2020年-子年『女貞子鶏湯(ねずみもちの薬膳スープ)』

Jyoteishi and Chicken Soup

2020年は子年。3周目に入ったMSLABの干支の料理ですが、またまた難関を迎えました。
ウェブや文献などいろいろ調べて、たどり着いたのが、「ネズミモチ」。街路樹として植えられることもあります。
そう言えば、どこかの公園で“ネズミモチ”と書かれた白い札の付いた樹を見た記憶が…
名前は黒っぽい小さな実がネズミの糞に似ていることに由来します。

乾燥させたネズミモチ(正確にはトウネズミモチ)の実は、女貞子(じょていし)と呼ばれる薬膳食材です。
煎じて薬膳茶として飲んだり、スープに使います。
お茶として飲むと少し黒豆に似た味わいで、飲みにくさはありませんが、黒豆ほど美味しくはないかな(笑)。

漢方の五性五味では、「涼・苦甘」に分類され、身体を冷やす働きがあります。
強心、利尿、緩下、強壮、強精薬、解熱剤として古くから用いられてきたようです。
枸杞(平・甘)や桂皮(熱・甘辛)と相性がよく、桂皮、要するにシナモンと合わせると陰陽のバランスが取れるそうです。

さて料理です。
漢方の蒸しスープにしました。中国風に書けば、“女貞子鶏湯”。分かりやすいように、“ねずみもちの薬膳スープ”としました。
材料は、女貞子(ネズミモチ)、桂皮(シナモン)、枸杞(クコ)、紅棗(ナツメ)、骨付き鶏肉、昆布。
骨付き鶏肉は熱湯で軽く霜降りし、その他の材料はそのまま器に投入。水を注いで1時間蒸籠で蒸すのみです。
塩味を付ける必要もなく、滋味深い薬膳スープが完成します。

政治的にも環境問題的にも地球規模で混乱が続く昨今ですが、まずは薬膳スープで心と身体を健全に保つか!と。
人間が自然と対話しながら編み出してきた優しい食材のスープは、いやが上にも、「有限な広さを持つ地球」という原点に立ち戻ることを求めてきます。

短い動画(1分)も作成しました。
こちらからどうぞ。
https://youtu.be/o73IrPzHFiQ

2008年-子年『海鼠の海鼠腸和え』

Sea cucumber

「mslabの干支のお料理」も二周目。2008年は最大の難関と思われる子年を迎えました。十二年前は「ネズミの糞」という名を持つタイの激辛唐辛子で乗りきりましたが、他に「ねずみ」に関連する料理や食材は…

ありました!ナマコです。英語でSea cucumber、中国語で海参、日本語では海鼠と書くのです。ネズミというには、いささか動きがゆったりとしていますが、海の鼠なのです。

「キモイ」「初めて食べた人の気が知れない」などと、謂われ無き罵詈雑言を浴びせられている海鼠ですが、実は古くから食材として利用されてきました。
中国では、主に干海鼠を食し、滋養、補血、降圧、肥満防止の効用があるとされます。
日本では、何と言っても生食。地方によっては、年末年始の食卓に欠くことのできない料理になります。江戸時代に、雲丹、カラスミと並ぶ三大珍味としてあげられた海鼠腸(コノワタ)は、海鼠の内蔵だけを取り出し塩辛にしたものです。

さて、今年の料理は「海鼠の海鼠腸和え」です。2007年秋に岡山の料理屋で出会い「これは究極の海鼠料理だ!」と叫んでしまいました。いわゆる「とも和え」の部類で、味付けは海鼠腸の塩分だけ。
海鼠酢(二杯酢や三杯酢で海鼠の身を食す)も美味しいものですが、口の中に広がる磯の香りは「海鼠の海鼠腸和え」が圧倒的。特に日本酒にはベストマッチの肴となります。

レシピは、とにかく新鮮な海鼠を手に入れることから始まります。内蔵を取り出し塩を振って塩辛にしますが、さすがに生臭みが強いので、一晩以上は置きたいところです。従って、この一日目の海鼠の身は海鼠酢で頂くことになります。
二日目に、また新鮮な海鼠を手に入れて、この身を前日に作っておいた海鼠腸で和えるわけです。海鼠腸は少量しかありませんから、身の一部だけを使います。シンプルな料理ですが、時間と手間はかかるのです。盛った時に、身よりも海鼠腸が多く見えるくらいでないと「海鼠の海鼠腸和え」の醍醐味は味わえません。

尚、「振り海鼠」と言って、海鼠の身に多めの塩を振って笊をかぶせて揺すり、ぬめりを取ると同時に身を絞める下処理がありますが、この料理に関しては不要です。身が固くなりすぎると海鼠腸との馴染みが悪くなるからです。少量の塩を手にとって、海鼠をこすり、水で洗い流す程度が良いでしょう。

海鼠は素手で触ると、そこから溶けてしまうという、信じられないくらいデリケートな生き物です。だからこそ、太古の昔から、誰にも見つからないように海の底にじっと佇んできたのでしょう。そんな海鼠に温暖化の進む地球の変化はどう見えているのでしょうか… 海鼠が伝えてくれる磯の香りは、すべての生命の母なる海の香りに他なりません。

1996年-子年『活き海老のプリッキヌーソース』

Kung chae nam pla
1996年は鼠年だ。mslab恒例の干支の料理による年賀状は、大きな試練の年を迎えた。戌年をホットドッグで誤魔化してヒンシュクを買ったことが数年前にあるだけに、半端なことは出来ない。意地の悪い友人たちは前の年の夏頃から「来年の年賀状、どうするの?」などとニヤニヤ聞いてくる始末だ。
南米に何とか言う猫ほどの大きさになる鼠がいて(江戸川にもいるという噂有り)、これは食用になると聞いたが、まず、肉が手に入らないし、料理法もさっぱり判らない。
そこで思いついたのが、“プリッキヌー”。タイ料理で使われる最も辛い小さな唐辛子だ。プリッキヌーとはタイ語で“ネズミの糞”という意味だ!
早速、新宿のタイ食材店で冷凍のプリッキヌーを購入し、タイ料理の中で最も象徴的にプリッキヌーを使う料理に挑戦した。

レシピ:
活き海老は尾を残して頭と殻を取る。背腸を取り氷水に晒し、身を引き締める。小鍋にお湯を沸騰させておいて、尾だけを茹でて赤い色を出す。
ソースの材料(4人分)は、

  • ナムプラー:大さじ3
  • レモンの絞り汁:大さじ3
  • プリッキヌー(みじん切り):5本分
  • ニンニク(みじん切り):1粒分
  • カー(みじん切り):親指大1個分(カーが手に入らなければ、根生姜で代用)。

これらを予め混ぜ合わせておき、水気を拭き取った海老の上からかける。ミントを飾れば、本格的タイ料理の出来上がりだ。