ちょっと凄い「出し」に出会ってしまった。「アゴの焼き干し」だ。場所は佐渡。アゴとはトビウオのことで、干物を出しに使う文化は、九州北部から山陰地方にかけて数カ所にある(まぁ、大きな煮干しのイメージ)。
しかし、佐渡のアゴは違っていた。早朝、刺し網で獲ったアゴを直ぐさま裂いて、表面を炙ったあと、炭火で乾燥させる。昔、囲炉裏端で魚を串に刺して乾燥させ、保存食にした、あの方法だ。形は開きの干物になる。
一匹のアゴで800CCから1L程度の出しが取れる。分量の水に焼き干しを浸し、3時間から半日。ゆっくりと加熱し、沸騰したら弱火にして10分ほど煮出す。これで出来上がり。鰹節とも煮干しともまったく異なる上品な出しができる。
何が違うのか?旨味に品があるのだ。試しにこの出しで根菜だけを炊いてみたが、豊かな味わいだった。
佐渡では、味噌汁から煮物まで、すべての料理にアゴ出しを使う家が多いと聞いた。
さて、佐渡の小木地方でアゴが採れるのは、6月上旬から7月上旬にかけての一か月だけ。産卵のために集まってきたところを狙うのだ。多くの家が半農半漁の営みの小木地方では、この時期、どの家も大忙しだ。何せ、一年分の焼き干しを一か月で作らなくはならない(もっぱら自家用の家と、地元向けに販売する家もある)。刺し網漁の出港は朝4時。裂いて、焼いて、乾燥機(木炭を使う)に入れて、という焼き干し作りの準備に午前中一杯。午後からは、畑や田んぼの仕事。夕方には、また海に出て、網を仕掛け、夜中には乾燥機の火の番もする。まさに、寝る暇無しだ。
守り続けられている「アゴの焼き干し」。頑固に作り続ける人たちと、頑固に食べ続ける人たちがいるからこそだ。生き延びている地域の貴重な食文化に触れることができた。