『帰れ、鶏肉へ!』という料理が少しばかり話題になっています。
毎日新聞の小国綾子記者が、2021年6月12日に投稿したツイートがキッカケでした。紹介されたレシピは、『亡命ロシア料理』という本に基づいています。
この『亡命ロシア料理』が素晴らしい名著!
珍しいロシア料理のレシピがたくさん載っているがレシピ本ではない。知性香る比較文化論的エッセイ集とでも言うか… これでもかというほど山盛りされている質の高いユーモアと哀愁。2ページに1回くらい思わずニヤリと頬が緩む文章に出くわします。
「亡命料理人という視点から鳥類の王国をよくよく見てみると、鶏はもっとも謎めいた鳥である」「国際主義の理想がわれらの祖国で実現したのは、料理の分野だけだった」「およそ文明が考え出したもののなかで、人間の尊厳にとってダイエットより屈辱的なものは何もない」「学者たちはいまだに、キノコに魂があるか、という問題を解決していない」などなど。ロシア文学風の軽妙なレトリックに心ときめくのは私だけではないと思う。
著者のピョートル・ワイリ(1949~2009)とアレクサンドル・ゲニス(1953~)は、1970年代にソ連からアメリカに亡命(移住)した文筆家です。
亡命ロシア人というのは、大きく3波に分けられるとのこと。
第1波は、1917年のロシア革命に続く混乱期に国外亡命したロマノフ王朝関係者や、帝政ロシア軍のうち赤軍に参加しなかった白軍将校、革命政権を支持しなかった文化人など。ケレンスキーやラフマニノフなどが有名です。
1929年に国外追放されたトロツキーまでが含まれるのでしょう。
第2波は第2次世界大戦時の亡命者。
第3波はデタント(緊張緩和)の国際情勢下、ソ連から合法的に亡命を許可された人々。“合法的な亡命”って???となりますが、ロシア語では亡命者と移住者の区別されないそう。ソルジェーニツィンが代表格で、バレエのバリシニコフなども。
『亡命ロシア料理』の著者2人は、1977年にイタリア経由でアメリカに移住しました。
さてさて、『帰れ、鶏肉へ!』。
材料は鶏肉、玉葱、ローリエ、粒胡椒、バターだけ。水は一滴も使わない。
『亡命ロシア料理』によれば玉葱は乱切りだが、私は少しアレンジして半割か四つ割りに。そのほうが玉葱らしさが残って良い気がします。
レシピは、早い話、上記5つの材料を蓋がしっかり閉まる厚手の調理器具に入れて軽く塩を振る。弱火にかける。そのまま1時間。火を消して30分。それだけ。
調理中は、「掃除なり、愛なり、独学なりに精を出せばいい。台所にいなくったってすべてはうまくいくのだから」とある。
何度か作ってみて、自分流にアレンジしたレシピが完成。ご紹介しておきましょう。使用した調理用具は深めのスキレットです。
1. 鶏肉は腿肉でも手羽肉でもよいが、手羽だと多少パサつくので、私自身は腿肉が好み。塊をざっくり切って重量比0.5%の塩を振り、10分ほど置く。
2. スキレットを熱して鶏肉を投入。焼き目が付いたら取り出す。
3. スキレットが触れるくらいまで冷めたら、玉葱を敷き詰め、上にローリエ、粒胡椒、バターを乗せ、さらに鶏肉を並べる。
4. 蓋をして弱火に掛けて1時間。火を消して30分。
これだけ!
1時間半すると、オニオンソースを敷いた鶏肉の蒸し焼き料理が完成。これホントに美味しいです!
鶏肉は腿肉で作るとかなりホロホロ状態に。オニオンソースをパンに付けて食べ出したら止まりません(笑)。
『亡命ロシア料理』には、「このオニオンソースは茸やサワークリーム、キャラウェイなどを積極的に受けとめる」との記載がある。
次は応用編にチャレンジしよう。