ロバート・レッドフォード追悼①『さらば愛しきアウトロー(The Old Man & the Gun)』
ロバート・レッドフォード。
私としては、どうしても乗り切れない俳優だった。
「だって、演技がイマイチなんだもん!」と公言していた。
『明日に向って撃て!』は事実上のメジャーデビューなので、ポール・ニューマンに及ばないのは止む無し。
『大統領の陰謀』では、ダスティン・ホフマンのほうが間違いなく演技が上手いと誰もが分かった。
『追憶』では、本業は歌手のバーブラ・ストライサンドの熱演の添え物でしかなかった。
実際、アカデミー賞主演男優賞では、『スティング』でのノミネート止まりだ(英国アカデミー賞では、『明日に向って撃て!』などで主演男優賞を得ている)。
死者に鞭打つような記述が続いてしまうが、ごめんなさい!!! と謝りたい。若い頃の先入観に縛られて、晩年の作品を観ていなかったのは大失敗でした。
1本は、『さらば愛しきアウトロー(The Old Man & the Gun)』(2018年公開)。撮影は2017年なので、レッドフォードは80歳か81歳だ。
レッドフォードが演じたのは、「黄昏れギャング」と呼ばれる伝説的強盗犯。フォレスト・タッカーという実在した人物だ。誰ひとり傷つけることなく、大胆不敵に、そして紳士的に銀行強盗を繰り返す。
老いらくの恋の相手となる女性牧場主をシシー・スペイセクが演じる。高齢の2人の恋愛は様々な感情が交錯する。スリリングと言ってよいほどだ。老いるのも悪くないと思ってしまった(笑)。
レッドフォードを追う刑事がケイシー・アフレック。追う犯人に、いつの間にか魅せられてしまう。名優がまた素晴らしい演技を見せた。
そしてなによりも、レッドフォードだ。表情から若い頃の入りすぎていた力が抜けて、自然体。余計なものをすべて削ぎ落とした素晴らしい演技!人格が裸で見えてくる感じだ。
あくまで静かに、穏やかに。しかし、安住の地には留まりたくない。わがままでお茶目な老人は、魅力タップリだった。
監督は、インディーズ系のデヴィッド・ロウリー。ハリウッド映画とはひと味もふた味も違うと言うか、ほぼ真反対の映画。無理やりストーリーを盛り上げることはなく、人物の感情の細かい起伏を丹念に描き、そこに感情移入を図る。素晴らしくお洒落で品のいい映画に仕上がっている。ギャングが主人公なのに(笑)。
プロデューサーの1人にレッドフォードも名を連ねているので、サンダンス映画祭などで、ロウリーと意気投合したのだろう。
サンダンス映画祭でインディーズ映画を支えてきたレッドフォードが、インディーズ映画で俳優人生の幕を閉じる。なんとも粋だ。
『さらば愛しきアウトロー』は、若き日のレッドフォードへのオマージュと見ることもできそうだ。『明日に向って撃て!』のラストシーン、ボリビアで警察隊に囲まれ絶体絶命だった。だがもし、サンダンス・キッドがあの場面を生き延びることができたなら、アメリカに帰って、「黄昏れギャング」になっていたんじゃ… なんて思わせるのだ。背景となっている時代が違うので、数字は合いませんが(笑)。ロウリー監督の優しさを感じた。
この映画には、唯一とも言える重大な欠点がある。それは、邦題がベタだったことです(笑)。たとえば、『老人とピストル』でよかったのでは…
で、晩年のレッドフォード、もう1本のお薦めは、『オール・イズ・ロスト 〜最後の手紙〜 (All Is Lost)』なのですが、こちらは追って…

