日本酒造りでは、麹菌、乳酸菌、酵母という3種類の微生物が活躍します。
麹菌は米のでんぷんをブドウ糖に変えて、アルコール発酵の下地を作る(でんぷんのままではアルコール発酵しない)。
乳酸菌は、酵母以外の雑菌の繁殖を抑える。
酵母はアルコール発酵の担い手だ。
「米は無農薬・無化学肥料の自社田米。麹菌、乳酸菌、酵母のすべてを蔵付き微生物で」
能書きだけを読むと、「ちょっと過激すぎ??」とも思うが、バランスのよい、そして、優しい味わいの超自然派日本酒を造っている酒蔵がある。
千葉県香取郡の『寺田本家』。延宝年間の創業だ。
この蔵の看板とも言える、『五人娘』から試す。お値段も手頃だ。
優しい酸味に驚かされた。いわゆるキレの良さとか果実香とは無縁。米の香りがしっかり来る。
冷やでもぬる燗でもヨシ!
で、“優しい酸味”の話に、少し深入りしよう。
日本酒好きなら、「山廃」「生酛」といった言葉はご存じだろう。いずれも、蔵付きの乳酸菌を使った酒造りだ。手間も時間もかかる。『寺田本家』の酒は、ほとんどが生酛造りだ(一部、鎌倉室町時代の醸造法「菩提もと仕込み」の酒もある)。
現在主流の「速醸法」では、乳酸菌は使わない。化学的に作られた乳酸を投入して、雑菌を殺菌してしまう。「不要な雑菌を死滅させるという結果は同じなのだから、速醸法で問題ないのでは?」となりがちだが、これがまったく違う。
乳酸菌は乳酸を作るだけでなく、コハク酸・リンゴ酸などの有機酸も生成する。また、乳酸菌由来の酵素が、タンパク質・アミノ酸を分解して旨味と結びついた酸味を生じるという働きもある。
「山廃」や「生酛」の日本酒が複雑な酸味、旨味を持つ理由だ。
「雑菌を死滅されるためなんだから、乳酸を直接投入すればイイじゃん!」というのは、いかにも荒っぽい(笑)。
ついでに言うと、酒母内の乳酸は乳酸塩になったり、酵母によって分解されたりして、最終的な原酒の中における乳酸の濃度は、ごく微量になっている。味覚的には酸味を感じないほどとされる。これが、「速醸法」の日本酒に酸味が少ない理由だ。
とりあえず乳酸菌の話に入り込んだが、麹菌、酵母も、蔵付きのものを使っている酒蔵は、かなり少ない。次の機会に深入りしたい。