日本列島在来種による和紅茶

お茶の日本列島在来種とはなにか?
明治時代に、“やぶきた”が登場する前から、日本列島で栽培されていた品種を指します。
今回味わったのは、熊本県芦北市で栽培されている在来種による紅茶(和紅茶)です。その年の最初に出た新芽を使った “First Flash”。日本茶で言う“一番茶(=新茶)”ですね。厳密には、一番茶と First Flash の規定は違うようですが、まぁ、ほぼ同様です。

新茶らしい上品な味わい!
“在来種”という言葉からは、野趣溢れる味わいを想像しがちですが、まったく逆。
タンニンの渋みはなく、フルーティーな香りが漂います。私が感じたのは、かすかな桃の香りでした。

セイロン紅茶のような、ガツンとくる強さはありません。イギリス人に飲ませたら、「インパクトの弱い紅茶だ」と言われてしまうかも知れません(笑)。
しかし、この在来種・ First Flash の紅茶、その上品さは、私にとって、記憶に残る味わいになりました。

在来種について、少し深入りすると…
「日本列島に古来からある茶木」と言う人もいますが、中国雲南省原産の茶木が、なんらかの形で日本列島に入ってきて、定着したのでしょう。
「最澄が、茶の種(たね)を唐から持ち帰った」という有名な話がありますが、ルートはそれだけではなかったでしょう。
また、日本列島内で、自生、栽培が続くうちに、交配による変異や、気候や土質といった環境への適応が進んだでしょう。従って、日本列島在来種と言っても、単一の種ではなく、地方によって異なるものです。また、場所によっては、複数の在来種が存在するかも知れません。

話を芦北の和紅茶に戻しましょう。
封を開けて、最初にビックリしたのは、茶葉の大きさです。和紅茶は、茶葉が大きめの形状をしていることが多いのですが、これは桁外れ。茶さじですくいにくいほどです。同じ重量で、他の和紅茶の倍から3倍の体積を占めます(セイロン紅茶と比べたら5倍くらいでしょうか)。

ふと思いつきました。茶葉の大きさは、味わいにどのような影響を及ぼすのか?
細かい茶葉に比べて、単位重量当たりの表面積は少なくなります。結果、「味や香りが出にくい」とも言えますが、「余計な味が出ない」とも言えるのでは…

考えてみると、セイロン系の紅茶の茶葉は、かなり細かい形状をしています。
これは、イギリスへ、そして欧米各国へ輸出するという条件が影響したのでは…
細かければ細かいほど、重量あたりの体積は減りますから、効率的な輸送が可能になります。
そこで、「茶葉を細かくしたときに、もっとも美味しく紅茶が出るようにする」という目標のもとに、茶種の選択が進み、製造法が革新されていったのではないか…
これはあくまで私見です。
詳しい方がいらしたら、ぜひ、ご意見などをお知らせください。

それにしても、芦北の在来種による和紅茶、いい経験をしました。

和紅茶はノープレスで

日本の発酵茶。碁石茶に比べると歴史は新しいですが、和紅茶のお話…

最近、日本産の紅茶に注目しています。いわゆる“和紅茶”。
気候の関係で、日本列島では、世界で主流のダージリンやアッサムといった茶木は育たないそうです。主に使われているのは、煎茶用や日本列島独特の紅茶向きの品種です。インドやスリランカに比べると、タンニンが少なく渋みが弱い、穏やかな紅茶になります。
その穏やかさがイイんだよね~

日本で紅茶の生産が始まったのは明治の初め。明治の中頃には欧米各国へ輸出されるようになりました。
ただ、前述の通り、タンニンが少なく渋みが弱いので、特にイギリスでは、あまりウケなかったそうです。
それでも世界市場で奮闘を続け、昭和初期には日本の紅茶生産はピークを迎えました。その後、下降していくのは、この国が世界に背を向け始めたことと無関係ではないでしょう。

戦後は、紅茶の輸入に制限がかかっていたこともあり、国内では、紅茶と言えば、日本産、日本製でした。そう言えば、子供の頃見た紅茶の缶には、「NITTOH」と印刷されていました。日東紅茶です。

1971年、紅茶の輸入自由化。これは決定的でした。母がリプトンの缶を手に、「これが本物の紅茶よ!」と自慢していたのを思い出します(歳がばれますが(笑))。
日東紅茶は今も頑張っていますが、他の国産ブランドは、みな撤退したそうです。
輸入ブランドは、しばらくはリプトンがほとんどだったと記憶しています。マリアージュフレールだのフォートナム&メイソンだのはつい最近の話です。

しかし、日本産の紅茶は全滅したわけではありません。
“べにひかり”とか“べにふうき”は、ほぼ紅茶専用の品種。なかには煎茶用の“香駿”や、普通は玉露になる“ごこう”を使った和紅茶まであります。
総じて言えるのは、和紅茶に取り組んでいるのは先進的な生産者が多いということ。有機や無農薬のものが多いです。

さてさて、きょう味わっているのは、嬉野の“ふじかおり”。バニラのような甘味があり、ほのかにジャスミンの香りも… 無農薬栽培です。

私は、紅茶を煎れるときは、フレンチ・ティープレスを使うのですが、なぜか和紅茶をプレスすると、不用な渋みが出てきます。
従って、「ノープレスでティープレスを使う」という、変なことになっているのですが、今のところ、これが一番です。もちろん、すべての和紅茶を飲み尽くしたわけではないので、断定的なことは言えませんが。

和紅茶。けっこう楽しめますよ。

日本列島にも発酵茶がある

碁石茶

ひとつひとつの四角は、塩昆布と同じくらいの大きさ。
しかし、塩分はありません。これはお茶。それもかなり古くから伝わる日本茶の一種です。

碁石茶(ごいしちゃ)。高知県の山間部(長岡郡大豊町)だけで作られています。 筵に並べて天日干しする様が、黒い碁石を並べたように見えることからついた名前だそうです。
初めて飲みました!

発酵茶。その中では、紅茶よりも普洱茶系かな… 明らかに酸味があります。一方で、普洱茶ほどの味の強さはありません。
酸味に違和感を感じなければ、美味しくいただけます。 抽出時間は短めの方が品よく出ます。とは言え、野趣溢れるお茶、 発酵番茶と分類されていることもありますが、番茶だと思って飲むと仰け反ります。酸っぱくて (笑) 。

ミャンマーやタイの発酵茶がルーツではないか… という説もあります。確かにエキゾチックで、南方系の味わいがあります。

ここ数年、日本茶にはまっていて、いろいろな煎茶、時には贅沢して玉露など楽しんでいますが、ここに来て出会った、また新しい日本茶、いや、これはアジアのお茶だな。
深いぞ、お茶は!とあらためて。