何故日本のビールには“米”が入っているのか?
「本当のビールは、大麦とホップと水だけで作るものだ!」と頑固なビールファンが言う。これは、ドイツで昔出された“ビール純粋令”を形式的に信じ込んでいるだけの意見だ。
因みに“ビール純粋令”に酵母が入っていないのは、当時まだ酵母の存在が知られていなかったからだ。
ところで、ビール王国ベルギーでは、果汁などを加えたビールも存在するし、ドイツのヴァイッエンやベルギーのホワイトビールは小麦麦芽や小麦そのものを使うので、“ビール純粋令”に反する。
もともと、“ビール純粋令”が出された背景には、パンを作るための小麦がビール造りに大量に使われるようになり、食糧危機管理面(飢餓対策)での心配があったという話もある。
では、何故日本のビールの“米”が入っているのか?
「日本人には米の風味に対するこだわりがあり、その風味をビールに添加して日本人向けのビールを作った」などと言う人がいるが、これは嘘八百だ。大体、日本のビールを飲んで、米の香りを嗅ぎ当てられる人がいたらお会いしてみたい。
本当は、気候や土壌の影響で、日本で作られる二条大麦(ビールの主原料)に糖分が少なく、たんぱく質が多いという事情に由来する。たんぱく質が多いと、濁りが出たり、雑味が増えたりするそうだ。そこで、米やスターチ(多分、ジャガイモのデンプン)を加えて、糖分を補っているのだ。
アメリカンビールも同じ理由で、コーンやスターチを添加している。
しかし、味を創造するためではなく、ビールの味を誤魔化すために副原料を加えるのは、やはり疑問だ。エビスビールにしても、モルツにしても、麦芽100%で結構いい味が出ている。…と言うよりも日本の大手ビールでは、この二つしか許せる味にはなっていない。
グラスを選ぼう!
本気でビールを楽しむなら、グラスを選びたい。
ピルスナーグラスと呼ばれる細長い足つきのものが手に入りやすい。香りがさほど強くなく、比較的泡立ちの弱いピルスナーを飲むなら、これに限る。
ベルギーのビール、例えばシメイなどを細長いグラスで飲もうとすると大失敗する。泡立ちが強過ぎて、泡ばっかりになってしまうからだ。また、口径の狭いグラスでは、特徴的な香りを十分に楽しむことが出来ない。
ベルギービールの場合は、本来ブランドごとに特製のグラスがあり、それで飲むのが正しい。この特製グラスには色々な形があるが、概ね、バルーン型のゴブレットの変形だ。
しかし、ベルギービールを飲む度にグラスも購入していたらきりがないので、気に入ったゴブレットを用意しておきたい。ベルギービール、ポーター、スタウト、ボックなど泡立ちが強く、香りに特徴のあるビールには最適だ。
また、ゴブレットでも、口が閉じた形のものと開いた形のものでは味わいが違うことをお知らせしておこう。
何故か、サクラメントのマイクロブルワリー事情
仕事の関係でカリフォルニア州サクラメントに数日間滞在した。サクラメントはサンフランシスコからクルマで約2時間。あまり知られていないが、カリフォルニア州の州都だ。大陸横断鉄道の起点しても知られ、全米一と言われる立派な鉄道博物館がある。一部の街並みを開拓時代の雰囲気に作り替え、全米から観光客がやってくる町でもある。近代的なビルが建ち並ぶ官庁街と観光開拓村(オールド・サクラメントと言う)がサクラメントの二つの顔だ。
カリフォルニア州はアメリカ国内でマイクロブルワリーが最も盛んな州だ。その中でも、サンフランシスコを中心とする州北部に多くが集中している。この地域は、ワイン作りも盛んで、有名なナパ・バレーは、サンフランシスコとサクラメントの間にある。ワイン作りの基礎があるから、アロマやフレーバーへの配慮が求められるビール作りも盛んなのだろう。言ってみれば、アメリカで、最も味と香りにうるさい連中の住んでいるのがカリフォルニア州北部だ。
サクラメントでは、4軒のブルワリーパブに行った。短い間に4軒だから、私も相当なビール好きだと自分で呆れたほどだ。
最初に行ったルビコン(RUBICON)は、町外れの住宅地の真ん中にあった。イギリス系のエール中心で、アンバー、ダークをともに飲んだが、エールにしてはポップが強い感じがした。要するに青臭い感じのするエール。出来は中の上か。ホップと酸味の効いたIPAというビールは爽やかで美味しかった。驚いたのは、あまり泡を立てないで持ってくることだ。これは、他の店でも共通することだが、少なくとサクラメントのブルワリーパブでは、5mm程度しか泡を立てないでビールをテーブルに持ってくる。従って、数分すれば泡は消えてしまい、香りと炭酸を閉じこめる効果は失われる。この店のツマミは、メキシコ風の前菜や典型的なアメリカ風サンドイッチといったところで、日本人感覚では、夕食にはちょっと寂しいものがある。しかし、老夫婦が出来立てのビールを飲みながら、簡単な前菜とサンドイッチでディナーにしている姿は、とてもアメリカ的な感じがして微笑ましかった。
2軒目はホッグズヘッド(Hogshead)。「豚の頭」という意味だ。オールド・サクラメントの中にあるので観光客(と言ってもアメリカ人)が結構来ていたようだ。カウンター主体のバーで、ビールはあまり見るべきものがなかった。エール二種とブラックベリーの風味を付けたポーターがあった。
3軒目は、ダウンタウンプラザというショッピングセンターの1階にあるリバー・シティ・ブルーイング(RIVER CITY BREWING)。立地条件から、あまり期待はしていなかったのだが、どうしてどうして素晴らしいビールを造っている。エール、オートミールスタウトなどがあり、イギリス系だ。エールは、ホップを押さえた本来の味と香り、かなり濃いと感じるオートミールスタウトにはコーヒーの香りがあり、上出来だ。料理は何故かイタリア系だが、とても美味しかったし、盛りつけににも気を使っていた。店の作りも洒落ている。ディナーのニーズに十分応えうるブルワリーパブだ。
4軒目は、フリーウェーのロードサイドにあるサドウィークス・ブルワリー・アンド・グリル(SUDWERKS BREWERY & GRILL)。イギリス系の住民に勧められて行ったのだが、何故かビールはドイツ系。ピルスナー、ラガー、メルツェン、ヘーフェ・ワイツェン、ボックなどが揃っていた。ヘーフェ・ワイツェンは非常によい出来で、果実香も感じた。まさに、夏向きの爽やかビールだった。マイクロブルワリーでボックは珍しいので興味を惹かれたが、品切れで飲めなかった。残念。料理はアメリカンの肉料理で、味付けに「甘さ」が目立ち、あまり感心できなかった。ただし、量はめちゃくちゃ多い。子豚のスペアリブを食べたが、丸ごと2枚出てきたのには驚いた。要するに、子豚一頭分の胸肉ということ。
カリフォルニア最新ビール事情
アメリカのマイクロブルワリーブームは思った以上に進んでいた。
今回仕事で行ったカリフォルニア州北部の状況を説明すると、ブルーパブは林立し、酒屋では、ボトルでかなりの数のマイクロブルワリービールが登場している。
ブルーパブの方は、「何故か、サクラメントのマイクロブルワリー事情」を参照願いたいが、普通のレストランでも、バドワイザーと並んで何某かのマイクロブルワリービールが置かれていることが多い。そのほとんどはエールタイプで、シェラネバダとサミュエルアダムスに多く出会った。アダムスの方はボストンの産だが、シェラネバダはまさにカリフォルニアの地ビール。ホップの効いた出来の良いエールだ。ホテルのバーにも必ずマイクロブルワリービールが置かれていた。
その町だけのビール、その村だけのビールが、カリフォルニアでは凄い勢いで伸びている。大量生産された「爽やかなだけのピルスナー」には、アメリカ人も飽きてきたのだろう。
極めて個人的な見解を言えば、「食べ物と飲み物だけはアメリカに負けたくない!」と常日頃から思ってきたのだが、これじゃ、ことビールに関する限りは全くの脱帽だ。さらに悔しいのは、カリフォルニアのエールが、どれも個性豊かで、それぞれに美味しいことだ。
悔しさ紛れに、今夜もまた、カリフォルニア産エールを一本空けるとしよう!
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