画面の中での被写体の大きさ 「何かを撮る」「誰かを撮る」ためにビデオカメラを構えたとき、ファインダーやモニターの四角いフレーム中で、被写体をどんな大きさにするかは重大な問題だ。 例えば、笑顔の人物が公園に立っているとしよう。公園にいることを伝えたいなら、人物の全身よりも広いサイズで、風景の中に姿をとらえたい。この時には、残念ながら、人物が笑っているかどうかは定かではなくなる。一方、人物の笑顔に注目したいなら、顔のクローズアップを狙う。表情が実によく見えてくる。しかし、人物が立っている場所がどんな場所なのかはよく分からない。 このように、同じ場所、同じ設定で、被写体が同じ表情を見せていたとしても、サイズの違いによってショットが伝える内容は大きく変わる。逆に言えば、ひとつひとつのショットには、目的(=伝えたい内容)があって、その目的に合ったサイズを選択する必要がある。 サイズには目的がある。 フレームの中での被写体の大きさをサイズと言う。 広い方からいくと、その場所で最も広く撮れるサイズがロングショットだ。ストーリーが展開する地域や物語の舞台となる場所の紹介に適している。主人公をフレームの中に置いても置かなくてもよいが、置いたとしても表情までは読みとれないし、その1ショットだけでは、人物が誰であるかを特定することも難しい。あくまで場所や設定を伝えるためのサイズだ。 人物の全身を収めるのがフルショット。走る、歩くといった全身の動きを伴う場面に使いやすい。人物が誰であるかは特定できるが、細かい表情までは読みとれない。建物や静物に対しても全体が収まるサイズをフルショットという。 膝から上のサイズがニーショット、腰から上がウエストショットとなる。この辺りのサイズをひとまとめにして、ミディアムショットととも呼ぶ。寄れば寄るほど(狭いサイズになればなるほど)人物の表情は見えてくるが、場所や設定は分からなくなる。 胸から上をとらえたサイズをバストショットという。かなり人物の表情が強い印象を持ってくる。しかし、細かい表情を本当に伝えようとしたらバストショットでは不十分だ。 人物の肩から上だけをとらえるのが「人物のクローズアップ」だ。豊かな表情の魅力が余すところなく伝わってくる。 ここで、苦言をひとつ。多くのアマチュアが、人物を撮っていながら、「人物のクローズアップ」を撮れていない。バストショットやウエストショットでクローズアップを撮ったつもりになっている例が多い。今一度、自分が撮り貯めたテープをサイズを意識しながら見直して欲しい。「人物のクローズアップ」は非常に少ないか、皆無なはずだ。人物の魅力の多くは表情から伝わる。その表情を本当にとらえられるのはクローズアップだけだ。肩から上のクローズアップを撮れるようになれば、それだけで映像全体に何倍もの力が備わるはずだ。 人物に対するサイズは、さらに顔の上下が切れるクローズアップ、目だけのクローズアップと寄っていくことが出来るが、ここまでくるとあまりに強い印象になるので、明確な目的がある場合にしか用いない。 大ロングを撮ろう! もう一度広いサイズの話に戻るが、映像業界用語で大ロングというのがある。ストーリーが展開する地域全体を高いところから思いきり広く撮ったショットだ。山村なら峠の山道から、都会ならビルの屋上から、ということになる。ひとつのビデオの中にたった一回、7〜8秒使うだけだが、大ロングがあるのとないのとでは、大きく印象が違う。大ロング、たった1カットで、見る側は、空間的広がりを実感できる。メインタイトルのタイトルバックやラストカットに使うが一番だ。 大ロングを撮るためには、車で30分も走ったり、長い階段を歩いて上らなくてはいけなかったりということも多い。しかし、たかが1カット、たかが7〜8秒と馬鹿にしないで、大ロングのために時間と労力をさいて欲しい。ビデオが完成したときに、その力は必ず実感できるはずだ。 屋外では広いサイズばかり!? 初心者のビデオを見ると屋外では、ロングショットとフルショットばかり、屋内ではミディアムショットばかりという例に出会うことが多い。 屋外で広いサイズばかりになっているのは、撮る側が、すべてのショットに場所的な説明がないと不安になっているからだ。しかし、これでは何の緊張感も伝わってこない。言うまでもないことだが、ビデオ映像は必ず複数のカットで構成される。堅苦しく言うと、ひとつのシーンの中でも、それぞれのカットに、場所の説明、人物の表情の伝達、といった役割を負わせることになる。場所的説明を行うロングショットは1シーンに1カットあれば充分に目的を果たす。あとは、ミディアムショットやクローズアップ系のショットを積み重ねていくべきだ。説明的なショットは出来るだけ少なくして、被写体の魅力を伝えるショットを多く使うのがビデオ作りの鉄則だ。 屋外では広いサイズばかり!? 例えば、新宿新都心を歩く人物を撮ってみよう。フルショットとロングショットの積み重ねでは、風景の印象しか残らないし、それも迫力に欠ける。高層ビルを背景にしたフルショット、バストショット、顔のクローズアップに、ビルの造形のクローズアップなどを織りまぜて、最後に新都心のロングショットへとつなげば、人物の魅力も、建築物の造形の美しさも、新都心全体の近未来的印象も、すべて緊張感を持って伝えることが出来る。このように、ひとつのシーンを様々なサイズで撮ることによってこそビデオの映像は、その力を十二分に発揮する。ひとつひとつのショットの目的、つまり、「何を撮りたいのか」「何を伝えたいのか」を明確にして撮影に臨む必要がある。こう述べてくると、スタートスイッチを押す指が縮こまってしまいそうだが、勘違いしないで欲しい。ショットの目的は、じっくり考えた末に出来上がるものばかりではない。瞬間的な思いつき、ひらめきも大切にして欲しい。被写体に魅力を感じた瞬間に、その魅力を最も適切に伝えるサイズを選択できることが理想なのだ。 屋内ではミディアムショットばかり!? 話を戻そう。初心者が屋内でミディアムショットばかりを撮ってしまうのは、一言で言うと楽をしているからだ。まず、屋内のロングショットは努力をしないと撮れないものだと心得よう。6畳の部屋は、普通の撮り方では一番広く撮っても3畳か4畳分しか写らない。これでは、部屋全体の状況は見る側に伝わらない。仮にパンして見せたとしても、苦し紛れでしかない。では、いかにして狭い部屋の全体を見せるのか。ひとつは俯瞰だ。椅子の上に乗っただけでも、大分、部屋全体が見えてくる。もうひとつは、ドアや障子を開けて、カメラを部屋の外に構える方法がある。もちろん、障子やドアをフレームの中に入れてはいけない。これは、初心者にはなかなか思いつかないテクニックだが、まったく違和感なく部屋の中で撮ったショットに見える。屋内撮影では、少し知恵を絞ってロングショットを撮る必要がある。 撮影現場で 実際の撮影に臨むとき、どのようにサイズを意識すればよいのだろうか。 まず、ロングショットはひとつのシーンに対して1〜2カットあれば良いのだから、場所全体が見渡せて、かつ良い構図が作れる場所をじっくりと探すことだ。もし、ひとつの撮影場所で、あなたが5つも6つもロングショットを撮っているとした、それらはどれも良いショットになっていないはずだ。厳しい言い方かも知れないが、じっくりとカメラポジションを探した上でしか、優れたロングショットは撮れない。フィックスのロングショットであれば、NGなしの一発OKだから、カメラポジションの選択とフレーミングにじっくりと時間をかけて欲しい。 あとは、ミディアムショットやクローズアップを撮りまくることだ。特に、被写体が人物の場合は、動きをフォローすることが多いので、NGショットも多く出る。また、待ちかまえていても笑顔が出なかった、というようなNGもある。人物に対しては、サイズが寄れば寄るほどNG発生の確率が高くなるが、恐れずに大胆に取り組みたい。 …というわけで、実際の撮影現場においても、ロングショットとクローズアップ系のショットでは、撮るときの心構えまで違ってくる。ロングショットについては、あらかじめカメラポジションを決めておいて、最善のタイミングを見て、納得のいくフレーミングで撮ることが大事だ。 クローズアップに関しては、とにかく被写体をよく見て、NGを恐れずにチャレンジすることだ。クローズアップの詳しい解説は、次号に。
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