『国宝』

『国宝』、やっと観てきました。
いや~、これは少々のスキャンダルではお蔵にできない大作(笑)。時間もお金も注ぎ込んでます。一部の報道によると製作費は12億円。一般の邦画が3億とされるので4倍です。
そしてなによりも、歌舞伎の世界に本気で踏み込んだ。現代劇の中に、本格的な歌舞伎を組み込むなんて… 誰もが尻込みするチャレンジです。

蜷川幸雄が、『NINAGAWA・マクベス』のアイデアを思いつき、平幹二朗に相談。尻込みする平に、「歌舞伎なんて、バン!と地団駄踏んで、カッ!と見得を切るだけだろ」という暴言(笑)を吐いて、平が、「そんな簡単なもんじゃありません!」と怒ったというエピソードが残されています。
それくらい、現代演劇と歌舞伎は対局にあるものなのです(今、日本の演劇界・映画界・テレビドラマ界では、その融和が見られますが、長くなるので、ここでは深入りしませんが)。
吉沢亮と横浜流星。素晴らしい演技でした。劇中劇の歌舞伎部分の芝居も見事なもの。渡辺謙と寺島しのぶも文句の付けようなし。
凄いのは、田中泯。アングラ系の舞踊家として、伝統的な様式と闘ってきた田中泯が、歌舞伎界の超大御所を演じる。
踊りはもとより、目だけで歌舞伎を演じている!と感じさせる場面もあった。
近年、映画やテレビドラマにも出演しているが、『国宝』が一番!ではないか。
個人的には、1975年に草月会館で、田中泯の「ハイパーダンス」を観ている(実は、もぎりのバイトだった(笑))。髪の毛や眉毛に至るまで全身の毛を全て剃り落とし、ペニスには包帯を巻いて、ロープにぶら下がったりしていた。ほぼ全裸だ。当時、「これがアバンギャルドか!」と度肝を抜かれた。
50年を経ているとは言え、「あの田中泯が…」という思いはあった。しかし、舞踊や演技に対する基本的な姿勢は変わってないんだな、とも。『国宝』を観ると分かる。

吉沢亮の父親(殺されるヤクザの親分)を演じたのは永瀬正敏。デビュー作の『ションベンライダー』(相米慎二監督)の助監督だったので、オーデションから見てる。何とも言えない輝きを放っていて、1次オーデションの段階で、「この子で決まりだな!」と思ったのを覚えている。当時、永瀬は高校生だった。
スタッフでは、美術監督の種田陽平さん。寺山組の助手仲間だった。最初は、挿画の合田佐和子さんの助手で、その後、池谷仙克さんのグループに加わったと思う。
今や、日本はおろか、チャン・イーモウやタランティーノ、ジョン・ウーとも仕事をする世界的な美術監督だ。
若い頃、私が任されたある企業のテレビコマーシャルの美術をお願いしたのは、イイ思い出です。
…てなわけで、個人的な想いも交錯するなかで楽しんだ『国宝』でした。
もちろん、純粋に映画としても、素晴らしい出来。おそらく、海外の映画祭でも賞を取るでしょう。
お薦めです。
ただ…
わたし的には、「凄いな」「凄いな」の連続だったのですが、どの役にも感情移入することがなかった。熱くならなかったという意味。泣きそうになることもなかった。
「泣きました!」という人もいるので、好みの違いか…
ズッと、スタニスラフスキー、メソッド系の芝居が好きで、歌舞伎には入り込めないでいる。俳優で言えば、尾上松也、中村獅童、あと、スキャンダルが多いけど香川照之は素晴らしいと思う。ただ。現代劇をやると、いらんところで見得切ったりするからな~(笑)。

私は『国宝』を観て、「やっぱり歌舞伎も観ねば」とはならなかった。一方、「歌舞伎も見てみたい!」という感想を持った人もいる。
いろいろな意味で、『国宝』は興味深い映画です。

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