『宝島』(大友啓史監督)

大友啓史監督『宝島』を観た。
この映画は、エンターテインメントです。ただ、きわめて重大なテーマを孕んだ超社会派エンターテインメントなのです。
それを踏まえて…

191分という長尺。しかし、スクリーンからひとときも目が離せなかった。素晴らしい緊張感を保ち続けたと思う。
1952年(琉球政府発足)から1972年(沖縄返還)までの戦後沖縄通史を、そこに生きた若者たちの視点から見つめ直す。映画では、これまで誰も挑戦しなかった。骨太の作品になっている。

配給が東映なので、その影響があったのかどうかは知らないが、映画的な作りは東映実録物路線という見方もできる。要するに、『仁義なき戦い』の系譜。…と言ってしまうと語弊があるか(笑)。悩ましいのは、事実とフィクションをどう有機的に絡ませるか…

俳優陣の頑張りは特筆モノだ!
米軍基地に忍び込んで物資を奪い取り住民たちに配る、“戦果アギヤー”と呼ばれた若者たち(米軍から見れば、とんでもない不良ども)。グスク(妻夫木聡)、ヤマコ(広瀬すず)、レイ(窪田正孝)。そして、そのリーダーがオン(永山瑛太)だ。
4人とも、素晴らしい演技だったが、特に印象深かったのは、永山瑛太演じるオン。
導入部分で行方不明になってしまうので、他の3人に比べると出番は少ない。だが、沖縄へのたぎる想いを秘めたギラついた目は忘れることができない。
広瀬すずは、『遠い山なみの光』と併せて、大作が2本続けて公開。もう大女優の域だ。個人的には、『遠い山なみの光』のほうが、より輝いて見えたが… 『宝島』でも頑張った!
あの時代の沖縄と日本とアメリカ。ここまでしっかり見据えた映画は、今までなかったのではないか。
「祖国復帰」というスローガンの欺瞞性をはっきりと提示した。
多くのウチナンチュは、「祖国復帰」「本土復帰」に納得していなかったはずだ。
なにしろ、沖縄が日本に統合されたのは、1872年から1880年にかけて強制的に進められた琉球処分だったのだ。施政権返還が1972年。無理やり日本の一部とされてから、長く見積もっても100年しか経っていない。
「なにが、祖国かぁ!」「なにが、本土かぁ!」。
その想いが、しっかりと伝わってきた。

一方で、「祖国復帰」に同調するしかなかった悔しさ、無念さも。

コザ暴動(コザ事件・コザ蜂起とも言う)のシーンは圧巻だった。
数百人のエキストラを使い、アメリカからもクラッシックカーを調達して、数日かけて撮影したという。このシーンの妻夫木聡は、歴史に残る名演だろう。
ネタバレになってしまうので詳しくは書けないが、事実としての戦後沖縄通史を背景としながら、そこに壮大なフィクションを絡ませている(一部、原作よりも踏み込んだ解釈で)。
これが良かったのか悪かったのか… 一人一人が観て判断して欲しい。
沖縄では大ヒットしているとのこと。
ヤマトンチュも、いや、ヤマトンチュこそ、しっかり観るべき映画だと思う。
少し前の過去を描いた時代劇ではない。何も解決していない。
沖縄に行っても、那覇とビーチだけでは分からない。「アメリカ兵、多いねぇ~」「英語の看板、多いねぇ~」。せいぜいその程度だ。
レンタカーを借りて、コザ(沖縄市)の少し北で、本島西海岸から東海岸に向かって欲しい。ほどなく嘉手納基地のフェンスにぶつかり、それが延々続く。全周17㎞以上。それが今も変わらない現実だ。
嘉手納基地のフェンス。それは、『宝島』のモチーフの一つでもある。

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