『カラカラ天気と五人の紳士』作:別役実 演出:加藤拓也

三軒茶屋で芝居を観て、懐かしい想いに浸った。
『カラカラ天気と五人の紳士』(作:別役実 演出:加藤拓也)。別役実と言えば日本の不条理劇の第一人者。
しかし、不条理劇って正確にはどういう意味?英米文学者で演劇の造詣が深い堀真理子氏によれば、 「絶望的な人間の状況を笑いに変えてその無意味さを訴えかける演劇」ということだそう。
カタチとしては、大げさなドラマが伴わず、非論理的な展開。一方で、人間存在の不毛さを描きながらも、詩的で、メッセージは鮮やか。時にはコミカルな世界を描き出す。
と小理屈はさておき…
『カラカラ天気と五人の紳士』は、空っぽの棺桶を担ぐ5人の男たちから始まる。どうやら懸賞で当たったらしい。
棺桶を巡って、死ぬの生きるのと大騒ぎになるが、話は一向に展開しない。そこに闖入者として現れる2人の女。ギリギリの輪を保っていた男たちに大混乱をもたらす。そして最後は壮絶な…
男たちを演じるのは、堤真一、溝端淳平、藤井隆、野間口徹、小手伸也という芸達者で個性溢れるメンバー。
女2人は中谷さとみ、高田聖子。劇団新感線のメンバーです。
このキャスティングは見事! 男たちが「妙にリアル」なのに比べて、女2人は天から舞い降りてきたような現実感のなさ。しかし… とはなるのですが。
ひとつひとつのセリフが深い! 途中から、「この本は、すべてのセリフがメタファーになっている!」と感じていました。
もちろん、全部の暗喩先を言い当てるなんて不粋なことはしませんし、不可能です。別役さん自身も、どこまで意識的に書いてるかは分かりませんが、結果として、すべてのセリフがメタファーになっている。
そして、有り体な言い方をすれば、セリフを含む舞台全体が、現代社会を映し出す巨大なメタファーになっていると。
観終えてパンフレットを読んだら、演出家の加藤さんのコメントは、「いかにして別役メタファーに立ち向かったのか」という話だった。
男5人の芝居が、設定の荒唐無稽さに反して妙にリアルに感じたのは、俳優と演出家が別役メタファーと格闘し尽くした成果でしょう。解釈ではなく身体で理解したからこそ、「不条理劇が妙にリアルに観客に伝わった」と。
しかし別役実が大活躍した時代、ベケットやジュネという先人がいたとは言え、「不条理劇って新しいよね!」みたいな感覚で受け入れられていたはず。
それが今観ると、妙に懐かしい。
イイんだよね!それで?
と自分を納得させながら、観劇後に反芻していました。
イイんですよね!それで?(笑)
追記1:
1月に京王線沿線に引っ越したので、三軒茶屋へは下高井戸から世田谷線で。数年ぶりで乗りました。
イイですね! ファストはもうたくさん。ゆっくりと。それが豊かさなんだよね。…とあらためて。

追記2:
プロデューサー(SISカンパニー社長)の北村明子さんは、ズ~ッと昔からの友人。脚本、演出とキャスティングを見事に塩梅して、素敵な芝居をプロデュースし続けてます。“塩梅”なんて言うと怒られますが(笑)。いや~、今回もお見事でした。

