古代ビール!ではない

京大と早大が共同で、古代エジプト小麦を使ったオリジナルビールを出すそうだ。
「一度飲んでみたい!」と思わせるあたり、相変わらず吉村作治先生は商売が上手だ。京大の方も、国立大学の独立行政法人化でいろいろと手を出してみたいのだろうけど…

しかしこの記事、良く読んでみると、古代ビールに使われていたエンマー小麦を使うのは来年からで、特に古代ビールの味や風味を再現することを目指したとも書いていない。まぁ、味がどうだったのかは分かりはしないのだが… おそらく、小麦を使ったドイツの白ビール=ヴァイツェンの傾向なのだろう。
仮にエンマー小麦を使って、現代にうける白ビールを作っても、何も偉くないよなぁ~ せっかく研究の副産物として発表するなら、「古代エジプト人は、こんなビールを飲んでいたんだ!」とビックリさせるくらいのものを作って欲しい(「嘘でも」とは言わないが)。大学が、単に商売じゃ悲しすぎる。

さて、技術協力は黄桜酒造。ビールには結構真面目に取り組んでいて、自ら地ビールを醸造している。
しかし、40代後半以上の酒飲みにとっては、どうしても「カッパッパ、ルンパッパ」の黄桜。黄桜とか月桂冠とかは、イコール三増酒(醸造用アルコールや糖類等を加えて三倍に薄めた日本酒)のイメージがいまだに抜けきらない。可哀想な気もするが、頑張って欲しいとも… 先生方を焚きつけて、本気で古代ビールを想像させるものに仕上げて欲しいものだ。

ヒューガルデン・ホワイトを巡って

20060222ベルギーのヒューガルデン・ホワイト(Hoegaarden Biere Blanche)と言えば、世界で最も有名な白ビール。程良い酸味で、爽やかな味わいだ。パリのブラッセリーでも、ヒューガルデン・ホワイトの「生」が楽しめる店がかなり増えている(日本ではホントに限られた店だけ)。

そのヒューガルデンは、現在、世界最大のビール会社インベブ(InBev)社に、一ブランドとして所有されており、なんと、同社はベルギー・ヒューガルデン村にあるヒューガルデンのルーツとも言える醸造所を閉じ、市民や労働者から大きな反発を食っているらしい。

インベブ社は買収を繰り返して、今や世界最大のビールメーカー(醸造量ベースで世界の13%を占めるとか)になったそうだ。別に会社が大きくなっても、マイナーブランドのビールを大切に世界中へ届けてくれるなら良い。しかし、古い醸造所を次々と潰しているあたり、どうも信用できない感じだ。

日本ではベルギービールの輸入と併せて、ベルジアンビア・カフェを展開し始めている。ビールファンとしては、とにかく行ってみるしかないのだが、インベブ社には、それぞれのビールの歴史と文化を大切にしたブランド展開をお願いしたいものだ。

シリコンバレーの地ビール

シリコンバレーと共に育った地ビールがある。
ゴードン・ビアシュ(Gordon Biesch)だ。

最初にブルーパブを開いたのがパロアルト(Palo Alto: HPの本社があり、シリコンバレー発祥の地と言われる)で、それが1988年。以来、ハワイ、ネバダ、アリゾナ、ワシントンの各州にもブルーパブを開いている。どうやら、ITと歩を合わせるように共に伸びてきた地ビールのようだ。

今回は、サンノゼ(パロアルトとは15㎞くらいの距離)に泊まったのだが、残念ながらブルーパブには行けず悔しがっていたら、偶然入ったタイ料理屋にもゴードン・ビアシュ(瓶だけど)が並んでいて、まず感激!
完全にドイツ系のビールで、ピルスナー、メルツェン、ボック、デュンケルなどがある。また、白ビールもドイツ風にヘーフェ・バイツェンと呼んでいる。今回、飲んだ中で記憶に残ったのはメルツェンのコクを保った爽やかさだ。

しかし、世界のITの中心とも言えるシリコンバレーから、とってもスローなマイクロブルワリーという文化が育っていることが、嬉しい限りだ。

小さな町には小さなブルワリー

デトロイトのダウンタウンから、北に15㎞ほどのところにあるロイヤル・オーク市。
訪ねたのは、ROYAL OAK BREWING(ロイヤル・オーク・ブルーイング)。
ホールの片側がカウンターになっていて、その後ろに醸造タンクが並んでいる。
こんな小さな町にも、しっかりとしたブルワリー・ブルーパブがあるのが羨ましい。

基本的にはイギリスタイプの店だが、まず、ベルギータイプのウィートにトライ。これが「糠臭さ」が無く上出来だった。「ウィートをもう一杯」というよりは、次にエールやポーターへ行きたくなる。そんな味わいだった。

たまたま、開店十周年ということで、”10 YEAR CHEER”と命名されたエールを飲むことができた。なんと、アルコール度数10%のアンバーエールだった。味はエールの平均点。しかし、飲むほどに効いてくるのは確かだ。10度のエールは、さすがに初めてだったので、好い経験だった。

どの店も、何かしら楽しみながらビールを作っている。繰り返しになるが、羨ましい限り…
食べ物と飲み物だけは、絶対に米国には負けないと思ってきたのだが、地ビールだけはまったく追いつけない。「日の丸」「君が代」は嫌いだが、さすがに、頑張れ!ニッポンの地ビールと言いたくなる。

Burning River

20051019仕事で10日ほどアメリカに行ってきた。空港での非常にハードなセキュリティーチェックに辟易しながらも、各地でブルワリー・パブを訪ねることができたので、「極私的最新アメリカビール事情」といこう。

まずは、Burning River。川が燃えるとは?
別に、唐辛子入りの出来の悪い地ビールのことではない。
場所はクリーブランド。
グレートレイクブルーイングの素晴らしいペールエールだ。
グレートレイクブルーイングのブルーパブは、クリーブランドのマーケットアヴェニューというところにある(写真はマーケットアヴェニューにあるウエストサイドマーケット。グレートレイクブルーイングは、このすぐ近くにある)。

なぜ、Burning River?
クリーブランドは、グレートレイク=エリー湖に流れ込むカヤホガ川と、そこから延びる運河が物流を支えてきた町だ。20世紀に入ると製鉄と石油精製で栄えた。重工業からの廃油が、川を覆うという最悪の公害の時代があった。
1969年には、なんと川に火がついて大きな火災を引き起こしている。これがBurning Riverのいわれだ。その火災がキッカケとなって、公害防止につとめ、今は運河も大分きれいにはなっているが、クリーブランドの人々は反省を込めて、Burning Riverのエピソードを語り継いでいる。

さてビールだ。
Burning River Pale Aleは、メニューを見ると、 American Pale Aleのカテゴリーだと書かれている。ペールエールとしては色は濃いめで、ホップの苦みが心地良い。今回のアメリカ出張で飲んだビールの中で、間違いなくナンバーワンだ。
American Pale Aleという説明は、初めて見たが、他ではIndian Pale Aleと呼んでいるビールだと思う。
イギリスがインドを植民地としていた時代、長い船旅で腐らないように、思い切りホップを効かせた苦いビールを作った。これがIndian Pale Aleのルーツ。現在、イギリスではIndian Pale Aleを見かけることは少ないが、アメリカでは、マイクロブルワリーブームの中で、出来の良いIndian Pale Aleが作られてきた。

このブルーパブには、他にイギリス系ではポーター、ドイツ系でドルトムンターを含むラガー数種、さらにベルギー系のウィートビール(白ビール)もある。ポーターは色は真っ黒だが、味わいはダークエールといったところ。ドルトムンターは味わいの深いラガー。日本のラガーが水のように思えてしまう。
このグレートレイクブルーイング、いずれのビールも出来が良く、どれを飲んでもOK!
料理も良く、中でも記憶に残ったのは、オーガニック・マッシュルームのビザ。ゴルゴンゾーラチーズが効いていて、「目から鱗」の美味しさだった。

クリーブランドに行ったら、グレートレイクブルーイングを訪れる価値は絶対にある!
…と私は思う。アメリカではなかなか出会うこと無い、超お薦めだ。