『木の上の軍隊』平一紘監督

映画、『木の上の軍隊』を観てきました。7月25日に全国封切り。油断してたら近くでの上映が終わってしまって… 吉祥寺UPLINKの最終日に駆け込みました。
実話がベースにあり、原案は井上ひさし。沖縄戦で最前線のひとつとなった伊江島が舞台。
終戦を知らずに2年間にわたって、ガジュマルの樹上で生き延びた2人の日本兵の物語だ。
実際は、沖縄本島出身と宮崎県出身の2人の兵だったが、映画では、1人は伊江島出身の新兵、1人は宮崎県出身の将校(少尉)になっている。
以前に見たこまつ座の舞台が印象深かったので、映画もどうしても観たかった。
映画では、堤真一が上官(少尉)を、山田裕貴が新兵を演じた。撮影日数は約1か月と聞いたが、うち20日くらいは2人だけのシーンだったのではないか… 大変だっただろう。
2人とも素晴らしい演技を見せ、ときおりはさみ込まれる顔の表情のドアップも、迫力満点。
山田裕貴は絶賛ものだ思った。完全に役に入り込んでいた。
堤真一の少尉は、最初はガチガチの大日本帝国陸軍青年将校だが、少しずつ心を開いていく。難しい役作りだったと思うが、見事に演じきった。
監督・脚本は沖縄出身の平一紘。本作品は、「ウチナーンチュが描く初めての本格的沖縄戦映画」と言われる。心情的には琉球独立支持派の私としては嬉しいかぎり。まずは文化からだ!
舞台では端折られていた伊江島における沖縄戦の時系列もトレースして、分かりやすい流れを作っていた。戦闘シーンも多少ある。酷く凄惨な描き方はしていないが、それでも心が痛む。
少し引っかかったのは、脚本が巧みすぎて、「伏線→回収」「伏線→回収」が完璧にできているところ。「これ、伏線かな?」と思ったところは、すべて伏線になっていた。チェーホフの超優等生だ(笑)。
実話ベースなので、多少は、「投げっぱなし」のエピソードがあってもよかった気がした。
2人が隠れ住んだガジュマルの樹を中心とするオープンセットも、素晴らしくできていた。
舞台で上官を演じた山西惇がエピローグに入って登場する。少し笑いを誘うシーンなので、「この映画に似合わないサービスシーンか!」という思いがかすめたが、なんのなんの、ワンシーンだけの山西惇が、「戦争が終わって、ホントによかった。ホントに」というメッセージを強く伝えてきた。
映画の冒頭は、伊江島の平らな地形を生かした「不沈空母化工事(大滑走路建設)」に狩り出された島民たちの姿から始まる。沖縄軍司令部、おそらくは大本営の方針だ。
米軍上陸は1945年4月16日。6日間わたって島民を全面的に巻き込んだ激戦があり、当時、島にいた住民3000人のうち約半数の1500人が命を落としたとされる。集団自決という悲劇もあった。
今、伊江島の面積の約3分の1が米軍基地。海兵隊の飛行場・演習場になっている。日本軍が作った大滑走路の跡地が引き継がれている。沖縄戦は終わっていない。
沖縄本島では15%の土地が米軍基地。普天間飛行場問題が揉め続けているのは、皆さん、ご存じのとおり。北部、やんばるの森ではオスプレイパッドの問題がある。
八重山諸島には現在、米軍基地はないが、露払いのごとく、自衛隊が進出。2023年に石垣駐屯地が開所。ミサイル基地の強化が続いている。国境の島・与那国島への自衛隊の配備も進んでいる。
沖縄が新たな戦禍に巻き込まれるようなことがあっては、絶対にならないのに。

