使った和紅茶まであります。
総じて言えるのは、和紅茶に取り組んでいるのは先進的な生産者が多いということ。有機や無農薬のものが多いです。

さてさて、きょう味わっているのは、嬉野の“ふじかおり”。バニラのような甘味があり、ほのかにジャスミンの香りも… 無農薬栽培です。

私は、紅茶を煎れるときは、フレンチ・ティープレスを使うのですが、なぜか和紅茶をプレスすると、不用な渋みが出てきます。
従って、「ノープレスでティープレスを使う」という、変なことになっているのですが、今のところ、これが一番です。もちろん、すべての和紅茶を飲み尽くしたわけではないので、断定的なことは言えませんが。

和紅茶。けっこう楽しめますよ。

日本列島にも発酵茶がある

碁石茶

ひとつひとつの四角は、塩昆布と同じくらいの大きさ。
しかし、塩分はありません。これはお茶。それもかなり古くから伝わる日本茶の一種です。

碁石茶(ごいしちゃ)。高知県の山間部(長岡郡大豊町)だけで作られています。 筵に並べて天日干しする様が、黒い碁石を並べたように見えることからついた名前だそうです。
初めて飲みました!

発酵茶。その中では、紅茶よりも普洱茶系かな… 明らかに酸味があります。一方で、普洱茶ほどの味の強さはありません。
酸味に違和感を感じなければ、美味しくいただけます。 抽出時間は短めの方が品よく出ます。とは言え、野趣溢れるお茶、 発酵番茶と分類されていることもありますが、番茶だと思って飲むと仰け反ります。酸っぱくて (笑) 。

ミャンマーやタイの発酵茶がルーツではないか… という説もあります。確かにエキゾチックで、南方系の味わいがあります。

ここ数年、日本茶にはまっていて、いろいろな煎茶、時には贅沢して玉露など楽しんでいますが、ここに来て出会った、また新しい日本茶、いや、これはアジアのお茶だな。
深いぞ、お茶は!とあらためて。

玉緑茶考 プラス フランス人から買う日本茶

最近、玉緑茶(たまりょくちゃ)というのをよく飲んでいます。「ぐり茶」と呼ばれることもあります。
製法は、途中までは煎茶と同じですが、精揉(茶葉の形を細長くまっすぐに整える)工程がないので、茶葉が丸いぐりっとした形をしています。味は、「煎茶と変わらない」という意見と、「煎茶よりも渋みが少なく、まろやか」という意見がありますが、煎茶も千差万別なので、私は前者を支持します。
形が、言ってみればテキトーなので(笑)、煎茶よりも気楽に飲める感じ。そして、「やぶきた」以外のマイナーな品種を使っていることが多いのも嬉しいです。写真の「さやまみどり」もその一つで、柔らかい香りがあって、安らぎます。
玉緑茶の産地は九州が多く、中でも嬉野が最大と言われています。

一方、玉緑茶を飲んでいると、「煎茶は、なぜ棒状にするのか?」という疑問が湧いてきます。「味も香りも大きく変わらないのに、なぜ、面倒な精揉をするようになったのか?」ということ。どのお茶屋さんのサイトを見ても、その答えを見つけることができませんでした。
どなたかご存じ方がいらしたら、教えてください。
…と、ここまでが、「玉緑茶考」。

実は、最近、私が日本茶を買っているのは、フランス人が経営するお茶屋さんです。「なぜ、そんな捻れたことをしているのか」とお思いの方も多いと思いますが、理由があります。
この人、フローラン・ヴェーグさんは、13年前から日本在住。「日本茶インストラクター」の資格を持っていて、まぁ、日本茶にはまったフランス人。それが高じて、日本茶をヨーロッパに輸出するために、オンラインでビジネスを始めたようです(ヨーロッパ、特にドイツやフランスで日本茶の人気が高まっています)。ところが、そこに私のような日本人が集まり始めました。それは、農薬問題が大きな理由でした。

EUと日本では、お茶の残留農薬に対する基準が、大きく異なります。ヨーロッパに輸出できるのは、有機栽培・無農薬栽培・かなりの減農薬栽培をした日本茶だけなのです。
農水省のサイトに「諸外国における残留農薬基準値に関する情報」というのがありますので、“茶”のところを開いてみてください。仰け反ります!日本は間違いなく農薬大国です。もちろん、お茶だけの話ではありませんが。

もうひとつ、ヴェーグさんからお茶を買う理由は、“多様性”をとても大切にしてくれるからです。まず品種。現在、日本で栽培されている茶の75%は「やぶきた」が占めていますが、ヴェーグさんは、マイナーな品種を積極的に評価しています。また製法では、今回の玉緑茶もそうですが、釜炒り茶もあり、さらには碁石茶、バタバタ茶などというかなり珍しい日本茶にも注目しています。

というわけで、「日本茶にはまったフランス人が、輸出向けに揃えた安全な日本茶を日本で買う」という捻れた状況は、しばらく続きそうです。
しかし、日本の農薬は、なんとかしてほしいものです。

ヴェーグさんのオンラインショップ
青鶴茶舗-Thés du Japon
最近、谷中に実店舗を開きました。まだ、訪れていませんが。

釜炒り茶という日本茶

「釜炒り茶って知ってますか?」と聞くと、「なにそれ?」という人と、「常識でしょ!」という人と、大きくふたつに分かれるのではないでしょうか。

日本茶(煎茶)は、摘んだ直後に蒸すことで酸化を防いでいます。抹茶の原料になるてん茶から発展しました。煎茶の製法が確立したのは江戸中期。比較的新しい製法とも言えます。
一方、日本にお茶が伝わったのは、奈良時代あるいは平安時代。遣唐使や留学僧が中国から持ち帰りました。茶葉の酸化を、釜で炒ることで防いでいました。これが釜炒り茶のルーツで、今も中国茶の大半は釜炒り製法です(蒸してから炒る焙じ茶とは、まったく違います)。

現在、日本で、釜炒り茶を作っているのは、九州の一部、主に宮崎や熊本です(佐賀や静岡にも少しあります)。関東では知らない人が多いのでは…
日本茶なのになぜかエキゾチック!これが、私が釜炒り茶にはまった理由。
独特の香ばしさに加えて、さまざまなハーブや果物の香りが漂います。

使う品種も煎茶とは異なります。品種別の栽培面積で見ると、現在、75%が“やぶきた”なのですが、やぶきたは煎茶や玉露に適した品種。釜炒り茶には、マイナーな品種を使うことが多いです。

写真は、“みねかおり”の釜炒り茶。宮崎高千穂産です。煎茶のような棒状ではなく、中国茶のように縮れています。ほのかな花の香りがあります。
湯を注いだ直後には、焼き栗のような甘い焙煎香が立ち上り、たまりません!これだけは、茶を煎れる本人だけが楽しめるもので、客人には伝わりません。

一般に、釜炒り茶は煎茶よりも高い温度(=80℃~90℃)で煎れるとされますが、質のよいものは、煎茶並みの温度(=60℃前後)で煎れても美味しいです。香ばしさが、やや後ろに下がって、フルーティな香りが前に来ます。

「日本茶と言えば、蒸し製法の煎茶が王道」と考えがちです。しかし、細々とではありますが、多様性は生き続けています。煎茶でも、やぶきた以外に挑戦する生産者が増えてきているようです。

それにして、「米はコシヒカリ」「酒米は山田錦」「お茶はやぶきた」と、どうして日本人は、あっさりと多様性を棄てて、主流に流されてしまうのか…
稲作は、やっとコシヒカリ一辺倒から脱却しつつあります。
個人的には、山田錦以外の酒米を使った日本酒に出会うと、思わず手が伸びます。
日本茶の世界も、もう一度、多様性を取り戻してほしいものです。品種にしても、製法にしても。

仕事の合間に一息入れる。茶葉を選び、茶碗を選ぶ。温度を気にしながらも、ゆったりと煎れ、ゆったりと味わう。至福の時です。