古備前よりも昔の備前焼

最近気に入っている器。備前焼の湯呑みです。色はホントに灰色。
備前焼が赤茶色の独特の色合いになったのは、鎌倉時代だといわれます。その後、室町、桃山の時代に茶道と出会うまでが『古備前』。

呼び方がややこしくなりますが、古備前以前の備前焼があります。朝鮮半島から焼き物の技術が伝わり、古墳時代から始まった備前エリアでの窯業。土器と陶器の中間に位置する炻器(せっき)の一種、須恵器(すえき)が焼かれました。
閉ざされた穴窯(あながま)で焼成するため、酸素の供給が不足し、還元焼成になります。灰色とか青灰色の発色は、粘土中の赤い酸化第二鉄が還元されて黒い酸化第一鉄になるという理屈です。

手に入れた湯呑みは、備前須恵器の焼成法を再現したきわめて古いタイプの焼き物。最初に手にしたとき、ホントに無彩色の灰色なので、「ちょっとやりすぎたか!」と躊躇もしたのですが、使ううちに深い愛着が。
まず堅い。普通の備前焼よりも明らかに堅いです。肌触りは石に近いものが… 小石が入ったままの粘土を使っているので、いくつかの石爆(いしはぜ)が見られ、味わいを深めています。

煎茶用の湯呑みですが、大振りのぐい呑みとしても使えます。冷凍庫で冷やすと、指が張り付くくらい冷えます。これは、還元焼成よって粘土内の気体酸素などが抜かれているせいでしょう。石に近い堅さを感じるのもそのせいだと思われます。

備前の作家、好本敦朗さんの作品。
久々にいい器に出会ったという実感が… 指先から伝わる感触が、遠い昔の瀬戸内へと想いを誘ってくれます。

東京の名水 東京の酒

評判の好い東京西多摩野崎酒造の『喜正(きしょう)』をやっと飲むことができました。
立川のそば屋で出会った純米吟醸はグレープフルーツを思わせる果実香(吟醸香)で、「これが噂の喜正か!」と唸るのみ。帰りに立川駅の成城石井に寄ったら、純米吟醸と純米の四合瓶が。「酒米は磨かない」派の私としては、純米に手が伸びます。
喜正純米は、純米吟醸とは打って変わって、米の香りを残す旧き良き日本酒。ふつう、同じ蔵だと、吟醸酒と普通の純米酒で同じ方向の味が出ていることが多いものです。吟醸はより上品とか… しかし喜正に限っては、まったく違う方向に矢印が伸びている。純米にはまったくと言ってよいほど果実香はなく、“米”を楽しむことができます。「てやんでぇ、吟醸香なんてチャラチャラした味わいは、日本酒にはいらねぇんだい!勝負は米の味だぜ」みたいな(笑)。ちなみに酒米は五百万石です。

さてさて、ここからが本音。喜正純米、冷やで飲むと、やや糠臭さを感じる。これを“旧き良き”と評することもできますが、昨今の流行としては、ちょっと辛いかも… 翌日にぬる燗で飲んだら、これ最高!米の香りに包み込まれるようでした。

野崎酒造があるのは、あきる野市戸倉。かつて五日市町に属し、その前は戸倉村でした。秋川が近くを流れ、仕込み水は戸倉城山から湧く伏流水100%だそうです。東京の名水が生きる酒とも言えそうです。

昨今は、進駐軍が残していった有害物質を除去できない豊洲へ中央市場の移転を強引に進めようとする知事がいたり、オリンピックに向けて、とあっちこっちを掘り返したりと、「開発のための開発」は目を覆うばかり。そろそろ、スクラップアンドビルドから脱却しないと。ホントは、その最先頭に東京がいないといけないのに… 東京の銘酒を口にして頭をよぎるのは、そんな想いでした。