2019年-亥年『猪鍋』

Wild Boar Hot Pot

「勝手に恒例(笑)」となっている<MSLAB 干支の料理>。2019年は猪年です。
過去を振り返ると、1995年はちょっと気取って「猪肉のステーキ・マッシュルームソース」、2007年はワイルドに「猪肉の炭火焼き」でした。
3度目の猪年となる今年は、満を持して、「猪鍋」に挑戦です。

ご紹介するレシピは、「子どもの頃から猪を日常的に食べていた」という、宮崎県出身の友人からの直伝。薄いスライスを牡丹の花のように並べたり、色とりどりの野菜で飾ったりなど、一切ありません。
まずは土鍋に昆布だしと多めの日本酒。焼肉用に切った少し厚手の猪肉を投入したら、アクを丁寧にすくいながら中火で1時間くらい煮込みます。

今回の猪肉は完全な天然物。猟師が罠で獲ったものです。島根県の専門業者から入手しました。
東北や北関東などでも野生の猪が獲れますが、2011年の福島第一原発事故の影響で、この地域の猪からは高濃度の放射性物質が検出されることがあり、ちょっと手を出せません。
猪が、放射性セシウムを蓄積しやすいドングリやタケノコ、キノコなどを好んで食べるせいです。
チェルノブイリ原発事故は1986年でしたが、遠く離れたドイツですら、いまだに放射性物質に汚染されて食用に適さない猪が獲れます。福島第1の影響がいつまで続くのか、気が重くなります。
野生の猪を食べられなくなった住民も可哀想ですが、被ばくした猪が、罹らなくてよい病気になったり、奇形がでたりしているのは間違いありません。
猪にはなんの責任もないのに…

山には放射能汚染された猪、海はプラスチックで一杯。地球温暖化も取り返しのつかないところまで行ってしまうのでは…
私たちは文明社会に生き、 もちろんその恩恵を受けているのですが、「文明ならなんでもかんでもよい」という時代は、とっくのとうに終わっています。明らかに存在する“悪しき文明”ってやつを一つずつ排除していくことが問われているのかな… なんて思ううちに2019年が始まりました。

さて、話を島根産天然猪の猪鍋に戻しましょう。
わが猪師の教えによると、「野菜は大根だけ!味付けは醤油に限る。におい消しに牛蒡なんてとんでもない!せっかくの猪肉の香りが消えてしまう」いうことですが、今回は少しだけアレンジして、少々の葱を加え、味噌味にしました。食べる直前に、春菊かセリを加えてもよいです。
煮込むほどに、なんとも例えようのないよい香りが漂ってきます。豚肉にはない猪肉だけの魅力です。
薬味は一味唐辛子か粉山椒。野趣を大切にしたいなら粉山椒がお薦めです!

今回は、<MSLAB 干支の料理>初となる動画も公開しました。音付きです。お楽しみください。
https://youtu.be/ps7KVoVxB94

2007年-亥年『猪肉の炭火焼き』

Grilled Wild Boar

2007年は亥年。
世の中あまり良いことのなかった去年から、今年は猪が時代を切り拓いてくれるのか… 否、猪が何かをしてくれるわけではありません。しかし、ためらうことなく一歩を踏み出す猪の姿からは、少しばかり学ぶところがありそうです。

「踏み出せばその一足が道となり、その一足が道となる。迷わず行けよ。行けばわかるさ」アントニオ猪木

…というワケで、恒例「mslabの干支のお料理」です。地球上で最も美味しい肉=猪肉(少なくともわが家でそう信じられている)を最も美味しく食べる方法は?
それは炭火による塩焼きです。猪肉ならではの旨味とコクを味わうなら、これしかありません。出来るなら備長炭で焼きたい。出来るなら岩塩で味付けを。

「猪肉の炭火焼き」を食べたら、猪鍋は猪肉をたくさん食べ過ぎないための、あるいは、猪肉の出汁で大根を美味しく食べるための知恵でしかないことが舌で、そして身体で分かります。

Simple is the best way.
みずからの道をまっすぐに進むことこそ最強!
猪と「猪肉の炭火焼き」は、私たちに本物の「道」を教えてくれます。

この間、畑を荒らして悪者にされている猪ですが、彼らの生活圏を脅かしてしまったのは、言うまでなく私たちです。特に日本では、野生動物のことなど、まったく考えずに荒っぽい開発が進められてきました。
野生の猪を食べることが、ただちに共存への道を拓くとは思いませんが、猪肉を噛みしめながら、人の営みと自然について思いを馳せることは悪くはないでは…

尚、今回使用の猪肉は、島根県から天然物を仕入れました。

1995年-亥年『猪肉のステーキ・マッシュルームソース』

 

Noisette de sanglier chasseur

1995年猪年、mslabの年賀状を飾った料理。

数年前より続いていた干支の料理による年賀状だが、猪は結構困ったものの一つだ。まず、材料が手に入らない。猪肉は、山梨や宮崎で食べたこともあるし、宮崎の出身の友人からは、皮付きのものを何度か送ってもらって猪鍋にして食べた。味噌味か醤油味で、猪肉と大根だけで食べるのだが、これは旨い!ところが、この時に限って、宮崎出身の友人が音信不通で、何処に行ったか判らなかった。

電話帳片手に、大きそうな肉屋に片っ端から電話をかけ、板橋に猪肉を扱っている店を発見。やっと干支の料理の素材を手に入れた次第。かつては、池袋西武などにも有ったような気がするが、この時期から急に超大衆路線を歩み始めた西武百貨店には猪肉を扱う余裕はなかったようだ。

手に入った猪肉は、おそらくレストラン用で、皮もなく、色も鮮やか。宮崎産のものに比べるとワイルドさが劣っていたが、猪は猪、包丁を握る手にも力が入ろうものか、と思いきや、どんな料理にすべきかで、またまた悩むことになる。

猪鍋じゃ能がないし、かといって他の料理は知らないし、というワケで紀伊国屋に走り、手に入れたのが柴田書店の「荒田西洋料理・野禽獣料理編」という厳つい料理本。しかし、あるある、この本には猪を始め、兎や鶉はもちろん、熊、トナカイ、雷鳥に至るまでフランス料理のレシピがびっしりと書き込まれている。フランス人の食に対する貪欲さに改めて敬服した。

レシピ:
猪肉をステーキ状に切り、白ワインに玉葱(おろして水気をきったもの)、香草(筆者はローズマリーを使用したが、文献上には細かい記載はなく詳細不明)を混ぜたマリネ液に2日間漬け込む。
猪肉をマリネ液から上げ、バターで焼き上げれば肉の方は出来上がり。
マリネ液を煮詰め、ドミグラスソース、マデラ酒、マッシュルームを加え加熱し、ソースとする。

獣肉に白ワインを使う狙いは、よく判らないが、猪そのものの風味が強く残ることは確かだ。しかし、2日間というマリネ時間の長さが、猪肉のパワーを感じさせる。