少し前に書いたとおり、日本酒造りに貢献する主な微生物は、麹菌、乳酸菌、酵母の3種類です。
このうち乳酸菌については、山廃造り、生酛造りでは蔵付きの菌を、酸基醴酛(さんきあまざけもと)では別培養した菌を使います。速醸法では乳酸菌を使用せず、化学的に作った乳酸そのものを投入します。
では、麹菌、酵母はどうでしょうか?
実は、どちらも蔵付きの菌を使う蔵はまれ。
麹菌については、ほとんどは種麹屋(=麹菌を培養して他の酒蔵・味噌蔵・醤油蔵に卸す専門業者)から種麹(麹菌)を購入し、それを蒸し米に付着させて米麹を作ります。
種麹屋は、鎌倉時代から室町時代にかけての京都にすでにあったとされ、創業300年以上という老舗が今も残る。これはこれで素晴らしい歴史であり、一つの文化です。
酵母(清酒酵母)は、日本醸造協会が販売する「きょうかい酵母」が主流。ただ、「きょうかい酵母」と言っても様々な種類があり、特徴もそれぞれだ。その選択が杜氏の腕の見せどころ、蔵主の判断力となる。
他に、地方自治体の試験研究施設が販売する酵母もある。蔵で独自に培養している例もあるが、かなり少ない。
で、すべてを蔵付きの微生物だけで日本酒造りを続ける千葉県香取郡の寺田本家。
この蔵は、さらに「昔ながら」の自然流にこだわった酒造りに挑戦している。木桶による酒造りだ。
木桶には、麹菌、乳酸菌、酵母意外にも様々な微生物が棲みつき、複雑な旨味造りに貢献するという。
2023年2月に、地元千葉県の山武杉で作った新しい木桶(新桶)が完成。活躍している。
試した酒は、その名も『木桶』。

精米歩合は90%。磨いてない! 原酒なのでアルコール度数は18.5度と高めだ。
色は日本酒本来のきれいな黄緑色。うっすらと濁りを残す。
あまり度数の高い日本酒は苦手なので、少し割水をして、16度くらいにして飲んだ。
美味しい! もちろん、いわゆる切れ味とか果実香とは無縁だ。
これまでに飲んだ同蔵の『五人娘』『香取』と比べると、酸味が旨味の中に完全に溶け込んでいる感じがする。そして新桶の力だろうか… ほのかに杉香を感じる。
普段呑みの純米酒に比べると少々お高く、一升で5,500円。
素晴らしい経験ができたので、全然高くないですね。
