いささか手前味噌になってしまい恐縮ですが、最近入手したこの器、“奇跡のぐい呑み”と勝手に呼んでいます。
溶岩が成り行き任せで固まって、たまたまうまい具合に凹みができて、それがまたうまい具合に、ポロッと折れてできたような… きわめて野趣溢れる一品です。
備前の作家、藤原章さんの作品。ドロッと掛かる緑がかった黒のガラス質は、釉薬によるものではなく、自然釉(薪や粘土から生じたガラス質)です。「備前と言えば無釉(自然釉はあり)」ですが、ここまでポッテリした自然釉には、初めて出会いました。藤原さんに直接確認したところ、「天然の雑木灰(緑に発色)と鉄分の多い山土(黒には発色)がねつで解けて光沢が出ております」との解説。
地肌はグレーというか、銀色に輝いています。「焼成中に窯の中から高温状態の器を引出し急冷する」という、“引き出し黒”ならではの発色。赤茶色が通常の備前焼の中では、異彩を放つ存在でしょう。
さてさて、造形だけを見るとシュールでアグレッシブな“奇跡のぐい呑み”ですが、驚くべき実用性が隠れていました。形が歪なので、変なところから呑もうと思うと呑みにくい。しかし、指が収まる場所が計算されていて、その凹みに親指と人差し指を入れて傾けると、お酒が実に飲みやすい角度で口中に流れ込んでくるではないですか!
いやはや脱帽!大切に使っていこうと思います。