『アジアのユニークな国』山内ケンジ監督

謎の映画を観てしまった。
『アジアのユニークな国』。山内ケンジ監督の最新作。
純粋社会派深刻喜劇と銘打っているが、そんなジャンルあったか?(笑)

ひと言で言うと、「政治(Politics)✕性事(Sex)」という構成的な軸があって、そこに、介護、少子化、住宅問題、監視社会といった社会的テーマを深く絡ませている。
性事を描くので、性的なシーンはそれなりにある。しかし、ポルノ映画ではない。深いのだ。
東京中野区にある2階家。夫と義父と3人で暮らす妻・暘子が主役だ。1階でほぼ寝たきりになっている義父の介護をしながら、夫のいない昼間、2階では違法風俗で稼ぐ。かなり強烈な設定だ。
暘子は、ある政治家が大嫌い。安倍晋三のことだ。…と、ここまでは作品ホームページにも書かれているので、ネタバレはセーフ。これが、「政治✕性事」の基本構造。
ストーリーに深く絡んでくるのは、向かいの家に小学生の男の子と2人で暮らすシングルマザーのタマミ。暘子に不信感を募らせ、監視を続けるうちに…
暘子を演じるのは鄭亜美。徹底して役に入り込んだ演技に圧倒された。
タマミの岩本えりも凄かった! パンフレットに、「疲れました!」のひと言が。頷けた。
男たちは総じてテキトーな役柄なので、演技も軽かった。

山内ケンジ監督は、もともと演劇畑から出てきているので、映画も演劇色が強い。フィックスの長回しで、俳優たちの演技を追い込んでいく感じだ。
超低予算の自主映画だが、ビンボーさは感じさせない。
なんと、主たる舞台である暘子の家のロケセットは、山内監督の自宅。お金も手間もかけずに撮りたいように撮るには、自宅が一番。…と考えているようだ。
そして、被介護者の義父を演じるのは、監督の実父! 98歳。映画の中では、暘子の介助がないとトイレにも行けないことになっているが、実際には自力でトイレに行ってるそうだ。最初、「このおじいさん、本物の被介護者?それとも俳優?」と思ったが、途中で、「完全に演じている」と分かった。ギャラは払ってないだろうから、これも経済性は◎だ(笑)。

ところで、『アジアのユニークな国』というユニークな(笑)タイトルは、ある登場人物のセリフから取っている。比喩的に使っているのかと思ったら、どうしてどうして。
パンフレットを読んだら、山内ケンジ監督の政治主張そのものなのだ。「日本は背伸びしすぎ。いい具合に衰退を受け入れていく方向に価値観をシフトした方がいい」。アジアのユニークな国でイイのでは…と主張する。斎藤幸平の脱成長コミュニズムを思い出した。
斎藤幸平のは、人類レベル、地球レベルの話だが、山内監督は、それをとりあえず日本に限定して考えている。
…と書くと、堅苦しいが、映画を観ると、“アジアのユニークな国”は、半分、ギャグとしてしか映らない。実際、そのセリフが飛び出したシーンでは爆笑してしまった。その軽さがイイ。
山内ケンジは曲者であり、達人だ!
こういう謎の映画、好きだな~

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