『やなぎにツバメは』作:横山拓也 演出:寺十吾

作:横山拓也、演出:寺十吾、『やなぎにツバメは』を観てきました。
改装なったけど、なんとなく懐かしい紀伊國屋ホールで。
ちょっと苦手なホームドラマカテゴリーでしたが、どうしてどうして、1時間45分、目一杯楽しめました。

大竹しのぶ、木野花、浅野和之、段田安則、林遣都、松岡茉優という豪華キャスト。完全満席。

ひと言で言うと、「(小津安二郎+向田邦子)÷2」みたいな感じ。
平穏な日々から始まって、途中、いろいろと波風が立つ。でも結局、変わったことは少しだけで、皆、また次なる平穏な日々へ。

波風は小津映画よりは少し激しかったかも…

ネタバレにならない範囲で設定を書くとすれば、
元夫婦=大竹しのぶと浅野和之。15年間に離婚している。その娘が松岡茉優。看護師として働いている。
段田安則は葬儀屋の社長で、その息子が料理人の林遣都。
木野花は、ズッと独り者。
70歳前後が4人で、その子世代が2人という構造です。グループホーム、グループリビング、サ高住なんて専門用語が飛び交うくらいで、高齢者入口にいる者たちの、その先の生き方をネタしている芝居です。
6人の中に複数の、そして複雑な恋愛関係があり、少しだけ相続問題なども絡んでくる。これ以上は書けません(笑)。
で、帰りの電車でパンフレットを開いた。若手俳優2人のコメントを読んでビックリ!
林遣都は、“第一印象は「残酷な結末」”と言い、松岡茉優は、“最初の感想は、ホラーだと思った”と。え!え!え!殺人も流血も発砲もないし、バイオレンスシーンは皆無だよ!?
残酷な結末もホラーも、私は1ミリも感じることはなかった。
「世代の違い」で片づけようと思ったが、たぶん違う!
この芝居は見事な群像劇になっていて、おそらく、誰に感情移入して観るかによって、まったく印象が変わってしまうのではないかと。
大竹しのぶ演じる美栄子周辺の親世代と、その親世代から置いてきぼりにされてしまうの娘、松岡茉優演じる花恋。若手俳優2人は、花恋に感情移入したのでは…
『東京物語』で、次女の京子(香川京子)が、不義理な長男夫婦に納得しないまま、新しい日常に戻っていく場面が思い出された。
う~ん、やっぱり小津ワールドに近い!
一応、大竹しのぶが主役ですが、若い2人を含めて、誰に乗っかっても楽しめる芝居。
私は、おおむね浅野和之に感情移入して観ていました。浅野は大竹の元夫役で、15年前、酒がらみの失態(一部、誤解か)で、離婚されたという設定。エラそうなことを言っては、15年前を蒸し返されて小さくなってしまう。悲しいですよね(笑)。

見事な群像劇は、もちろん、俳優陣の好演・名演に支えられています。若手2人を含めて、文句の付けようなし!
ラストが近づくにつれて、「まさか、誤解が解けて、美栄子(大竹しのぶ)と賢吾(浅野和之)が復縁して大団円か!?」なんて思いが。果たしどうなりますか(笑)。

時代は現代ですが、それぞれの青春、いや主に美栄子(大竹しのぶ)の青春かな。それを勝負どころに忍ばせる。時代感の出し方。お見事でした。
「横山脚本、上手すぎ!」と絶賛するのではなく、嫌味のひとつも言いたくなるほど(笑)。
私の勘違いでなければ、オープニングで流れる劇伴は、『ブルーライトヨコハマ』のイントロ(先ほど、いしだあゆみの訃報が報道されたのは、あまりに偶然)。横山脚本の指定なのか、寺十演出なのか、音楽の坂本さんのアイデアなのか。
さらに、「中学生の頃は、カーペンターズを歌って」なんて、大竹しのぶに言われちゃうと、私たち世代の心は鷲づかみにされてしまいます(笑)。
若い世代にはチンプンカンプンだとは思いますが。

あと、何度かあったタイムスリップ。タイムトンネルをくぐったことすら感じさせないで、見事に時代を行ったり来たり。横山脚本と寺十演出の相乗効果と見ました。

いろいろと勉強になった1本でした。

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