2025年-巳年『坊さんの気絶(トルコ風ヘビナスの詰め物)』

İmambayıldı

Yeni Yılınız Kutlu Olsun 2025!
2025年、新年のご挨拶はトルコ語です。
30回目を迎えた、『MSLABの干支のお料理』。難関の巳年(へび年)です。
2001年は、沖縄の海蛇(イラブー)を使ったイラブシンジー。2013年は、ヘビイチゴ(ワイルドストロベリー)のスコーンでした。
他に、ヘビにちなんだ料理や食材はあるのか? 探しまくった挙げ句にたどり着いたのが、“ヘビナス”。正式名称ではありませんが、長ナスの別称はヘビナスなのです。
熊本産のものを入手することができました。ホントは、もっと細くて長いのが欲しかったのですが、まぁ、ツチノコってことでご容赦を(笑)。

料理は、トルコの茄子の詰め物、パトゥルジャン・イマム・バユルドゥ(İmambayıldı)。日本語訳すると、『坊さんの気絶』というユニークな名前。
パトルジャン(patlıcan)は、「茄子」。イマム・バユルドゥ(İmam bayıldı)で、「イマムが気絶」。“patlıcan”を省略して、単に“İmambayıldı”と呼ばれることが多いようです。
イマム(İmam)は、イスラム教の指導者を指しますが、俗訳で“坊さん”となってるわけです。

料理名の由来は、「あまりの美味しさに坊さんが気絶した」というシンプルなものから、「オリーブオイル商人の娘と結婚した坊さんが、ナスとオリーブオイルの料理に魅入られた。しかし、娘が持参金代わりに持ってきた素晴らしいオリーブオイルが底をついてしまい、坊さんは悲しみから気を失った」というショートストーリー仕立てまであります。

材料は、茄子とオリーブオイルがメインで、詰め物は、玉葱、ニンニク、パプリカ、ニンジンを炒める。乾燥バジル、クミンは欠かせない。
茄子を焼き付けて、縦に切れ目を入れ、詰め物をし、フライパンで蒸し焼きして仕上げるという段取り(オーブンを使ってもよい)。
ちょっとだけ神経を使うのは、茄子を焼くときのオリーブオイルの量。ある程度多くないと茄子の旨味が出てこないし、多すぎると油っぽくなってしまう。そのさじ加減は、1回か2回作ってみると掴めます。
最後に、ハイダリ(ヨーグルトディップ)を添えれば、気分はすっかりトルコに。

当方、神も仏も信じない立場ですが、今回は、『坊さんの気絶』に感激です!
宗教指導者をネタにするのはイイですね。イタリアには、『神父の締め殺し』というパスタがあるそう。料理名ではありませんが、日本でも、「坊主丸儲け」とか「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」なんて言いますし(笑)。宗教に対しては、世俗的であるに越したことはありません。

昨今は、世界中で憎悪が溢れるばかり。すべての宗教が、「異教徒や無神論者を攻撃したり批判してはならない」と定めてくれれば、世の中いくらかよくなるのに…なんて。 甘いか。

【動画(2分15秒)】
https://youtu.be/slo0PMnVngo

2013年-巳年『ワイルドストロベリーのスコーン』

Wild strawberry scone

19回目の「mslab 干支のお料理」をお届けします。

2013年は難関の巳年。12年前は沖縄の海蛇=イラブーで乗りきりましたが、他に蛇がらみの料理や食材はあるのか?

ふと思いついたのが「ヘビイチゴ」。40代・50代以上なら、登下校の途中やハイキングの道すがらなどで、一度は口にしたことのある方も多いのでは。 調べてみると、ヘビイチゴはバラ科の野草で、食べられるがあまり美味しくないとのこと。私たちが子どもの頃、ヘビイチゴと呼んでいたのは、クサイチゴ、モミジイチゴなどの野いちご・木イチゴの類だったようです。 おまけに、名前のルーツをたどると「中国ではヘビイチゴを蛇苺と書き、美味しくないので蛇にでも食べさせればいいと、この名がついたと言われている」などと知ってしまっては、おっ先真っ暗。ヘビイチゴ料理は成立せずか…

諦めかけた時に検索に引っかかってきたのが「エゾヘビイチゴ」。北海道のヘビイチゴだろうと思っていたら、これがまったくの別種。学名は Fragaria vesca。英名はワイルドストロベリー(Wild Strawberry)で、私たちが普段食べている苺(オランダイチゴ)の原種だということが判明しました。これはいける! さっそく、洋菓子材料サイトで探してみると、あるではないか!冷凍のワイルドストロベリーが!セルビア産です。

考えてみたら、ウェッジウッド(Wedgwood)のティーカップの定番と言えば「ワイルドストロベリー」。こうなったら、紅茶と合わせて料理はスコーンしかありません。ジャムも作って添えました。生地に冷凍のままのワイルドストロベリーを混ぜるだけで、あとは通常のスコーンのレシピ通り。ジャムは少しだけ砂糖とレモン汁を加えて5分も煮込めば完成という簡単さでした。

お味は?ワイルドなだけあって、普通の苺より酸味がありますが、それが清々しさを感じさせてくれます。野性味のある美味しいスコーンになりました。

思えば2012年の流行語大賞はスギちゃんの「ワイルドだろぉ」でした。大飯原発の再稼働を強行したのは「ワイルドすぎる首相」といわれた野田佳彦。次の首相は気弱な割りにはワイルドを気取っています。 ワイルドな政治家は危ないだけなのでたくさんです。 一方、私たち自身は、少しワイルドさを取り返して、何か事あれば、噛みつき、叫び続ける必要があるのでしょう。ヘビの執拗さも見習いながら。

ヘビイチゴの甘酸っぱい清々しさが、ワイルドの大切さを思い出させてくれました。

2001年-巳年『イラブーシンジ』

Irabu(Sea snake) food ~ Okinawa Japan

巳年である!21世紀である!

…とまぁ、いろいろ考えた末、2001年の年賀状は“イラブー”です。
猛毒を持つ沖縄のウミヘビ。那覇の国際市場に行けば、とぐろ状、棒状の薫製が売られています。
さて料理法は…

の前に、まず、これを東京で手に入れるのは不可能だということを報告しておきましょう。今回は馴染みの沖縄料理屋さんに頼んで、“棒状”のものを現地直送で手に入れました。

届いたのは、真っ黒なウミヘビの薫製。これを鋸で切って、6時間焚いて、別に焚いたトン足や昆布と併せて… というのが概ねの作り方なのですが、途中でイラブの骨を抜いて巻直すというエラく面倒な作業が入ります。結局は二日がかり。ここ数年続いた “MSLAB の干支の料理”の中では、最も手間の掛かる物でした。

昆布だしとイラブの薫製だけで焚いた煮汁を“イラブーシンジ”と呼びます。
“シンジ”は、おそらく“センジ(煎じ)”でしょう。これは強力です(一口口にしただけで、心臓バコ!バコ!)! あとトン足やらと併せていくと、とにかくクセの強い鰹節って感じですね。ウミヘビの肉自体は、二日掛けて煮ていく内に食べやすいものになります。知らない人には「野鳥の肉」と言えば通るほどです。

恐竜は自然環境の変化に対応して鳥類へと進化したとか… 一方では、トカゲ・蛇の類として生き延びたのは事実でしょう。沖縄のイラブーに恐竜のDNAは伝わっているのでしょうか… 伝わっているのだとしたら“イラブーシンジ”は3億年の味!?