2023年-卯年『兎のビール煮アンデルセン風』

Lapin a l’andersen

やってきた卯年。フランス料理のレシピから兎肉の料理をご紹介します。

Lapin a l’andersen(兎のビール煮アンデルセン風)。
ご存じの通りアンデルセンはデンマークの童話作家。フランス語の料理名に“ビール”が入っていないのは、“andersen”にビールの意味が含まれているからでしょう。
しかし、「アンデルセンは大のビール好きで痛風を患っていた」なんて話は伝わっていません(笑)。

アンデルセンの故郷はデンマークの古都・オーデンセ。デンマークはビール大国でカールスバーグとかツボルグは日本でも手に入ります。
で、オーデンセもまたビールの町。そこで作られているビールの名前も“オーデンセ”。日本で言えば、“サッポロ”とか“ヱビス”の感じでしょうか。
裏取りはありませんが、アンデルセンがビールの町オーデンセ出身なので、“a l’andersen”がビール煮を意味しているのでは… と。

Lapin a l’andersen(兎のビール煮アンデルセン風)のレシピを簡単に紹介しましょう。
今回はフランス産の冷凍兎肉を入手しました。
解凍したら塩を振って、オリーブオイルを熱したフライパンに投入。両面に軽く焼き目を付けます。
別のパン(今回はスキレットを使用)でみじん切りの玉葱を炒め、上にローリエと焼き目の付いた兎肉を乗せます。
そこでビールを大胆に注ぎ込む!
オーデンセは入手できなかったのでカールスバーグを使いました。ワッと立ち上がる泡。漂う麦とホップの香り。
蓋をして30分ほど煮込みます。
最後にシャンピニオンを加え、軽く煮込めば完成。
盛り付けてからドライパセリを振ります。
兎肉は食感としては全身鶏のささ身みたいな感じ。兎肉独特の香りとビールの風味とが深く絡み合う。この料理の醍醐味です。

さてアンデルセンと言えば、『裸の王様』。1837年発表なので180年以上前の作品です。
「批判や反対を受け付けないため、本当の自分がわかっていない権力者」を“裸の王様”に喩えました。
180年を経て、私たちはアンデルセンの辛辣な皮肉を糧にできているのでしょうか?
今や世界は“裸の王様”だらけ。ウクライナで戦争を引き起こした“裸の王様”。その戦争に油を注ぐ“裸の王様”たち。
外国の話だけではありません。日本にも誰も欲していない軍備増強に突っ走る“裸の王様”がいませんか?

忘れてはいけないのは、アンデルセンが童話の中で皮肉ったのは権力者だけではないということ。
王様の取り巻きはもちろん、すべての大人が権力に忖度して裸の王様を褒めあげるのです。
これって身の回りでも見かけませんか?

『裸の王様』のラスト、王様のパレードを見ていた1人の子どもが言います。「あれ?王様は裸だ。なんにも着てないよ。ぼくにはきれいな服は見えないよ。裸だよ」。
忖度のたがが外れた大人たちも口々に、「王様は裸だ!」と叫び始めます。
しかし、哀れ王様はパレードを途中で止めることができず、ジッと前を見つめて裸のまま歩き続けるのです。

180年以上前のアンデルセンの指摘を受けとめて、誰もが、「王様は裸だ」と本当のことを叫ばなくては!
…なんてことを思いながら、2023年を迎えました。

★動画(2分4秒)もアップロードしました。
https://youtu.be/hk5yV6q0KFY

2011年-卯年『兎肉の網焼き』

Lapin grille

Bonne Annee ! フランス語の新年の挨拶で始まる今年は卯年。

うさぎ肉は、最近の日本ではポピュラーな食材ではありませんが、一昔前までは、どこの田舎でも日常的に食べられていた貴重なタンパク源です。今日でも、フランスやスペインなどでは一般的な食材として流通しており、その料理法も多彩。フランス料理の専門書を紐解けば、鞍肉と股肉の料理法の違いはもとより、野うさぎと飼うさぎで異なる料理法があるのに驚かされます。

さて、卯年の料理ですが、馴染みの薄いうさぎ肉の味を知るという原点から発想しました。Lapin grille。うさぎ肉の網焼きです。部位は股肉を使用しました。
塩胡椒してグリルするだけなので、レシピと言うほどの難しさはありません。一点だけコツを挙げるとしたら、焼く前に溶かしバターを全体に塗っておくことです。うさぎ肉の味わいは鶏肉にかなり近いものですが、より弾力があり、脂は少な目です。ですから少ない脂をバターで補い、同時に風味を加えると。
今回は、クレソンソースを添えてみました。青臭い香りが、やや淡泊なうさぎ肉にインパクトを与え、料理としてはたいへんバランスの良い味に仕上がりました。

さて、料理写真をご覧いただければ、皿の後ろに控えめに写るうさぎラベルのワインにお気づきでしょう。フランス・ブルゴーニュ地方の南端、ボージョレ・ヌーボーで有名なボージョレ地区で作られる白ワイン『2009 Beaujolais Blanc eleves en fut』。ぶどう種はシャルドネ100%です。

なぜうさぎのラベル?実は、生産者のニコラ・テスタール氏は自然派農業でぶどう栽培しており、そのぶどう畑には、たくさんのうさぎが生息しているそうなのです。
ヒット漫画『神の雫』を強引に解釈すれば、うさぎがたくさん生息する畑のワインはうさぎ肉と合うはずです!うさぎ料理とワインの新たなマリアージュを極めた自信はありませんが、2009 Beaujolais Blanc eleves en fut の豊かなミネラル感と、青リンゴ系の品の良い果実香、そして、微発泡のピリッとした味わいは、Lapin grille にピッタリだったと報告しておきます。

さてさて2011年、うさぎにあやかった三段跳びで、なにかにつけて白か黒かの二者択一を迫られる狭い価値観を突破して、多様性の中から自分にとっての新しいベストマッチングを探したいものです。

1999年-卯年『バレンシア風パエリア』

Paella Valenciana

mslab恒例の「干支のお料理」、1999年は卯年ということで動物愛護系の方からは眉をひそめられそうな料理にならざるを得ません。一時は“リンゴの兎”も考えたのですが、これまたグルメ系から「手抜きだ!」と批判を浴びそうですし…

というわけで、選んだ料理は“Paella Valenciana(バレンシア風パエリア)”です。バレンシア地方のパエリアには必ず兎とカタツムリが入ると知り、早速挑戦です。

日本には、「兎と亀」という組み合わせで童謡や童話がありますが、スペインでは兎の相方はカタツムリ。亀同様、ゆっくりと歩むというのが面白いですね。「兎とカタツムリ」という組み合わせは、純粋に味だけで決まったものではなく、何らかの教訓を含むのかも知れません。

さて兎肉… フランスやスペインでは普通の市場で売っていますが、日本ではなかなか手に入りません。有ってもプロ向けの10キロ単位だったりと、入手は困難を極めたのですが、結局、板橋に国産兎肉を1羽単位で小売りする店を発見。値段は1㎏当たり1000円ですから、安いですね。

Paella Valencianaの作り方は普通のパエリアと同じですから省きますが、丸ごとの骨付き兎を捌く作業は、さほど難しくなかったことを報告しておきます。

兎肉の味は鶏肉に近いもので上品な味わいです。因みに、兎を“羽”で勘定するのは、獣肉を食べることを禁じられていた仏教の僧が、鳥と称して誤魔化して兎を食べるためだったとか… 現在の日本では決してポピュラーな食材ではありませんが、「聖職者が嘘をついても食べたがった美味しい肉」でもあるのです!