『チネチッタで会いましょう(IL SOL DELL' AVVENIRE)』ナンニ・モレッティ監督

なんとも不思議な、そして興味深い映画を観てしまった。『チネチッタで会いましょう』。

『息子の部屋』でカンヌ映画祭パルムドール受賞し、『ローマ法王の休日』などでも知られるナンニ・モレッティが監督、そして主演を務める。

ローマ市内にある垂直にそびえる河岸壁。男たちがロープを使って降りてきて、太いハケとペンキで落書きを始める。『IL SOL DELL' AVVENIRE』。日本語にすると、『未来の太陽』。なにやらスローガンのように見えるが、この映画のタイトルだ。
しかし邦題は、『チネチッタで会いましょう』。日本の配給会社は原題から距離を置きたかったようだ。映画を観終えると、その苦心の理由も分からないではないが(笑)。
映画製作の現場を描いた映画と聞いていたので、トリュフォーの『アメリカの夜』みたいなのかな… と思っていたら、まったく違っていた。映画監督の内的自伝。フェリーニの『8・1/2』や『ローマ』を思い出した。実際、モレッティはフェリーニを深く敬愛しているそうだ。
主役は、モレッティ自身が演じる映画監督ジャンニ。時代は現代。チネチッタで新作映画を撮影中だ。
撮っているのは、1956年のハンガリー動乱とイタリア共産党を巡る映画。その中身は… 共産党のルートを使ってハンガリーのサーカス団を招いてチネチッタで映画撮影していたら、そのハンガリーでソ連の支配に反対する蜂起が起きる(ハンガリー動乱)。サーカス団は民衆派で、イタリア共産党に支持、支援を仰ぐが… さらに、この映画ではトロツキーが大きな役割を果たしている。…と書くと政治的な側面が強調されてしまうが、そればかりの映画ではない。
ジャンニ監督、現代の私生活では、二人三脚でともに映画を作ってきたプロデューサーの妻から離婚を突きつけられ、音楽家の娘は想定外の恋に走る。撮影現場では、俳優はシナリオを勝手に解釈して余計な芝居をするし、小道具係りは手抜きだらけ。資金面を仕切っていたフランス人プロデューサーは詐欺で逮捕され、たちまち制作費がショートしてしまう。監督にとっては、「すべてがうまく行かない!」のだ。
50年近く、映像業界で生きてきた私としては、「ある、ある、ある、ある」の連続(笑)。

それにしても、ナンニ・モレッティは凄い監督であり俳優だ。71歳にして水泳は達人レベルだし、サッカーもうまい(もちろん映画の中で披露している)。「それがどうした?」という向きもあろうかと思うが、この映画に魅力を与えている大きな要素だと思った。

イタリア語版Wikipediaの『Il sol dell'avvenire』のページ。
右クリック翻訳でも、この映画を概要を理解することができる(ネタバレ覚悟の上で読めば)。
現代のストーリーと劇中劇が複雑に交差するので、一部、難解なところがあるが、基本はコメディー。深~いコメディーだ。
映画でも演劇でも、「予備知識なしで観る」を信条とする私だが、この映画に関しては、Wikiをザッと読み、予告編を見てから映画館へ!をお薦めしたい。
楽しめます。

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