まず、テーマやストーリーを決めよう! 初めてビデオカメラを手にする時、あなたは一体、何から撮りはじめるのだろう? 家族の姿… 庭先に咲く花々… ペットの犬や猫の姿… 公園で遊ぶ子供達… 手軽に撮れるもの、撮りたいものは身の回りに溢れている。しかし、一通り撮って見直してみると、物足りなさが自分でも判ってくる。花があって、犬がいて、子供がいて… という積み重ねでは、その映像で「何を見せたいのか」「何を伝えたいのか」が判らない。映像にストーリーやテーマが無いからだ。 自分の身の回りをあれもこれも撮っただけでは、ビデオ映像は一つの表現や作品となりえない! 写真や絵画だったら、1ショットや1枚で立派な作品と呼ぶことが出来る。しかし、ビデオによって作られる作品は、必ず複数のショットから構成されていて、そこにはストーリーやテーマが必要。写真と決定的に違うところだ。 一つ一つのショットについて、どう撮るかをよく考えることは必要だ。しかし、とりあえずそれは後回しにしよう。まず、作品のためのテーマやストーリーを練らなくてはいけない。例えば、庭先に咲く素晴らしく美しい花のクローズアップが1ショットだけ撮れても、それがストーリー上で見せられなければ、悲しいかな、まったく意味をなさないのだ。 題材はどこに? テーマやストーリーがないとビデオは撮ってはいけないのか? 撮ってはいけない!と断言する。しかし、安心して欲しい。テーマやストーリーを決めることは、少しも難しいことではないし、大したことでもない。落ちついて自分の周りを見回せば、素晴らしい作品に出来る題材が、たくさん溢れていることに気がつくはずだ。 例えば、台所に目を向けてみよう。一つの料理が作られる過程だって立派なビデオ作品に出来る。新鮮な野菜を水洗いして、包丁で切って、炒めて、煮て… 人物は手先だけの登場で充分だ。新鮮な野菜が料理に変化していく過程を出来上がりまで、つぶさに撮影していけば、そこに素晴らしいストーリーが見えてくる。 自分が住んでいる町の一日を追ってみよう。早起きをして、日の出から撮影だ。次に来るのは、犬の散歩や子供たちの登校風景など朝の場面。午前中には、あちこちのベランダや庭に白い洗濯物が干され、風にたなびく。公園にはお母さんと子供の姿がある。お昼時、肉屋さんに美味しいコロッケを求める行列が出来るのか、ピザのデリバリーバイクが走るのか… 夕方には、商店街に買い物客が溢れる。ラストカットは、夕焼けを背景に、町の大ロングを撮りたい。一日の中で、刻々と変化する町の表情を丹念に、優しい視点で撮っていくのみ。世界中であなたの町にしかない素晴らしいストーリーが浮かび上がる。 イベントの撮影で注意すること。 実際、ビデオカメラを手にすると、テーマやストーリーが先にある撮影の機会も多いものだ。入学式、結婚式、運動会、ピアノの発表会といったイベントだ。こういった撮影は、ストーリーが先にある分、楽だとも言える。順を追って撮っていくだけでも、とりあえず話は伝わるからだ。それは、そのイベント自体がストーリー性を持っているからだ。しかし、流れに任せるだけで撮っていくと、これもまた、面白い作品には仕上がらないものだ。 ポイントは二つある。 一つは、「何から始めるのか」「何で終わるのか」を決めておくこと。 トップシーンとラストシーンを決めておこう、という話だ。結婚式の記録ビデオのトップシーンが、何の変哲もない受け付けの場面では、いかにも寂しい。いきなりケーキカットのナイフのクローズアップから入っても良いはずだ。ラストシーンが三々五々披露宴会場から去る人々の姿というのもいただけない。例えば、新郎新婦に向けた友人達の一言シリーズで締めくくる手もあるはずだ。 もちろん、トップシーンもラストシーンも撮影が終了してから、もう一度考え直す必要があるのだが、とりあえず撮影前に目論見だけは決めておかないと、上手くいかないものだ。 もう一つのポイントは、主役を意識すること。これが、出来そうで出来ない。 結婚式ビデオで参加者全員を撮ろうと思うあまり、新郎新婦の影が薄くなってしまった… 運動会で自分の子供が出場しない競技や演技を撮りすぎて散漫な作品になってしまった… こんな失敗を経験した人も多いはずだ。主役のいるイベントでは、とにかく主役の動きを中心に撮影すること。他のものは、全て主役を引き立てるためのものだと割り切ろう。もちろん、披露宴の参加者も主役の出ない運動会の競技も、撮っておかなくては作品はまとまらないのだが、必要以上に撮ることはない。主役を意識して撮影に臨む。これは、肝に銘じて欲しい。 テーマに沿って… いくらストーリーを決めておいても、いざ撮影に臨むと、色々なものに目を奪われがちだ。しかし、心を鬼にしないと失敗が待っている。 例えば、東京で唯一残る都電、荒川線の沿線を追う作品を考えてみよう。 早稲田から行くと、雑司ヶ谷霊園、鬼子母神、飛鳥山公園、荒川遊園と続く。こういった名所旧跡の紹介に、都電が走るシーンを織りまぜていけば、東京の旧き良き時代をなつかしく思い出させる素晴らしい作品になるはずだ。ところが、道路を走る派手なスポーツカーに目を奪われて、思わず撮ってしまったり、撮影途中に立ち寄ったファーストフード店を撮ったりしていると、作品は台無しになっていく。せっかくのテーマやストーリーに反するものが一つでも入り込むと、作品は成立しないと考えて欲しい。テーマを決めたら余計なものには目もくれずにいこう! テーマがあってこそ撮影テクニックが生きる! 小さくて、とても使いやすいビデオカメラが主役となった今、誰でも、テーマやストーリーを意識しさえすれば、簡単にビデオ作品が作れるようになった。しかし、ただ漫然と撮っていくだけでは、見るに耐えるビデオ作品は絶対に出来上がらないことも事実だ。 ストーリーやテーマを絞り込む… ビデオ作品を作るための大きな第一歩だ。難しいことはない。狙いを決めたら、余計なものは撮らないこと。ここから全てが始まる。その中で、基礎的な撮影テクニックを十分に力を発揮出来れば、あなたはハイアマチュアの一人と自負して大丈夫だ。 本連載では、次号以降、ビデオカメラを手にして日の浅い人を対象に、基礎的な撮影テクニックを紹介していく。既に中級以上のレベルにある人も、復習のつもりでご一読願いたい。必ず参考になると思う。 乞うご期待!
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