2024年-辰年『カルチクッ(太刀魚の韓国風スープ)』

갈치국

MSLAB恒例の干支のお料理、辰年は毎回悩ましいのですが、2024年は太刀魚の韓国風スープ『カルチクッ』にしました。
なぜ太刀魚?
釣り人たちの間では、大きな太刀魚を“ドラゴン”と呼ぶのです!
そう言われてみれば、龍宮城にもいそうです(笑)。

太刀魚料理と言えば済州島(チェジュド)。様々な太刀魚料理がありますが、その代表格が『カルチクッ』。
カルチは갈치(太刀魚)、クッは국(スープ)で、文字通り太刀魚のスープなのです。

材料は、太刀魚の切り身、白菜の若菜(今回は芯取菜を使用)、韓国カボチャ(ズッキーニ・日本カボチャでも可)、にんにく、生唐辛子。味付けは塩、醤油、酒だけとシンプルです。
太刀魚はとても旨味が強いので、その出しだけでもイケますが、昆布の水出しを使うと、より上品に仕上がります。
にんにくはみじん切りをたっぷりと。生唐辛子は風味メインなら切らずに投入。辛さを求めるなら輪切りにして使います。
レシピはシンプルなので、動画をご参照ください。

和食のレシピの中にも、「太刀魚の吸い物」とか「太刀魚の潮汁」といったものがあります。しかしそこは韓国風というか済州島風。にんにくをガツンと利かせてこそカルチクッ。
上品にしてパンチあり!です。

十二支の中で唯一架空の生き物である辰(龍)は、古来、皇帝の権力の象徴。ヤクザ屋さんの入れ墨の重要なモチーフでもあります。
一方、長崎くんちのメインイベントとも言える龍踊(じゃおどり)は、雨乞いの祈りから始まったとされます。日本各地には、龍を平和の象徴として祀る寺社もあります。
どうやら東アジアに暮らす私たちは、龍を変幻自在に活用してきたようです。

第二次世界大戦終結後最大の危機と言われる昨今。世界のあちこちで戦火が収まりません。
強欲と排他・排外によって数万の人たちの命が奪われていく。憂うなというほうが無理です。
そしてドラゴンと言えば、私が大好きなブルース・リー(李小龍)。
「戦うべき敵などいない。それは幻に過ぎない」という名言を残しています。
強欲と 排他・排外が作り上げている幻。それを少しでもかき消す2024年になってほしいものです。

●動画(3分23秒)
https://youtu.be/j_onWyOD9yg

2012年-辰年『龍井蝦仁』

longjing xiaren

2011年が良い年だったと言える人は少ないのではないでしょうか。
学生時代に、曲がりなりにも原子物理学をかじった経験のある私にとって、福島第1の事故は、まさに痛恨。原子力の怖さは知っていたし、いつかは大事故が起きるだろうとは思っていました。そして、実際に起きてしまった… 日本が原発大国になっていくのを傍観していた自分に怒りがこみ上げています。

そんな中で、2012年、MSLABの干支の料理は、『龍井蝦仁(ロンジンシャーレン)』です。龍井とは中国杭州地方名産の緑茶・龍井茶のこと。杭州の名泉・龍井泉は、どんなに干ばつが続いても枯れないことから、泉の奥に龍が棲んでいるという伝説があります。龍井泉附近で作られているのが龍井茶です。

さて、龍井蝦仁。龍の棲む泉と、おめでたい海老が一体となった、ハレの日の料理です。春の新茶の季節には、摘み立ての新芽で作るそうですが、普通は、飲用の茶葉を使います。

レシピにいきましょう。
海老は殻をむき、塩、酒、片栗粉で下味を付けます。この時、重曹を少し加えると、プリプリ感が出て、本格的な仕上がりになります。
龍井茶は茶殻を使うのですが、風味を残したいので、出すのは一煎だけ。この一煎を龍井蝦仁とともに味わうのも格別です。
中華鍋に熱湯を沸騰させ、下味を付けた海老を軽く茹で上げます。次に、にんにくと根生姜を油で炒め、香りが出たら、茹でた海老を投入。塩、紹興酒、鶏ガラスープ、龍井茶を加え、水分がほぼなくなるまで炒めます。
品の良い龍井茶の苦みが効いた逸品の完成です。

考えてみれば、お茶も原発事故でひどい目に合いました。遠く離れた静岡にまで、放射性セシウムが飛散し、それを新茶が取り込んでいた… 元来、お茶はカリウムが豊富な健康飲料です。経験的にそれを知っていた東アジアの人々は、いにしえの昔から愛飲してきました。ところが、茶木は、栄養分のカリウムと間違えて放射性セシウムを取り込んでしまう。このことだけを見ても、原子力が、自然の営み、人間の営みと相容れないのは明らかです。

2012年元旦。今年は、迎春という言葉を使うのを止めました。今、思うのは、春は迎えるものでもなく、待つものでもなく、みずから作り出すしかないのだと。龍井茶の苦みもまた、それを教えているような気がします。

2000年-辰年『伊勢エビの炒めもの広東風』

Shyon-ton gok ron ha

200さて、20世紀最後の年、2000年は辰年です。
福井県辺りで発掘された恐竜の骨を出汁にして、コモドオオトカゲでも煮込み、ズズイと吸えば、貴方のDNAに微かに残る、本物の『竜』のイメージが蘇るかも…
でもそれは、千年どころか三億年に及ぶ叶わぬ夢。

恒例の干支のお料理。
今年の食材は『龍蝦』。即ち、伊勢エビです。中国では、伊勢エビ(ロブスター)のことを龍蝦と呼ぶのです。 料理名は広東語で『上湯(火+局)龍蝦』(伊勢エビの炒めもの広東風)。

レシピ:
用意するものは、大きめの活け伊勢エビ(ロブスター)
青葱(ウチでは京葱を使用)、エシャロット
根生姜、ニンニク、片栗粉、紹興酒


清湯(澄んだ鶏ガラスープ)などです。 まずは、活け伊勢エビの解体から始めます。生きていますから、裏返して包丁を当てると「キー」とか「ギー」とか騒ぎたてますが、ここは一気に一刀両断。後は足先、背腸、肺を取り除きながら、適当にぶつ切りです。 切り分けた伊勢エビの身の部分にだけ片栗粉を付けて、180℃の油で油通し。殻が、見る見る鮮やかな赤に変わります。身まで火を通す必要は無いので、表面が固まったら、油から上げます。

中華鍋に少量の油を熱し、エシャロット、生姜、ニンニクを炒め、さらに青ネギを追加。香りが出たら、伊勢エビを投入。塩を加え、紹興酒と鶏ガラスープを注ぎます。
蓋をして強火で一気に蒸し煮状態に。途中、一度だけ伊勢エビをひっくり返します。 あまりゴチャゴチャいじると、身が殻から離れてしまうので、要注意。

最後に水溶き片栗粉でとろみを付けて、香り付けのごま油を鍋肌から注げば出来上がりです。