2015年-未年『ギリシャ風野菜の羊挽肉詰(Yamista)』

Stuffed vegetables with lamb mince, dill & rice

明けましておめでとうございます。 2015年の幕開け!未年ですね。
MSLAB恒例の”干支の料理”は2度目の羊料理です。

羊は世界中で様々な食べられ方をしているので楽勝!と思いきや、いろいろありすぎて選ぶのに一苦労。
贅沢な悩みですが(笑)。 というわけで、決めたのが『ヤミスタ(Yamista)』というギリシャ料理。
『ギリシャ風野菜の羊肉詰め』です。

ギリシャ語では『γεμιστ純・με κιμ純・αρν純・ 純・ヒηθο και το ρ純トι』、
英語だと『Stuffed vegetables with lamb mince, dill & rice』となります。
代表的なギリシャ料理のひとつで、レストランでも一般家庭でもよく見かけます。

ギリシャやトルコの肉詰め料理は、ドルマとかドルマデスという名前でご存じの方は多いと思います。
しかし、ギリシャでドルマデスと言うと、”ぶどうの葉の肉詰め”のこと。他の野菜の場合は、ヤミスタと呼びます。
今回は、トマトとピーマン(パプリカ)とズッキーニを使いました。

レシピを簡単にご紹介しましょう。

ピーマンとズッキーニはくり抜くだけ。
トマトはくり抜いて、中身は種だけ残すように絞って、煮込み用スープに加えます。
詰め物は、羊のひき肉にインディカ米とディル、すり下ろしたニンニクを加え塩少々。よく練ってから、野菜に詰めます。
スープは、トマトジュースと白ワイン。
料理本のレシピには、チキンストックとかビーフストックを加えるように書いてありますが、詰め物から出しが出るので大丈夫です。コクが欲しければ、パンチェッタ(イタリアの生ベーコン)を少し入れて、一緒に煮込めばよいでしょう。
あとは、塩少々だけ。アルミ箔で落としぶたをして、20分ほど弱火で煮込めば完成です。
この肉詰め料理、ディルを効かすのがギリシャ風。お楽しみください!

さて、年末から、ギリシャが世界の注目を集めています。

1月25日に総選挙が行われるからです。反新自由主義、反財政緊縮策を掲げる急進左派連合の躍進を受けて、「ギリシャ再破綻」だの「ギリシャ発のユーロ危機再燃」などと騒ぐ向きが多いようです。
しかし、実態は異なり、この選挙は民主主義のあり方を問う選挙という側面が強いようです(BBCあたりでも、そういうニュアンスの報道が出てきました)。
そう言えば、スコットランドの独立選挙の時も、民族主義者の運動かと思っていたら、実は、独立派の方が原則的な民主主義を志向する勢力だったことは記憶に新しいところです。

番組の取材でギリシャを訪れたときに、「今のギリシャの民主主義には、アテネの民主主義の伝統が引き継がれていますが?」なんてステレオタイプな質問したら、「アテネはまったく関係ありません。あの頃は民主主義と言っても、奴隷制度の上に乗っていたのですから。今のギリシャの民主主義は、レベルが違います」と言われてしまい、赤面の思いをした記憶があります。 午後になると、町のカフェは年金生活者が集まってきます。そして、あっちこっちの席で白熱する政治議論。 ギリシャに行くと本当に政治が身近に感じられます。

2015年1月。民主主義本来を道がギリシャから開かれるのか… 注目に値します。 そして、それを傍観者として見るのではなく、戦後70年を迎える日本の民主主義を考え直すキッカケにもしていく必要がある。そんな思いです。

2014年-午年『馬肉のロースト』

Horsemeat Roast with Blue Cheese-Horseradish Sauce

mslab恒例の”干支のお料理”。20年目の2014年、午年を迎えました。

馬肉料理と言えば熊本の馬刺しに江戸の桜鍋と国内にもいろいろありますが、日本列島だけではありません。旧モンゴロイド系の遊牧民・騎馬民族の文化が及んだ地域には、豊かな馬肉食が残されています。 その中でも、おそらくマジャール人(現在はハンガリーを中心に北ヨーロッパに広く暮らす)を経由して今日のヨーロッパに伝わった馬肉料理のひとつがローストホース(Horsemeat Roast)でしょう。

レシピは、ローストビーフとほぼ同じですが、肝心なのはタラゴン(仏:エストラゴン)を贅沢に使うこと。個人的には、豚肉にはローズマリー、馬肉にはタラゴンと決めています。 独特の甘さと苦さが青草を感じさせるタラゴン。ロシア南部や中央アジアに自生するハーブです。そこは、かつて遊牧民が馬で駆け抜けた地域。タラゴンと馬肉の素晴らしい相性は、偶然ではないのでしょう。

では、少しだけ詳しいレシピを… たこ糸で巻いて形を整えた馬もも肉の塊に、やや強めの塩と胡椒少々、たっぷりの乾燥タラゴンをすり込み、さらに赤ワインとオリーブオイルを加えます。この時に使う赤ワインは、スパイシーな香りがあるテンプラリーニョやシラーが合います。ビニール袋に入れて、半日から1日、冷蔵庫でマリネします。 あとは、フライパンで軽く焼き目を付けてオーブンへ。馬肉の大きさにもよりますが、180℃で30分から40分。焼き上がったら、アルミホイルに包んで30分ほど肉を休ませます。
次はソース。今回は、カナダのグルメサイトで見つけた”ブルーチーズとホースラディッシュのソース”です。生クリームに白ワイン少々を加えてゆっくりと煮詰め、細かく砕いたブルーチーズとすり下ろしたホースラディッシュを加えて一煮立ち。

“Horsemeat Roast with Blue Cheese-Horseradish Sauce”の完成です。
ユーラシアの大地を駆けた遊牧民。乗った馬の乳は馬乳酒となり、必要なときにはその肉も食べました。「馬は乗るものであって、食べるものでない」などというアングロサクソンの気取りとはほど遠い、自然との共生思想がそこにあります。食べてあげることが馬への感謝でもあるのでしょう。 あまりに人工的で不自然な霜降り牛肉に現を抜かす… それが至高の肉食だとしたら寂しいでしょう。筋肉の塊で脂のほとんど無い馬もも肉のローストを噛みしめるとき、草の香りと野の風を少しだけ感じたような気がしました。

2013年-巳年『ワイルドストロベリーのスコーン』

Wild strawberry scone

19回目の「mslab 干支のお料理」をお届けします。

2013年は難関の巳年。12年前は沖縄の海蛇=イラブーで乗りきりましたが、他に蛇がらみの料理や食材はあるのか?

ふと思いついたのが「ヘビイチゴ」。40代・50代以上なら、登下校の途中やハイキングの道すがらなどで、一度は口にしたことのある方も多いのでは。 調べてみると、ヘビイチゴはバラ科の野草で、食べられるがあまり美味しくないとのこと。私たちが子どもの頃、ヘビイチゴと呼んでいたのは、クサイチゴ、モミジイチゴなどの野いちご・木イチゴの類だったようです。 おまけに、名前のルーツをたどると「中国ではヘビイチゴを蛇苺と書き、美味しくないので蛇にでも食べさせればいいと、この名がついたと言われている」などと知ってしまっては、おっ先真っ暗。ヘビイチゴ料理は成立せずか…

諦めかけた時に検索に引っかかってきたのが「エゾヘビイチゴ」。北海道のヘビイチゴだろうと思っていたら、これがまったくの別種。学名は Fragaria vesca。英名はワイルドストロベリー(Wild Strawberry)で、私たちが普段食べている苺(オランダイチゴ)の原種だということが判明しました。これはいける! さっそく、洋菓子材料サイトで探してみると、あるではないか!冷凍のワイルドストロベリーが!セルビア産です。

考えてみたら、ウェッジウッド(Wedgwood)のティーカップの定番と言えば「ワイルドストロベリー」。こうなったら、紅茶と合わせて料理はスコーンしかありません。ジャムも作って添えました。生地に冷凍のままのワイルドストロベリーを混ぜるだけで、あとは通常のスコーンのレシピ通り。ジャムは少しだけ砂糖とレモン汁を加えて5分も煮込めば完成という簡単さでした。

お味は?ワイルドなだけあって、普通の苺より酸味がありますが、それが清々しさを感じさせてくれます。野性味のある美味しいスコーンになりました。

思えば2012年の流行語大賞はスギちゃんの「ワイルドだろぉ」でした。大飯原発の再稼働を強行したのは「ワイルドすぎる首相」といわれた野田佳彦。次の首相は気弱な割りにはワイルドを気取っています。 ワイルドな政治家は危ないだけなのでたくさんです。 一方、私たち自身は、少しワイルドさを取り返して、何か事あれば、噛みつき、叫び続ける必要があるのでしょう。ヘビの執拗さも見習いながら。

ヘビイチゴの甘酸っぱい清々しさが、ワイルドの大切さを思い出させてくれました。

2012年-辰年『龍井蝦仁』

longjing xiaren

2011年が良い年だったと言える人は少ないのではないでしょうか。
学生時代に、曲がりなりにも原子物理学をかじった経験のある私にとって、福島第1の事故は、まさに痛恨。原子力の怖さは知っていたし、いつかは大事故が起きるだろうとは思っていました。そして、実際に起きてしまった… 日本が原発大国になっていくのを傍観していた自分に怒りがこみ上げています。

そんな中で、2012年、MSLABの干支の料理は、『龍井蝦仁(ロンジンシャーレン)』です。龍井とは中国杭州地方名産の緑茶・龍井茶のこと。杭州の名泉・龍井泉は、どんなに干ばつが続いても枯れないことから、泉の奥に龍が棲んでいるという伝説があります。龍井泉附近で作られているのが龍井茶です。

さて、龍井蝦仁。龍の棲む泉と、おめでたい海老が一体となった、ハレの日の料理です。春の新茶の季節には、摘み立ての新芽で作るそうですが、普通は、飲用の茶葉を使います。

レシピにいきましょう。
海老は殻をむき、塩、酒、片栗粉で下味を付けます。この時、重曹を少し加えると、プリプリ感が出て、本格的な仕上がりになります。
龍井茶は茶殻を使うのですが、風味を残したいので、出すのは一煎だけ。この一煎を龍井蝦仁とともに味わうのも格別です。
中華鍋に熱湯を沸騰させ、下味を付けた海老を軽く茹で上げます。次に、にんにくと根生姜を油で炒め、香りが出たら、茹でた海老を投入。塩、紹興酒、鶏ガラスープ、龍井茶を加え、水分がほぼなくなるまで炒めます。
品の良い龍井茶の苦みが効いた逸品の完成です。

考えてみれば、お茶も原発事故でひどい目に合いました。遠く離れた静岡にまで、放射性セシウムが飛散し、それを新茶が取り込んでいた… 元来、お茶はカリウムが豊富な健康飲料です。経験的にそれを知っていた東アジアの人々は、いにしえの昔から愛飲してきました。ところが、茶木は、栄養分のカリウムと間違えて放射性セシウムを取り込んでしまう。このことだけを見ても、原子力が、自然の営み、人間の営みと相容れないのは明らかです。

2012年元旦。今年は、迎春という言葉を使うのを止めました。今、思うのは、春は迎えるものでもなく、待つものでもなく、みずから作り出すしかないのだと。龍井茶の苦みもまた、それを教えているような気がします。

2011年-卯年『兎肉の網焼き』

Lapin grille

Bonne Annee ! フランス語の新年の挨拶で始まる今年は卯年。

うさぎ肉は、最近の日本ではポピュラーな食材ではありませんが、一昔前までは、どこの田舎でも日常的に食べられていた貴重なタンパク源です。今日でも、フランスやスペインなどでは一般的な食材として流通しており、その料理法も多彩。フランス料理の専門書を紐解けば、鞍肉と股肉の料理法の違いはもとより、野うさぎと飼うさぎで異なる料理法があるのに驚かされます。

さて、卯年の料理ですが、馴染みの薄いうさぎ肉の味を知るという原点から発想しました。Lapin grille。うさぎ肉の網焼きです。部位は股肉を使用しました。
塩胡椒してグリルするだけなので、レシピと言うほどの難しさはありません。一点だけコツを挙げるとしたら、焼く前に溶かしバターを全体に塗っておくことです。うさぎ肉の味わいは鶏肉にかなり近いものですが、より弾力があり、脂は少な目です。ですから少ない脂をバターで補い、同時に風味を加えると。
今回は、クレソンソースを添えてみました。青臭い香りが、やや淡泊なうさぎ肉にインパクトを与え、料理としてはたいへんバランスの良い味に仕上がりました。

さて、料理写真をご覧いただければ、皿の後ろに控えめに写るうさぎラベルのワインにお気づきでしょう。フランス・ブルゴーニュ地方の南端、ボージョレ・ヌーボーで有名なボージョレ地区で作られる白ワイン『2009 Beaujolais Blanc eleves en fut』。ぶどう種はシャルドネ100%です。

なぜうさぎのラベル?実は、生産者のニコラ・テスタール氏は自然派農業でぶどう栽培しており、そのぶどう畑には、たくさんのうさぎが生息しているそうなのです。
ヒット漫画『神の雫』を強引に解釈すれば、うさぎがたくさん生息する畑のワインはうさぎ肉と合うはずです!うさぎ料理とワインの新たなマリアージュを極めた自信はありませんが、2009 Beaujolais Blanc eleves en fut の豊かなミネラル感と、青リンゴ系の品の良い果実香、そして、微発泡のピリッとした味わいは、Lapin grille にピッタリだったと報告しておきます。

さてさて2011年、うさぎにあやかった三段跳びで、なにかにつけて白か黒かの二者択一を迫られる狭い価値観を突破して、多様性の中から自分にとっての新しいベストマッチングを探したいものです。

2010年-寅年『虎豆煮』

Toramame-ni

2010年は寅年。一回り前は「虎魚(オコゼ)の造り」でなんとかクリアしましたが、果たして、他に虎がらみの食材や料理はあるのか… かなりの難関でしたが、ありました! 「虎豆」です。さっそく、北海道産のものを仕入れました。

インゲン豆の仲間で、白地に黄褐色の斑模様が特徴。この模様を虎に見立てて虎豆と呼ばれ、美しい豆です。味も上々。煮豆にするとポクポクと歯触りが良く、「煮豆の王様」と呼ばれるほどです。

下処理は、一晩水に浸して十分に膨らませ、戻し汁に少量の塩と重曹を加えて茹でます。味付けは甘煮が王道ですが、シンプルに昆布と塩だけで炊いても美味しいです。よりシンプルに行くなら、茹でたてに塩をまぶしただけの塩虎豆。豆そのものを味わうならこれが一番。上出来の枝豆風味で、お酒のつまみに最高です。

虎豆を味わいながら、「虎穴に入らずんば虎児を得ず」の格言を思い出し、今年は冒険の年とするか、それとも「まめ」に働いて「虎の子」をため込むか(笑)。いやいや、「虎の威を借る狐」にだけはなるまいと自ら戒めるもよし。いずれにしても、虎に絡む名言や格言が古くから伝えられています。2010年は、虎とともに温故知新でしょうか。

2009年-丑年『ヤムヌア』

Yamu nua

2009年は丑年です。「干支のお料理」としては楽勝コース!なのですが、いざ、どこの国のどんな料理にしようかと考え出すときりがなくなってしまいます。

さて、世相を見れば、あいかわらず世界各地で戦火が絶えず、守銭奴たちのマネーゲームが、結局、未曾有(「みぞう」と読みます(笑))の経済危機を引き起こしました。日本でも、何も悪いことをしていない人たちが、次々と路頭に迷う事態に。国によって混乱の形は様々で、「微笑みの国」と言われたタイで、前代未聞の空港占拠封鎖事件が起きたのは記憶に新しいところです。

…というわけで、ちょっと強引ですが「mslab 干支の料理」の結論!「この混迷は、激辛で乗りきるしかない!」。タイでオルターナティブな道を探る人々への連帯の思いも込めて「ヤムヌア」。タイ語でヤムはサラダ、ヌアは牛肉。激辛の牛肉サラダです。

レシピは、まず、牛肉の準備です。牛もも肉の塊をナンプラーと中国醤油(なければ溜醤油)に卸しニンニクを加えた漬け汁に20分ほど漬け込んだ後、焼き網でレアかミディアムに焼き上げます。
野菜は、赤玉葱、トマト、セロリ、胡瓜、細葱、パクチー(香菜)を薄切りや細切りにしておきます。
ドレッシングは、それぞれみじん切りにしたパクチーの根、ニンニク、唐辛子をすり鉢でさらに潰し、ナンプラーとレモン汁、砂糖を加えて出来上がり。
あとは、牛肉と野菜をドレッシングで和えるだけです。

「タイ風牛肉激辛サラダ」とも呼ばれるヤムヌアですが、ドレッシングに加える唐辛子の量で、辛さはいくらでも調整できます。お好みの味に仕上げて、さぁ、ヤムヌアをお召し上がりください。

2008年-子年『海鼠の海鼠腸和え』

Sea cucumber

「mslabの干支のお料理」も二周目。2008年は最大の難関と思われる子年を迎えました。十二年前は「ネズミの糞」という名を持つタイの激辛唐辛子で乗りきりましたが、他に「ねずみ」に関連する料理や食材は…

ありました!ナマコです。英語でSea cucumber、中国語で海参、日本語では海鼠と書くのです。ネズミというには、いささか動きがゆったりとしていますが、海の鼠なのです。

「キモイ」「初めて食べた人の気が知れない」などと、謂われ無き罵詈雑言を浴びせられている海鼠ですが、実は古くから食材として利用されてきました。
中国では、主に干海鼠を食し、滋養、補血、降圧、肥満防止の効用があるとされます。
日本では、何と言っても生食。地方によっては、年末年始の食卓に欠くことのできない料理になります。江戸時代に、雲丹、カラスミと並ぶ三大珍味としてあげられた海鼠腸(コノワタ)は、海鼠の内蔵だけを取り出し塩辛にしたものです。

さて、今年の料理は「海鼠の海鼠腸和え」です。2007年秋に岡山の料理屋で出会い「これは究極の海鼠料理だ!」と叫んでしまいました。いわゆる「とも和え」の部類で、味付けは海鼠腸の塩分だけ。
海鼠酢(二杯酢や三杯酢で海鼠の身を食す)も美味しいものですが、口の中に広がる磯の香りは「海鼠の海鼠腸和え」が圧倒的。特に日本酒にはベストマッチの肴となります。

レシピは、とにかく新鮮な海鼠を手に入れることから始まります。内蔵を取り出し塩を振って塩辛にしますが、さすがに生臭みが強いので、一晩以上は置きたいところです。従って、この一日目の海鼠の身は海鼠酢で頂くことになります。
二日目に、また新鮮な海鼠を手に入れて、この身を前日に作っておいた海鼠腸で和えるわけです。海鼠腸は少量しかありませんから、身の一部だけを使います。シンプルな料理ですが、時間と手間はかかるのです。盛った時に、身よりも海鼠腸が多く見えるくらいでないと「海鼠の海鼠腸和え」の醍醐味は味わえません。

尚、「振り海鼠」と言って、海鼠の身に多めの塩を振って笊をかぶせて揺すり、ぬめりを取ると同時に身を絞める下処理がありますが、この料理に関しては不要です。身が固くなりすぎると海鼠腸との馴染みが悪くなるからです。少量の塩を手にとって、海鼠をこすり、水で洗い流す程度が良いでしょう。

海鼠は素手で触ると、そこから溶けてしまうという、信じられないくらいデリケートな生き物です。だからこそ、太古の昔から、誰にも見つからないように海の底にじっと佇んできたのでしょう。そんな海鼠に温暖化の進む地球の変化はどう見えているのでしょうか… 海鼠が伝えてくれる磯の香りは、すべての生命の母なる海の香りに他なりません。

2007年-亥年『猪肉の炭火焼き』

Grilled Wild Boar

2007年は亥年。
世の中あまり良いことのなかった去年から、今年は猪が時代を切り拓いてくれるのか… 否、猪が何かをしてくれるわけではありません。しかし、ためらうことなく一歩を踏み出す猪の姿からは、少しばかり学ぶところがありそうです。

「踏み出せばその一足が道となり、その一足が道となる。迷わず行けよ。行けばわかるさ」アントニオ猪木

…というワケで、恒例「mslabの干支のお料理」です。地球上で最も美味しい肉=猪肉(少なくともわが家でそう信じられている)を最も美味しく食べる方法は?
それは炭火による塩焼きです。猪肉ならではの旨味とコクを味わうなら、これしかありません。出来るなら備長炭で焼きたい。出来るなら岩塩で味付けを。

「猪肉の炭火焼き」を食べたら、猪鍋は猪肉をたくさん食べ過ぎないための、あるいは、猪肉の出汁で大根を美味しく食べるための知恵でしかないことが舌で、そして身体で分かります。

Simple is the best way.
みずからの道をまっすぐに進むことこそ最強!
猪と「猪肉の炭火焼き」は、私たちに本物の「道」を教えてくれます。

この間、畑を荒らして悪者にされている猪ですが、彼らの生活圏を脅かしてしまったのは、言うまでなく私たちです。特に日本では、野生動物のことなど、まったく考えずに荒っぽい開発が進められてきました。
野生の猪を食べることが、ただちに共存への道を拓くとは思いませんが、猪肉を噛みしめながら、人の営みと自然について思いを馳せることは悪くはないでは…

尚、今回使用の猪肉は、島根県から天然物を仕入れました。

2006年-戌年『狗不理包子』

gou bu li bao zi

2006年は戌年。難関である。 実は、『MSLABの干支のお料理』は2005年の酉年から二巡目に入っています(最初の二年は、もろもろデジタル化が進んでいなかったため記録が残っていない)。1994年の戌年は、ホットドッグでお茶を濁して、まことに不評でした。

さて、2006年。「戌」「犬」「狗」で探し回った挙げ句、たどり着いたのが「狗不理包子」。「犬肉の包子」でもなければ、「犬も振り向かない包子」でもありません。天津名物のちょっと小振りの肉まんです。

狗不理包子の名は、狗子という包子職人の名前に由来しています。
狗子が天津の包子屋に就職したのは14歳、1845年のことでした。狗子の作る包子はとても美味しく大評判に。一心不乱に包子を作り続ける狗子を見て、客たちは「狗子は包子作りに精出して、それ以外の事に一切構わない(不理)」と噂したとか。

「天津に行っても、狗不理包子を食べなければ天津に行ったことにならない」とまで言われる狗不理包子。西太后や毛沢東もその味を愛しました。

さて、レシピですが…
薄力粉とドライイーストを使って、普通の中華饅頭の生地を作ります。餡は、豚肉と長葱だけで、胡麻油と醤油でしっかり味付け。豚肉はひき肉ではなく、包丁で小さめの細切れを作るのが絶対です。今回は、隠し味に腐乳と芝麻醤を使いました。
包むのが難しいかなと思いましたが、まぁ「破けない」というのをOKラインとすれば、何とかなるものです。

一心不乱の集中力が生んだ狗不理包子。百個食べたからといって、雑念や煩悩から脱することができるわけではありませんが、なにやら教訓含みの包子ではあります。