ナウサの赤

久々にギリシャワインを飲んだ。ギリシャ北部のナウサという町の名前が、そのままワインの名前になっている。「ナウサ」はギリシャを代表する赤ワイン。この地方にだけ古くから伝わるキシノマブロ(Xinomavro:クシノマブロとも記す)という葡萄種で作る。
今回入手したのは、ナウサにあるギリシャ最大のワインメーカー=ブターリ社のものだ。

数年前、仕事でギリシャ全土を回ったことがあるのだが、その時にもっとも記憶に残ったワインが「ナウサの赤」だった。ブターリ社のワイン貯蔵庫にも入り、ズラリと並んだ木の樽に圧倒されたのを覚えている。

地元の人たちは「ナウサこそがヨーロッパワインのルーツだ!」と語る。そりゃ、ヨーロッパ文明がギリシャから始まっているのだから、そういうことも言えるかも… ギリシャでは、紀元前4世紀に今日のAOC(原産地呼称統制法)に近いワイン法が制定されたという記録もあるそうだ。紀元前4世紀といえば、アレクサンドロス大王とその父・フィリッポス2世の時代。ナウサのあるギリシャ北部・マケドニア地方は、アレクサンドロス大王の故郷でもある。

ちなみに、古代マケドニアの首都・アイガイは現在のヴェルギナという町にあったという説が有力。ヴェルギナの考古学博物館では、フィリッポス2世の遺骨が入ったまま発見された黄金の小箱や黄金の冠など、マケドニアの繁栄を今に伝える宝物を見ることができる。ナウサからヴェルギナまでは車で30分ほどだったと思う(正確なデータではない)。
アレクサンドロス大王やフィリッポス2世もキシノマブロワインを飲んだのか。それは定かではないが…

さて、今回のナウサの赤。とにかく葡萄そのものの味と香りが伝わってくる。ドライな味わいで、苦味・甘味・酸味のバランスも程良い。香りも高く、全体としての完成度はかなりだと思う。スペインのリオハに似たところもある。

ただ、現地で飲んだ時は「ブターリのは軽い」という印象を得た覚えがある。中小メーカーのもので、もっとヘヴィーなナウサの赤があった。地元では「ナウサの赤は重い」という評価が主だったと記憶しているので、他のメーカーのものも今度試してみよう。
ついこの間までは、日本ではブターリのものしか買えなかったのだが、ネットで見るといつの間にか数社の「ナウサの赤」が入ってきている。