北総大地の自然栽培酒米が王道の純米酒を支える

今宵の酒は、1980年代に始まる純米酒ブームを牽引してきた埼玉県蓮田の神亀酒造が造る『真穂人』。
酒米は有機肥料だけで育てた五百万石。精米度を60%と低く抑えて、米の味と香りを生かしています。産地は成田空港の近く。かつて三里塚と呼ばれた地域で、先進的な農家が生産しています。
『真穂人』。ぬる燗で呑むと、最高の日本酒です。

神亀の蔵主は、「下手な山廃より、出来のよい速醸」と主張します。確かに速醸法なのに、心地よい酸味と深い旨味があります。山廃ファンの私としては、その酸に引きつけられているのかも知れません。

注目したいのは酒米を作る農家。三ノ宮廣さん、石井恒司さん、小川進さんの名前にピンときたら、あなたは結構な事情通(なんの事情かは言いませんが(笑))。しかし、北総大地の原則的な農民たちは、今も、原則的な農業を守り続けている。これは事実なのです。

純米酒という日本酒の原則にこだわる神亀酒造と、北総の農民との出会いは、おそらく偶然ではなかったのでしょう。

上燗徳利という道具

最近入手した錫の上燗徳利。錫の酒器というとチロリが浮かびますが、珍しく典型的な徳利型。大阪錫器の製品です。新品では2万円以上しますが、骨董市で1/10以下の値段で入手。おそらく、骨董屋主人の目利き違いでしょう(笑)。ずっと欲しかった道具なので大ヒット!

日本酒の燗には、熱燗=50度前後、上燗=45度前後、ぬる燗=40度前後、人肌燗=37度前後、日向燗=33度前後などがありますが、もちろん、45度前後の燗付け専用ではありません。私の場合は、ほぼぬる燗か人肌燗です。
上燗という言葉には「ちょうどいい加減の燗」という意味もあって、要するに「美味しい燗」。
そう言えば、時々立ち寄る、新宿三丁目のおでん屋は『上燗屋 富久』。この店には、おそらく4合以上入ると思われる大きな上燗徳利があります。それを使って、主がみずから燗を付け、蛇の目のぐい呑みに注いでくれます。店名と上燗徳利に関係があるのかどうかは分かりませんが。

で、なぜ錫の徳利がよいのか… とにかく燗の付きが速いのです。これは熱伝導率の良さによります。陶器の徳利だと、なかなか温まらなくて、気がついたら、アッチッチ!なんてなりがちですが、錫の場合は30秒もあればぬる燗程度になります。もちろんお湯の温度によりますが。
家庭で燗酒が広まらない理由のひとつは、燗付けの面倒さ、難しさにあると思いますが、錫の酒器は、その問題をかなり解決してくれます。
慣れてくると、徳利の首や肩の部分を触っただけで、燗の付き具合が分かるように。徳利を通して日本酒と会話する。そんな趣です。
徳利(錫でも陶器でも磁器でも)で燗を付けると、どうしても上の方の温度が高くなります。これは、2つの徳利を使って酒を行ったり来たりさせることで解消します。大きめの徳利を使えば、軽く揺するように廻してあげるだけでも、温度は平均化します。

今や日本酒の飲み方と言えば、冷やが圧倒的な主流ですが、常温やぬる燗でこそ、味わいのある酒も、たくさんあります。上燗徳利を携えて、今宵も、あらたな旅に出ることにしますか(笑)。

東京の酒もなかなか

散りゆく桜に涙してというわけではないが、なんとなくラベルに惹かれて、今宵の一杯は嘉泉(かせん)の『東京和醸』。
淡麗系。精米歩合は60%とやや低めですが、糠臭さはなく、ほのかな酸味と果実香が心地よいです。
初めての酒は、色を見るために、必ず蛇の目の一合猪口で飲むのですが、ほとんど無色。活性炭を通しているのでしょう。雑味はほとんどありません。善し悪しは人それぞれですが(笑)。水の良さは感じます。

東京福生の田村酒造場。創業文政五年だそうだ。
東京にも、『澤乃井』『多満自慢』をはじめとして、いい酒があります。私の中では、『嘉泉』も仲間入り。個人的な好みとしては、もう少し骨太になるとさらに愛せるのですが