クローズアップで決める!

サイズの中でも特にクローズアップに注目しよう。最初に言ってしまうと、クローズアップはビデオの中で非常に重要な役割を果たす。これを上手く撮れるかどうかが作品の出来不出来に大きく影響すると言っても過言ではない。逆に、クローズアップをしっかり撮れるようになれば、もう、あなたは、入門者レベルを脱してハイアマチュアの仲間入りをしたと自負してよい。それくらいビデオにとってクローズアップは重要だ。

人物のクローズアップは肩から上

人物に対するクローズアップとは、顔を中心に肩から上を撮ったサイズのことだ。このことをしっかり意識して、とりあえず自分の家族や親しい友人の顔を撮ってみよう。まず、ファインダーの中で、相手の顔があまりに大きいのに驚いてしまうだろう。実際、「肩から上」は、かなり寄ったサイズだ。しかし、ここでたじろいではいけない。ビデオの映像で人物の細かい表情を伝えようと思ったら、どうしてもこのサイズが必要だ。クローズアップで見えてくる細やかな表情には被写体の魅力が一杯詰まっている。

写真や絵画で、人物のプロフィールとか肖像とか言う場合には、ビデオで言うバストサイズを指す。このサイズが、ビデオのクローズアップの役割を果たす。つまり、ビデオのクローズアップは、写真や絵画のそれよりも寄ったサイズ(被写体を大きくとらえたサイズ)になる。何故か?それは、ビデオの映像が限られた時間しか見ていられないものだからだ。写真や絵画だったら、観る側は自分が満足するまで、いつまででも観ていられる。しかしビデオでは、ワンカットの長さは作る側によって決められている。だからこそ、限られた長さの中で、しっかり表情の印象を伝えられるサイズが必要になる。


物に対するクローズアップ

静物に対したときも、基本的には人物の場合と同じだ。とにかく、普段見ているのとは印象が違うものが見えてくるまで、被写体をフレームの中で大きくしよう。

例えば、チューリップの花に寄っていくと、花全体がフレームに収まるサイズが「普通のクローズアップ」だ。花びらの形状などが、印象深いものとして見えてくる。しかし、ここで留まらずに、花の中まで寄ってみよう。雄しべや雌しべの造形、あるいは生命の息吹までまでが、しっかりと見えてくる。肉眼でチューリップをここまで見つめることは、まずないだろう。ビデオカメラを手にしていればこそ、とらえられる被写体の魅力だ。

美しい文様が施された器を撮ってみよう。何もこだわらずに撮っていると、器全体が画面一杯になったサイズ(器のフルショット)までしか寄ることが出来ない。しかし、「普段見ていないものまで見てやる!」という心意気があれば、必ず文様のクローズアップを撮れる。器に施された名人芸の筆先のニュアンスまでが伝わってくるはずだ。


普段見えない世界だからこそ興味深い

被写体が人物であっても静物であっても、クローズアップを撮るときの心構えは同じだ。とにかく、見慣れない世界が見えてくるまで寄ること。クローズアップが表現するのは、非日常的な世界だ。 「見たままを撮って、見たままを伝えるのがビデオだ」という言い方もあるが、これではビデオの表現力を半分も使ったことにならない。ビデオカメラを持っていたからこそ、あなただけが味わえた臨場感や緊張感を見る人に目一杯伝えることを考えて欲しい。


ワイドで撮るか、望遠で撮るか

「クローズアップは望遠で」というのがオーソドックスな考え方。すなわち、「レンズで寄る」方法だ。

もうひとつ、ビデオカメラでのクローズアップの撮り方に、「カメラで寄る」方法がある。つまり、カメラを被写体に近づけて、ワイドレンズでクローズアップを撮る。広いところを撮るためのワイドレンズで、無理してクローズアップを撮らなくても…と考える人も多いと思うが、ワイドと望遠とでは、同じ被写体のクローズアップでも、まったく違う印象を伝えてくる。

ワイドのクローズアップには、被写体に近づいたという文句なしの迫力がある。また、クローズアップを撮りながら、回りの様子を伝えることが出来るのもワイドならでは。クローズアップに状況描写の要素を含めることが出来る。一方、遠近感が強調されるので、誇張した表現になるとか、主観的な印象が強い、といった欠点もある。

ワイドと望遠のクローズアップで、どちらかが優れているという評価をする必要はない。目的と好みに応じて使い分けるのみだ。ただ、あなたが今まで、「クローズアップは望遠で」という固定観念にとらわれて撮影に取り組んできていたとしたら、一度、ワイドのクローズアップに挑んで欲しい。ワイドが、広い場所を広く撮るためだけのレンズではないことに気が付くはずだ。


風景の中のクローズアップ

風景の撮影というと、どうしてもロングショット一点張りになりがちだ。しかし、ここでもクローズアップが力を発揮する。景色が見せる何気ない表情を見落とさないで欲しい。例えば、水面の波紋、芽吹き始めた樹木の新芽、風に揺れる葉…それぞれのクローズアップをワンカットだけで見ると撮影場所を特定することもできないものだ。しかし、ロングショットと組み合わせることで、季節感など風景が持つニュアンスを実に良く伝えてくれる。

素晴らしい風景を見たときのあなたの気持ちを少しでも映像に込めようと思ったら、その場所で、あなたが気に入ったものをクローズアップで撮っておくことだ。心象風景を伝えようと思ったら、ロングショットだけでは不十分だ。


見慣れないものが見えてきたら一歩前へ!

長年生活を共にしてきた家族の顔であっても、しっかりとしたクローズアップで撮ると、新たな表情を必ず発見できる。普段は相手の顔などしっかり見ていないのかも知れない、などと改めて思い直すくらいだ。しかし、だからこそクローズアップは面白い!

いつも身の回りにある何かをクローズアップで撮ってみよう。今まで気が付かなかった魅力をきっと発見するだろう。この時に、たじろいで一歩引くようでは駄目だ。優れたクローズアップを撮るためには、「見慣れないものが見えてきたら、一歩前へ!」という心構えが大事だ。決して、驚くな!たじろぐな!ということ。ビデオにおいて被写体の魅力を伝える役割の多くをクローズアップが担っている。また、あなた自身の発見と感動を第三者に伝えるのもクローズアップにしか出来ないことだ。

自信を持って被写体に迫ろう!

コラム: 映画のクローズアップとビデオのクローズアップ

ビデオと映画は、どちらも動画を取り扱うメディアだ。しかし、両者では、クローズアップの意識のされ方に若干の違いがある。一言で言うと、ビデオ(テレビも含めて)の方が、クローズアップが多いし、多くする必要がある。これは、わざわざ出かけた映画館の暗闇の中で見る映画と家庭の明るい環境にあるテレビ画面で見るビデオでは、観る側の集中度が決定的に違うからだ。

映画は暗いところでじっくり見るので、ビデオよりクローズアップが少なくても、観る側は画面に集中できる。

逆に、ビデオは、明るいところで鑑賞される分、瞬間的には、映画以上に見る側を引きる魅力を持っていなくてはならない。従って、ビデオの方が映画よりもクローズアップを多用する。あくまで一般論だが…

ビデオテクニック講座・初級編