2025年-巳年『坊さんの気絶(トルコ風ヘビナスの詰め物)』

İmambayıldı

Yeni Yılınız Kutlu Olsun 2025!
2025年、新年のご挨拶はトルコ語です。
30回目を迎えた、『MSLABの干支のお料理』。難関の巳年(へび年)です。
2001年は、沖縄の海蛇(イラブー)を使ったイラブシンジー。2013年は、ヘビイチゴ(ワイルドストロベリー)のスコーンでした。
他に、ヘビにちなんだ料理や食材はあるのか? 探しまくった挙げ句にたどり着いたのが、“ヘビナス”。正式名称ではありませんが、長ナスの別称はヘビナスなのです。
熊本産のものを入手することができました。ホントは、もっと細くて長いのが欲しかったのですが、まぁ、ツチノコってことでご容赦を(笑)。

料理は、トルコの茄子の詰め物、パトゥルジャン・イマム・バユルドゥ(İmambayıldı)。日本語訳すると、『坊さんの気絶』というユニークな名前。
パトルジャン(patlıcan)は、「茄子」。イマム・バユルドゥ(İmam bayıldı)で、「イマムが気絶」。“patlıcan”を省略して、単に“İmambayıldı”と呼ばれることが多いようです。
イマム(İmam)は、イスラム教の指導者を指しますが、俗訳で“坊さん”となってるわけです。

料理名の由来は、「あまりの美味しさに坊さんが気絶した」というシンプルなものから、「オリーブオイル商人の娘と結婚した坊さんが、ナスとオリーブオイルの料理に魅入られた。しかし、娘が持参金代わりに持ってきた素晴らしいオリーブオイルが底をついてしまい、坊さんは悲しみから気を失った」というショートストーリー仕立てまであります。

材料は、茄子とオリーブオイルがメインで、詰め物は、玉葱、ニンニク、パプリカ、ニンジンを炒める。乾燥バジル、クミンは欠かせない。
茄子を焼き付けて、縦に切れ目を入れ、詰め物をし、フライパンで蒸し焼きして仕上げるという段取り(オーブンを使ってもよい)。
ちょっとだけ神経を使うのは、茄子を焼くときのオリーブオイルの量。ある程度多くないと茄子の旨味が出てこないし、多すぎると油っぽくなってしまう。そのさじ加減は、1回か2回作ってみると掴めます。
最後に、ハイダリ(ヨーグルトディップ)を添えれば、気分はすっかりトルコに。

当方、神も仏も信じない立場ですが、今回は、『坊さんの気絶』に感激です!
宗教指導者をネタにするのはイイですね。イタリアには、『神父の締め殺し』というパスタがあるそう。料理名ではありませんが、日本でも、「坊主丸儲け」とか「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」なんて言いますし(笑)。宗教に対しては、世俗的であるに越したことはありません。

昨今は、世界中で憎悪が溢れるばかり。すべての宗教が、「異教徒や無神論者を攻撃したり批判してはならない」と定めてくれれば、世の中いくらかよくなるのに…なんて。 甘いか。

【動画(2分15秒)】
https://youtu.be/slo0PMnVngo

2024年-辰年『カルチクッ(太刀魚の韓国風スープ)』

갈치국

MSLAB恒例の干支のお料理、辰年は毎回悩ましいのですが、2024年は太刀魚の韓国風スープ『カルチクッ』にしました。
なぜ太刀魚?
釣り人たちの間では、大きな太刀魚を“ドラゴン”と呼ぶのです!
そう言われてみれば、龍宮城にもいそうです(笑)。

太刀魚料理と言えば済州島(チェジュド)。様々な太刀魚料理がありますが、その代表格が『カルチクッ』。
カルチは갈치(太刀魚)、クッは국(スープ)で、文字通り太刀魚のスープなのです。

材料は、太刀魚の切り身、白菜の若菜(今回は芯取菜を使用)、韓国カボチャ(ズッキーニ・日本カボチャでも可)、にんにく、生唐辛子。味付けは塩、醤油、酒だけとシンプルです。
太刀魚はとても旨味が強いので、その出しだけでもイケますが、昆布の水出しを使うと、より上品に仕上がります。
にんにくはみじん切りをたっぷりと。生唐辛子は風味メインなら切らずに投入。辛さを求めるなら輪切りにして使います。
レシピはシンプルなので、動画をご参照ください。

和食のレシピの中にも、「太刀魚の吸い物」とか「太刀魚の潮汁」といったものがあります。しかしそこは韓国風というか済州島風。にんにくをガツンと利かせてこそカルチクッ。
上品にしてパンチあり!です。

十二支の中で唯一架空の生き物である辰(龍)は、古来、皇帝の権力の象徴。ヤクザ屋さんの入れ墨の重要なモチーフでもあります。
一方、長崎くんちのメインイベントとも言える龍踊(じゃおどり)は、雨乞いの祈りから始まったとされます。日本各地には、龍を平和の象徴として祀る寺社もあります。
どうやら東アジアに暮らす私たちは、龍を変幻自在に活用してきたようです。

第二次世界大戦終結後最大の危機と言われる昨今。世界のあちこちで戦火が収まりません。
強欲と排他・排外によって数万の人たちの命が奪われていく。憂うなというほうが無理です。
そしてドラゴンと言えば、私が大好きなブルース・リー(李小龍)。
「戦うべき敵などいない。それは幻に過ぎない」という名言を残しています。
強欲と 排他・排外が作り上げている幻。それを少しでもかき消す2024年になってほしいものです。

●動画(3分23秒)
https://youtu.be/j_onWyOD9yg

2023年-卯年『兎のビール煮アンデルセン風』

Lapin a l’andersen

やってきた卯年。フランス料理のレシピから兎肉の料理をご紹介します。

Lapin a l’andersen(兎のビール煮アンデルセン風)。
ご存じの通りアンデルセンはデンマークの童話作家。フランス語の料理名に“ビール”が入っていないのは、“andersen”にビールの意味が含まれているからでしょう。
しかし、「アンデルセンは大のビール好きで痛風を患っていた」なんて話は伝わっていません(笑)。

アンデルセンの故郷はデンマークの古都・オーデンセ。デンマークはビール大国でカールスバーグとかツボルグは日本でも手に入ります。
で、オーデンセもまたビールの町。そこで作られているビールの名前も“オーデンセ”。日本で言えば、“サッポロ”とか“ヱビス”の感じでしょうか。
裏取りはありませんが、アンデルセンがビールの町オーデンセ出身なので、“a l’andersen”がビール煮を意味しているのでは… と。

Lapin a l’andersen(兎のビール煮アンデルセン風)のレシピを簡単に紹介しましょう。
今回はフランス産の冷凍兎肉を入手しました。
解凍したら塩を振って、オリーブオイルを熱したフライパンに投入。両面に軽く焼き目を付けます。
別のパン(今回はスキレットを使用)でみじん切りの玉葱を炒め、上にローリエと焼き目の付いた兎肉を乗せます。
そこでビールを大胆に注ぎ込む!
オーデンセは入手できなかったのでカールスバーグを使いました。ワッと立ち上がる泡。漂う麦とホップの香り。
蓋をして30分ほど煮込みます。
最後にシャンピニオンを加え、軽く煮込めば完成。
盛り付けてからドライパセリを振ります。
兎肉は食感としては全身鶏のささ身みたいな感じ。兎肉独特の香りとビールの風味とが深く絡み合う。この料理の醍醐味です。

さてアンデルセンと言えば、『裸の王様』。1837年発表なので180年以上前の作品です。
「批判や反対を受け付けないため、本当の自分がわかっていない権力者」を“裸の王様”に喩えました。
180年を経て、私たちはアンデルセンの辛辣な皮肉を糧にできているのでしょうか?
今や世界は“裸の王様”だらけ。ウクライナで戦争を引き起こした“裸の王様”。その戦争に油を注ぐ“裸の王様”たち。
外国の話だけではありません。日本にも誰も欲していない軍備増強に突っ走る“裸の王様”がいませんか?

忘れてはいけないのは、アンデルセンが童話の中で皮肉ったのは権力者だけではないということ。
王様の取り巻きはもちろん、すべての大人が権力に忖度して裸の王様を褒めあげるのです。
これって身の回りでも見かけませんか?

『裸の王様』のラスト、王様のパレードを見ていた1人の子どもが言います。「あれ?王様は裸だ。なんにも着てないよ。ぼくにはきれいな服は見えないよ。裸だよ」。
忖度のたがが外れた大人たちも口々に、「王様は裸だ!」と叫び始めます。
しかし、哀れ王様はパレードを途中で止めることができず、ジッと前を見つめて裸のまま歩き続けるのです。

180年以上前のアンデルセンの指摘を受けとめて、誰もが、「王様は裸だ」と本当のことを叫ばなくては!
…なんてことを思いながら、2023年を迎えました。

★動画(2分4秒)もアップロードしました。
https://youtu.be/hk5yV6q0KFY

2022年-寅年『シータイガーのピルピル』

Gambas al Pil Pil

なにやらオミクロンな状況で迎えた2022年…と意味不明なフレーズから始めたくもなります。コロナ禍2度目の新年となってしまいました。

2022年は寅年。MSLABの干支の料理にとっては最大とも言える難関です。
1998年は「虎魚(オコゼ)の造り」、2010年は「虎豆煮」。
どちらも頭を振り絞って考え抜いた末でした。果たして寅(虎)がらみ3つ目の料理はあるのか???

ブラックタイガーという海老がスーパーで幅を利かせていることは知ってましたが、養殖だしなぁ~
と思っていたら、シータイガーとかホワイトタイガーと呼ばれる大きめの天然車海老があった!
産地によってオーストラリアタイガーとかインドタイガーとか呼ばれる場合もあります。
おお!インドの猛虎!タイガー・ジェット・シンか!
頭の中に満ちていた虎料理の白い靄が霧散するこの快感!

手に入れたのはシータイガーと銘打たれたちょっと大きめの冷凍海老。さて料理は…
正月とは言え単に海老の塩焼きじゃ…
で思いついたのが、スペイン料理『Gambas al Pil Pil(シータイガーのピルピル)』。

材料は、シータイガー、オリーブオイル、唐辛子、ニンニク、粉末パプリカ、粉末パセリ、生パセリに塩少々のみ。
唐辛子以下は調味料的なものなので、主演=シータイガー、助演=オリーブオイルの世界です。
“Pil Pil(ピルピル)”というのはエビを揚げるときの音からとった料理名。
日本ではアヒージョ(Ajillo)と呼ばれることが多いですが、スペインではアヒージョでもピルピルでも通じるそうです。

調理に使うのはカスエラという耐熱陶器。直火OKで、スペインや南米で日常的に使われる調理用具兼食器です。

レシピをご紹介しましょう。
□ 海老の殻を剥いて背腸を取り除く。
□ カスエラにオリーブオイルを注ぐ(スペイン語のレシピサイトには「“法外な量”のエキストラバージンオリーブオイルを使う」と書いてありました(笑))
□ ニンニク薄切りと唐辛子を低温で揚げ、風味をオリーブオイルに移す(ニンニクは薄切りが最適。丸のままだと風味が出ないし、みじん切りでは焦げやすい)。
□ ニンニクと唐辛子を一旦取り除き、オリーブオイルの温度を上げる。
□ 軽く塩をした海老を投入。すぐに“虎縞模様”が浮かんできます。
□ 「Pil Pil Pil Pil Pil Pil…」という心地よい音が響きます。高い音になってきたら揚がった証拠。ニンニクと唐辛子を戻し、粉末パプリカ、粉末パセリを投入。
□ 火を消して生パセリを飾ったら『Gambas al Pil Pil(シータイガーのピルピル)』の完成です。

海老そのものが美味しいのはもちろんとして、バゲットをちぎってオリーブオイルに漬けて食べ出したら、もう止まりません(笑)。

さてさて今回は冷凍とは言え天然の海老を入手することができました。普段から魚介類は淡水魚と貝類を除いて養殖物には手を出さないようにしています。
天然の淡水魚はベラボーに高い(笑)。貝類は養殖と言っても紐や籠で海中に吊ってるだけだから、まぁイイかと。
一方、天然物の海産魚が今本当に豊富かというと、本マグロの問題があるのはご存じとおり。地球温暖化の影響でこれまでの漁場で穫れなくなっている魚もあります。
漂うマイクロプラスチックと穫れなくなっている魚。人類は結局自分で自分の首を絞めているのでは… と大きな話になってしまいます。
水平線を見ると無限に広く感じる海ですが、もちろん有限。その中でも魚が採れる海域は限られています。
どこかで本格的にブレーキかけないといけませんね。

では、〆はスペイン語で、
!Te deseo un Feliz Ano Nuevo 2022!
2022年が幸せな年になりますように

★動画(2分22秒)もアップロードしました。
https://youtu.be/SAq4nxBsfrs
絵と共にPil Pil音もお楽しみください。

2021年-丑年『ハンギ(マオリ風牛肉と野菜のロースト)』

Hangi:Maori style Roast Beef with Vegetables

世の中大混乱の2020年を引きづったまま2021年へ。
恒例の「MSLABの干支の料理」は丑年を迎えました。

生産時の環境負荷が高い牛肉は、このところ逆風にさらされています。
今後は牛肉の消費量が減っていくのか… 環境負荷の低い飼育法へ移行できるのか… 様々な議論があります。
とは言え、干支の料理ですから牛肉を使うしかありません(笑)。

素材として選んだのはニュージーランドのグラスフェッドビーフ。牧草だけで育てた牛です。
配合飼料を作るための環境負荷はゼロ。本来の餌を食べることでストレスの少ない牛が育ちます。

調理法はニュージーランドの先住民マオリから学びます。
ハンギ(Hangi)という伝統的な料理。地面に掘った穴に焼き石を敷き、その上に大きな葉っぱで包んだ肉や根菜を入れ、土を被せて数時間… というのが本来の調理法。
言ってみれば大地をオーブンとして使う蒸し焼き料理です。
さすがに庭に穴を掘って再現はできないのでスキレットを活用します。

ハンギ(マオリ風牛肉と野菜のロースト)
Hangi: Maori style Roast Beef with Vegetables

簡単にレシピを紹介しましょう。
まず、牛肉塊に少量の塩を擦り込みます(重量比0.5%程度)。強火で熱したスキレットで牛肉に焼き目を付け、一度取り出し…
弱火にしてスキレットにキャベツを敷き詰めます。これで焦げ付きを防止し、蒸すための水分も供給できます。
キャベツの上に牛肉、ジャガイモ、サツマイモ、人参、南瓜、玉葱などを並べます。
その上を濡れ布巾で覆ったあと、蓋をして30分~40分弱火で蒸し焼き。
火を消したら、さらに30分~40分余熱で蒸します。

レシピだけ見るとウエルダンのローストビーフのように感じますが、なぜかホロホロした食感になって美味しいですよ!
語弊有り覚悟で言うと、ちょっとコーンビーフのような口当たりになります。
余計な脂がないグラスフェッドビーフが柔らかく仕上がり、牛肉そのものの味わいを伝えてきます。
味付けは、牛肉に擦り込んだ少量の塩だけですが、野菜は旨味たっぷりに仕上がり、調味料なしで楽しめます。
物足りなければ、多少塩を付けても良いし、バーニャカウダやジャジキ(ギリシャ風ヨーグルトディップ)でも美味しいです。

無人島だったニュージーランドにマオリが渡ってきたのは約1000年前。ヨーロッパ人がやって来たのは17世紀です。
本格的にヨーロッパ人の移住が始まったは18世紀。イギリスのジェームズ・クックが上陸し、イギリス領だと勝手に宣言しました。
入植者と先住民の衝突、マオリの部族間抗争、ヨーロッパからもたらされた伝染病など不幸な歴史がありました。
羊や牛がニュージーランドに入ってきたのも、この頃でしょう。それ以前に、マオリの食文化として野生動物の肉を使ったハンギがあったのかどうか… 今となっては知る由もありません。

イギリスの植民地となったニュージーランド。1864年にマオリに選挙権が認められてますので、アメリカやオーストラリアとは異なる植民地史をたどります(ちなみに、アメリカでネイティブアメリカンに市民権が与えられたのは1924年、オーストラリアでアボリジナルピープルに選挙権が認められたのは1967年)。

今のニュージーランドを見ると、ヨーロッパ系の人々が先住民に敬意を払って暮らしていることが見て取れます(すべてが平等になっているとは言えないのでしょうけど)。
コロナ対策で一躍世界をリードしたアーダーン首相。その内閣の外相はマオリのナナイア・マフタ氏です。ラグビーニュージーランド代表・オールブラックスが国際試合前に踊るハカはマオリ戦士の舞踏をルーツとするのはご存じの通りです。

ニュージーランド産グラスフェッドビーフのハンギ。そのキーワードは“敬意”ですね。
『大地に敬意を払う』
『先住民とその文化に敬意を払う』
『伝統的な調理法に敬意を払う』
そんな思いを抱きながら2021年を迎えました。

● 動画も作成しました(約2分)
https://youtu.be/t58MhHJ_gks

附記:
スキレットを使ったハンギは牛以外の肉でも美味しく作れます。鶏や豚の場合は、ローズマリーとニンニクを加えるのがお薦め。 蒸し焼きの際に肉の上に乗せるだけでOKです。

2020年-子年『女貞子鶏湯(ねずみもちの薬膳スープ)』

Jyoteishi and Chicken Soup

2020年は子年。3周目に入ったMSLABの干支の料理ですが、またまた難関を迎えました。
ウェブや文献などいろいろ調べて、たどり着いたのが、「ネズミモチ」。街路樹として植えられることもあります。
そう言えば、どこかの公園で“ネズミモチ”と書かれた白い札の付いた樹を見た記憶が…
名前は黒っぽい小さな実がネズミの糞に似ていることに由来します。

乾燥させたネズミモチ(正確にはトウネズミモチ)の実は、女貞子(じょていし)と呼ばれる薬膳食材です。
煎じて薬膳茶として飲んだり、スープに使います。
お茶として飲むと少し黒豆に似た味わいで、飲みにくさはありませんが、黒豆ほど美味しくはないかな(笑)。

漢方の五性五味では、「涼・苦甘」に分類され、身体を冷やす働きがあります。
強心、利尿、緩下、強壮、強精薬、解熱剤として古くから用いられてきたようです。
枸杞(平・甘)や桂皮(熱・甘辛)と相性がよく、桂皮、要するにシナモンと合わせると陰陽のバランスが取れるそうです。

さて料理です。
漢方の蒸しスープにしました。中国風に書けば、“女貞子鶏湯”。分かりやすいように、“ねずみもちの薬膳スープ”としました。
材料は、女貞子(ネズミモチ)、桂皮(シナモン)、枸杞(クコ)、紅棗(ナツメ)、骨付き鶏肉、昆布。
骨付き鶏肉は熱湯で軽く霜降りし、その他の材料はそのまま器に投入。水を注いで1時間蒸籠で蒸すのみです。
塩味を付ける必要もなく、滋味深い薬膳スープが完成します。

政治的にも環境問題的にも地球規模で混乱が続く昨今ですが、まずは薬膳スープで心と身体を健全に保つか!と。
人間が自然と対話しながら編み出してきた優しい食材のスープは、いやが上にも、「有限な広さを持つ地球」という原点に立ち戻ることを求めてきます。

短い動画(1分)も作成しました。
こちらからどうぞ。
https://youtu.be/o73IrPzHFiQ

2019年-亥年『猪鍋』

Wild Boar Hot Pot

「勝手に恒例(笑)」となっている<MSLAB 干支の料理>。2019年は猪年です。
過去を振り返ると、1995年はちょっと気取って「猪肉のステーキ・マッシュルームソース」、2007年はワイルドに「猪肉の炭火焼き」でした。
3度目の猪年となる今年は、満を持して、「猪鍋」に挑戦です。

ご紹介するレシピは、「子どもの頃から猪を日常的に食べていた」という、宮崎県出身の友人からの直伝。薄いスライスを牡丹の花のように並べたり、色とりどりの野菜で飾ったりなど、一切ありません。
まずは土鍋に昆布だしと多めの日本酒。焼肉用に切った少し厚手の猪肉を投入したら、アクを丁寧にすくいながら中火で1時間くらい煮込みます。

今回の猪肉は完全な天然物。猟師が罠で獲ったものです。島根県の専門業者から入手しました。
東北や北関東などでも野生の猪が獲れますが、2011年の福島第一原発事故の影響で、この地域の猪からは高濃度の放射性物質が検出されることがあり、ちょっと手を出せません。
猪が、放射性セシウムを蓄積しやすいドングリやタケノコ、キノコなどを好んで食べるせいです。
チェルノブイリ原発事故は1986年でしたが、遠く離れたドイツですら、いまだに放射性物質に汚染されて食用に適さない猪が獲れます。福島第1の影響がいつまで続くのか、気が重くなります。
野生の猪を食べられなくなった住民も可哀想ですが、被ばくした猪が、罹らなくてよい病気になったり、奇形がでたりしているのは間違いありません。
猪にはなんの責任もないのに…

山には放射能汚染された猪、海はプラスチックで一杯。地球温暖化も取り返しのつかないところまで行ってしまうのでは…
私たちは文明社会に生き、 もちろんその恩恵を受けているのですが、「文明ならなんでもかんでもよい」という時代は、とっくのとうに終わっています。明らかに存在する“悪しき文明”ってやつを一つずつ排除していくことが問われているのかな… なんて思ううちに2019年が始まりました。

さて、話を島根産天然猪の猪鍋に戻しましょう。
わが猪師の教えによると、「野菜は大根だけ!味付けは醤油に限る。におい消しに牛蒡なんてとんでもない!せっかくの猪肉の香りが消えてしまう」いうことですが、今回は少しだけアレンジして、少々の葱を加え、味噌味にしました。食べる直前に、春菊かセリを加えてもよいです。
煮込むほどに、なんとも例えようのないよい香りが漂ってきます。豚肉にはない猪肉だけの魅力です。
薬味は一味唐辛子か粉山椒。野趣を大切にしたいなら粉山椒がお薦めです!

今回は、<MSLAB 干支の料理>初となる動画も公開しました。音付きです。お楽しみください。
https://youtu.be/ps7KVoVxB94

2018年-戌年『小豆飯』

Azuki-Meshi

2018年、戌年の幕が開きました。

MSLABの『干支の料理』は、イヌの祖先、狼に奉げます。
『小豆飯(あずきめし)』です。
狼を神として崇める複数の神社(三峯神社・宝登山神社など)で神饌として使われます。

なぜ、狼が神格化されているのか… 『赤頭巾ちゃん』を引くまでもなく、西洋では、狼は家畜や時には人間までも襲う恐ろしい動物として、忌み嫌われてきました。

一方、日本では、オオカミ=大神ですから、月夜の晩に山から聞こえる遠吠えを神の叫びと畏れたのでしょう。
しかし、それだけではありません。農作物を食い荒らす鹿やイノシシ、猿などの害獣を駆除してくれることから、田畑を守る益獣と考えられてきたのです。 小豆飯の米と小豆は、豊穣の象徴でしょう。

小豆飯のレシピはシンプルです。
小豆を下煮して、その煮汁とともにうるち米に混ぜて炊きます。炊くときに塩少々を加えると食べやすくなります。赤飯ほどは美味しくありませんが、素朴な味わいは、不思議な懐かしさを呼び起こしてくれます。

本州、四国、九州に生息していたニホンオオカミは明治末期に絶滅しました。開発による生息域の減少、西洋犬の導入に伴う新たな家畜伝染病の流行、毛皮などを目的とする乱獲等が原因と考えられます。ニホンオオカミが絶滅すると、天敵がいなくなった鹿やイノシシが急増。農作物への被害が拡大しました。 人間の行為が生態系を破壊し、そのつけが人間に回ってくるという悪循環。消えたニホンオオカミはその象徴とも言えるでしょう。

小豆飯を噛みしめるうちに、ローンウルフとなり山野を駆けたい気分になってきました。いやいや、目指すべきは群れる狼か… 狼になりたい!なんて言うと、眉をひそめる向きもあるかも知れませんが、右向け右の羊の群れに身を潜めるのは、もう辟易としてきましたね。

2017年-酉年『タイ風焼き鳥 Gai Yaang』

Thai-Style Grilled Chicken

2017年、酉年がやって来ました!

mslab恒例の“干支の料理”は楽勝!
世界中に鶏料理はあまたありますから。 しかし、あまたある故、その中から何を選ぶか…

“干支の料理”、Web上では22年目ですが、年賀状としては24年目(最初の2年はデジタルデータが残っていない)。
遂に3巡目に入ります。

…というわけで、一度先祖返りではないですが、1993年のわが家の年賀状を飾ったガイ・ヤーンに再挑戦。
タイ東北部名物のバーベキューチキンです。

焼いた(炙った)鶏肉と言えば、焼き鳥かローストチキン、せいぜい、タンドリーチキンしか知らなかった頃、ガイ・ヤーンの美味しさは衝撃的でした。
そのココナツ風味の虜になり、以来、現在に至るまで、タイ料理屋に行くと必ずガイ・ヤーンを注文してしまいます(笑)。

レシピをご紹介しましょう。
勝負はマリネ液の多様性です(笑)。 材料は、ココナツミルク、バイマックルー(コブミカンの葉)、レモングラス、パクチーの根、ニンニク、ナンプラーなど。あと、ウチでは入れませんが、砂糖とかオイスターソースですね。絶対に外したくないのは、バイマックルーとレモングラスで、この2つが入ると、俄然、本格的な味になります。
軽く振り塩をした鶏もも肉をマリネ液に漬け込むこと3時間。魚焼きグリルでじっくり焼き上げれば完成です。
ココナツミルクが焦げやすいので、あくまで弱火で。オーブンを使ってもOKですが、もともとが屋台料理なので、直火の方が雰囲気でしょう。

mslabの“干支の料理”は、3巡目突入を目指して、助走に入りました!まだまだ頑張りますよ!
挑む相手は、人類の食の多様性という大海!とはオーバーですが(笑)。

どうやら世界は、とても不透明で不安定な時代に突入したようです。
1990年代後半から、多様性(diversity)が未来への指針として叫ばれてきましたが、どうやら私たちはそれをいまだ身に付けることができていないようです。
もう一度、多様性を根底から捉え直さなくては… なんて思っています。もちろん、料理の話だけではありません。20178

2016年-申年『猿梨のフルーツサラダ』

Fruit Salad with Actinidia arguta

来てしまった… 申年が! 『mslabの干支のお料理』にとっての最難関です。
12年前は、「ヤマブシタケ=猴頭菇(=テナガザルの頭のような茸)」で乗りきりました。
さぁ、2016年は?

『猿梨』の登場です!
マタタビ科マタタビ属の果樹。東アジア原産で、中国、朝鮮半島、日本列島、シベリアに自生しています。
日本では、本州中部以南の山岳地帯に見られ、野生猿の大好物ということで、猿梨という名前が付いているそうです。
長野県、岐阜県、山形県、香川県などでは栽培もされています。
学名は Actinidia arguta。
英語で、Hardy Kiwi、Baby Kiwi、Cocktail Kiwiと呼ばれるように、形も味もキウイフルーツに似ています。

酸味はキウイよりも強く感じます。 大きさはグッと小さく、2~3cm程度で、果皮は無毛でツルッとしています。 生物学的には、キウイフルーツと親戚ような関係にあります。
ただ、「野生種のキウイ」とか「キウイの原種」と表現するのは間違いで、「猿梨とキウイは同じ先祖から進化した」とするのが正しいようです。

で、思い当たるのが、猿と人類の関係。「人類は猿から進化した」と大雑把に言われることがありますが、正しくは、「人類も猿も同じ先祖から進化した」です。某世界一の強国には、いまだに「人類だけは、1万年位前に神様がガラガラポンしてお造りになった」と信じている人々が何割もいるというのですから、信じられません。
一方、2014年のサッカー・ワールドカップの際に、ネイマールたちが人種差別に反対して叫んだ「オレたちはみんな猿だ!」というメッセージは熱いものがありました。

さて、話を猿梨に戻しましょう。
今回入手したのは、国内で栽培された猿梨。収穫時期が9月から10月頃なので、止むなく冷凍品を入手しました。
生食の他、ジャムにして食べることもできますが、今回は、他の果物と合わせて、フルーツサラダ(フルーツカクテル)にしました。 グレープフルーツ、ブルーベリー、ラズベリー、パイナップル、ドラゴンフルーツを使いました。
ドラゴンフルーツは辰年用に取っておきたかったのですが、ここは彩りを考えて、あえて決断。
フルーツサラダは、柑橘類やパイナップルなど果汁の豊かな材料を加えると、ドレッシング無しで十分に美味しくなります。今回もドレッシング無しです。
さらに、見た目と名前は派手だけど、イマイチ味にインパクトがないドラゴンフルーツに、他の果汁が絡むととても美味しくなるという新発見もありました。 この組み合わせでは、猿梨の酸っぱさが、全体にシャキッとした緊張感をもたらしました。酸味がある分、普通のキウイよりも強く存在感を主張します。

アメリカでも、ヨーロッパでも、そして日本でも、間違いなく人種差別は存在しています。馬鹿げたことから、そろそろ人類は足を洗わないと… 猿梨を食べながら、「We are all monkeys!=オレたちはみんな猿だ!」という素晴らしいメッセージを再び心に刻んでいます。