マグロで死滅する日

【注意すべき魚などと、食べてよい回数】
(1回80グラムとした場合)
<2カ月に1回まで>バンドウイルカ
<2週間に1回まで>コビレゴンドウ
<週1回まで>キンメダイ、メカジキ、クロマグロ、メバチマグロ、エッチュウバイガイ、ツチクジラ、マッコウクジラ
<週2回まで>キダイ、クロムツ、マカジキ、ユメカサゴ、ミナミマグロ、ヨシキリザメ、イシイルカ
*週に2種類、3種類を食べる場合は、それぞれの量を2分の1、3分の1などに減らす。

上記は、2005年8月12日に厚生労働省薬事・食品衛生審議会が発表した妊婦の魚摂食に関する注意事項だ。今のところ、大きな混乱は起きていないようだが、この発表にはいくつかの謎や落とし穴がある。

まず、80g/1回という基準。鮪の刺身6~8切れほどで80gだそうだ。居酒屋の鮪の刺身一人前といったところ。自宅の夕食にメバチマグロの刺身が並べば、ほぼ一人80gは食べてしまうだろう。発表に従えば、妊婦の場合、メバチマグロの刺身80gを食べた後、一週間は上記のリストに含まれる魚を一切食べてはいけないことになる。キンメダイの煮付けを一人一切れ食べた場合も同様だ。これは、かなり厳しい制限といえる。

さて、この注意事項は、妊婦向けに発表されているが、本当に一般の人にはまったく心配ないのだろうか?ちょっとした魚好きだったら「妊婦の許容量」の10倍~20倍食べているはずだ。私自身もそれに近い。このリストの中では「目眩まし」の役割を果たしているバンドウイルカやツチクジラも食べたことあるし…
学者の中には、魚を多く摂食する漁村などでは一般の人も注意を要するという意見もあるという。

次に、厚労省もどのメディアも「メチル水銀は自然界に存在する」とは言っているが、今回問題となっているメチル水銀が自然界起源のものかどうか明言していない。
水俣病の例を挙げるまでもなく、鉱工業によって人類が水銀を海に棄て続けてきたことは間違いのない事実だ。農薬による水銀汚染もある。普通に考えれば、海域によって水銀濃度はかなり変わるはずだが、その事には誰も一切触れていない。日本近海の本マグロと、マルタ島で養殖した本マグロでは、メチル水銀の濃度が違うと考える方が普通だと思われるのに…

アメリカの五大湖では、人類が排出した環境ホルモン(PCBまたはDDTらしい)が食物連鎖の頂点にあるハクトウワシを絶滅の危機に追い込んでいる。五大湖のPCBやDDTの濃度は、今までの「常識」では特に高いと判断される値ではないというのに…

水銀の問題も同じで、海中では微量な水銀が、食物連鎖で濃縮されていく。結局は、その食物連鎖の頂点にある肉食の魚類や鯨類が危ないということになる。ただ、ここで忘れてはいけないのは、その食物連鎖の頂点にいる生き物を私たちが食べているということだ。ハクトウワシを食べることはないが…【環境ホルモンと水銀では、人体に影響を及ぼすプロセスが違うが、ここでは詳細に触れない】

まずは、海域ごとの水銀濃度など、関連するすべての情報を厚労省は公開すべきだろう。また、過去に遡って、海水に含まれる水銀濃度の経時変化もどこかにデータがあるような気がする。こういったことを正直に追っていかないと、とんでもないことが起きそうだ。
もし、魚に含まれる水銀が、人類の健康に被害を及ぼすとしたら、真っ先に影響が出るのは間違いなく日本人だ。その時、「マグロで死滅する日」は冗談ではなくなる。